クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ(Ravel:Valses nobles et sentimentales)

アンドレ・クリュイタンス指揮 フランス国立放送管弦楽団 1954年5月11日録音(Andre Cluytens:Orchestre National de l'ORTF Recorded on May 11, 1954)





Ravel:Valses nobles et sentimentales [1.Modere]

Ravel:Valses nobles et sentimentales [2.Assez lent]

Ravel:Valses nobles et sentimentales [3.Modere]

Ravel:Valses nobles et sentimentales [4.Assez anime]

Ravel:Valses nobles et sentimentales [5.Presque lent]

Ravel:Valses nobles et sentimentales [6.Assez vif]

Ravel:Valses nobles et sentimentales [7.Moins vif]

Ravel:Valses nobles et sentimentales [8.Epilogue: Lent]


シューベルトをイメージしたようです

「高雅で感傷的なワルツ」というタイトルはラヴェル自身が語っているようにシューベルを意識したものです。シューベルトの「高貴なワルツ」や「34の感傷的なワルツ」が意識されていることは間違いありません。

オーケストラ用に編曲してバレエ曲に仕立てたときも「王政復古期、男心をまどわせる美女の客間」という設定を与えているように、この作品は一見すると回顧趣味に彩られているように見えます。
しかし、回顧趣味に見えるのは表面だけの話で、実際の「音」を耳にすると、その響きという点では実に斬新です。

私は和声の難しいことは分かりませんが、ラヴェルの商標とまで言われた長7度の幻想的な響きがあちこちで聞かれますし、「寒そうに肩をすぼめた羞恥心」と言われた2度の響きもあちこちに散りばめられています。
そこへ、中庸の速さで・・・なんて注意書きをされたりしているので、何だか曲によっては単調な音楽のように聞こえたりします。そう言えば、コルトーがこの作品について「レントラーの連続」と評した事にも納得がいくします。
個人的にはいささか取っつきにくさを感じる作品ではあります。

なお、この作品は8つの曲で構成されているのですが、それぞれが連続して切れ目なしに演奏されます。ただし、個々の曲の性格ははっきりしているので、連続した一つの曲のように聞こえることはありません。

  1. Modere - tres franc(中庸の速さで)

  2. Assez lent - avec une expression intense(十分緩やかに)

  3. Modere(中庸の速さで)

  4. Assez anime(十分に生き生きと)

  5. Presque lent - dans un sentiment intime(ほとんど緩やかに)

  6. Vif(十分活発に)

  7. Moins vif(活発さを感じて)

  8. Epilogue - lent(エピローグ 緩やかに)



モノラル時代の録音があったとは・・・。


クリュイタンスのラヴェル録音と言えば61年から62年にかけてまとめて録音したものが思い浮かびます。あの録音は英コロンビアはが4枚セットの箱入りとして発売したのですが、この初期盤は音の素晴らしさもあって今ではとんでもない貴重品となっているようです。
しかし、あの録音には、今となってはいろいろとエクスキューズがつくようになっています。

そのエクスキューズとは何かと言えば、「オケが下手すぎる」に尽きます。
例えば、歴史的名演と言われる「ボレロ」などを聞けばすぐに気がつくのですが、管楽器があちこちで音を外しています。酷いのになると「酔ったオジチャンが、ろれつがまわっていない」という極めて的確な評価が下されていたりします。
そうなんです、昨今の演奏と録音になれてしまった耳からすればあまりにも緩いのです。

しかし、そこにはフランスのオケが持っているかけがえのない美質と、宿命的に背負わざる得ない弱点が表裏一体になっていました。

フランスのオケというのは、プレーヤー一人一人の腕は確かです。しかし、彼らはその腕を全体のために奉仕するという気はあまり持ち合わせていません。
ですから、リハーサルをしっかりと積み上げて縦のラインをキチンと揃えることにはあまり興味を持っていませんし、そもそもそう言うことに価値を感じないのです。さらに言えば、現在でもフランスのオケのプレーヤーは事前にスコアに目を通すような「面倒くさい」事はやらないようで、慣れていない曲をやるときは変なところで飛び出したりしてもあまり気にしないそうです。

素晴らしい響きで演奏してくれる対価としてアンサンブルの緩さが避けられないというこの二律背反の中にあって、絶妙なバランスでラヴェルを録音したのが件の4枚組セットであり、それはクリュイタンス以外には到底為し得ないわざだったのです。
クリュイタンスという人はそう言うオケの気質を知り尽くして、それをコントロールする術を身につけた人でした。
俺が俺がと前に出たがる管楽器奏者を自由に泳がせながら、それをギリギリのラインで一つにまとめていく腕と懐の深さを持っていました。
結果として、トンデモ演奏になる一歩手前で踏ん張りながら、そう言うフランスのオケならではの美質があふれた演奏を実現できました。

そんなクリュイタンスに、50年代前半にモノラルで録音したラヴェルがあったことに最近気づきとても驚かされました。
そして、その素晴らしさに驚くとともに、新しいものが出てくれば過去の古いものは捨てられてしまうと言うこの業界の罪深さを思わずにはおれませんでした。

モノラル録音で注目すべきは、オーケストラがコンセルヴァトワールのオケではなくて、フランス国立放送管弦楽団だということです。これは非常に大きな意味を持ちます。
それは、フランス国立放送管弦楽団がコンセルヴァトワールのように最初から合わせることに意義を見いださないというオケとはその性質を大きく違えていることです。
それはそうでしょう。
フランス国立放送管弦楽団はその名の通りフランスラジオ放送(RDF)専属のオーケストラとして創立された楽団で、幅広いレパートリーに挑戦する必要のあるオケでした。
ですから、最初から合わせることに意味を感じないというオケではありません。しかも、歴代の指揮者がフランス音楽を得意とした事もあって、フランスのオケならではの色気も色濃く持っています。

アンサンブル的に見れば、疑いもなく60年代のコンセルヴァトワールよりははるかに優れています。おそらく、難点はステレオではなくてモノラル録音だということくらいなのでしょうが、ラヴェルの管弦楽作品にってはその差は小さくありません。
しかし、モノラル録音としては申し分のないクオリティは持っています。そして、スイスの時計職人とよばれたラヴェルの精緻なオーケストレーションを味わうには不足はありません。何といっても、オケの響きそのものがコンセルヴァトワールよりははるかに精緻だからです。

いやはや、おそらく知っている人から見れば今さら何を言っているんだと言うところなのでしょうが、こういう埋もれた録音を発掘して紹介できるのはこういうサイト運営しているもにとっての一番の醍醐味です。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-09-19]

ハイドン:交響曲第94番 ト長調 Hob.I:94 「驚愕」(Haydn:Symphony No.94 in G major, Hob.I:94)
アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1950年4月5日&7日録音(Andre Cluytens:Paris Conservatory Concert Society Orchestra Recorded on April 5&7, 1950)

[2024-09-17]

ヨハン・シュトラウス:ワルツ「春の声」,op.410(Johann Strauss:Voices of Spring Op.410)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-09-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第13番 ニ短調 K.173(Mozart:String Quartet No.13 in D minor, K.17)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-09-13]

ハイドン:弦楽四重奏曲 ヘ短調, Op.20, No.4, Hob.3:34(Haydn:String Quartet No.27 in D major, Op.20, No.4, Hob.3:34)
Pro Arte String Quartet]Recorded on November 18, 1935(プロ・アルテ弦楽四重奏団:1935年11月18日録音)

[2024-09-10]

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調, Op.83(Brahms:Piano Concerto No.2 in B-flat major, Op.83)
(P)ゲザ・アンダ:フェレンツ・フリッチャイ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1960年5月9日~12日録音(Geza Anda:(Con)Ferenc Fricsay Berliner Philharmonisches Orchester Recorded on May 9-12, 1960)

[2024-09-08]

タルティーニ:悪魔のトリル(ヴュータン編)(Tartini:Violin Sonata in G minor, "Le trille du diable"(Arr.Vieuxtemps)
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(Vn)フランコ・ノヴェロ エンニオ・ジェレッリ指揮 RAIトリノ交響楽団 1956年録音(Vasa Prihoda:(Vn)Franco Novello (Con)Ennio Gerelli Orchestra Sinfonica Nazionale della RAI Recorded on 1956)

[2024-09-06]

グリーグ:ピアノ・ソナタ ホ短調, op.7(Grieg:Piano Sonata in E minor, Op.7)
(P)アルド・チッコリーニ:1964年12月28日~29日録音(Aldo Ciccolini:Recorded on December 28-29, 1964)

[2024-09-04]

ハイドン:交響曲第96番ニ長調 「奇蹟」(Haydn:Symphony No.96 in D major Hob.I:96 "The Miracle")
アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1955年10月9日~10日録音(Andre Cluytens:Orchestre de la Societe des Concerts du Conservatoire Recorded on June 9-10, 1955)

[2024-09-02]

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第12番 変ロ長調 K.172(Mozart:String Quartet No.12 in B-flat major, K.172)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-08-31]

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216(Mozart:Violin Concerto No.3 in G major, K.216)
(Vn)レオニード・コーガン:オットー・アッカーマン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1956年録音(Leonid Kogan:(Con)Otto Ackermann Philharmonia Orchestra Recorded on 1955)

?>