R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」, Op.30
カール・シューリヒト指揮:シュトゥットガルト放送交響楽団 1953年12月4日録音
Richard Strauss:Also Sprach Zarathustra - Symphonic poem for Orchestra Op.30
冒頭部分があまりにも有名です
これはタイトルの通り、ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」に影響を受けて創作された交響詩です。
とにかく冒頭の、「太陽をクレーンで吊り上げる」と形容された部分が「2001年宇宙の旅」で使われてすっかり有名になりました。私の職場で、同僚から「2001年宇宙の旅のCDを貸してほしい」と頼まれたので、「あー、ツァラトゥストラはかく語りきだね」と答えると、「そんな曲じゃなくて、2001年宇宙の旅ですよ!!」という感じで全く話がかみ合わなかったことがありました。
ややこしいので、「はいはい!」と言って後日CDを手渡したのですが、それでも彼は「2001年宇宙の旅の後ろに、訳のわかんない音楽が延々と続いている!」とのたまっておりました。
まあ、それくらい、この冒頭部分は有名です。
ちなみに、全体の構成はあの有名な冒頭部分(導入部)を含めて以下の9つに分かれています。
1. Einleitung (導入部)
2. Von den Hinterweltlern (世界の背後を説く者について)
3. Von der grosen sehnsucht (大いなる憧れについて)
4. Von den Freuden und Leidenschaften (喜びと情熱について)
5. Das Grablied (墓場の歌)
6. Von der Wissenschaft (学問について)
7. Der Genesende (病より癒え行く者)
8. Das Tanzlied (舞踏の歌)
9. Nachtwandlerlied (夜の流離い人の歌)
作品はニーチェの「超人思想」に深く共感したと言うよりは、ニーチェの著作から気に入った部分を抜粋して音楽的に表現したエッセイみたいな雰囲気の作品と言った方がいいのかもしれません。作品全体が一つの統一感のもとにまとめられていると言うよりは、次々と風景が変わっていくような風情を楽しめば、「訳のわかんない音楽が延々と続く」のも我慢できるかもしれません。
それと響きのゴージャスな事!!
あまり難しいことを考えずに、エンターテイメント的に楽しむ音楽なのでしょうね。
細部の細部までクリア
シューリヒトによるリヒャルト・シュトラウスの録音はそれほど多くはないような気がします。
考えてみれば、リヒャルト・シュトラウスはオペラの人であり、交響詩もまた「オーケストラによるオペラ」と言うべき世界でした。それに対して、シューリヒトはヨーロッパの指揮者としては異例なほどにオペラとの縁がほとんどなかった指揮者でした。シューリヒトはその事を晩年には随分と悔やんでいたそうですが、彼の指揮者としての人生は骨の髄までコンサート指揮者でした。
そう言う意味では、両者はそれほど相性が良いとは言えなかったのかもしれません。
それだけに、戦後に「アルプス交響曲」と「ツァラトゥストラはかく語りき」という二つの大作を録音してくれていたことは幸いなことでした。最初はライブ録音かと思ったのですが環境雑音がないので、おそらくは放送用録音だったと推察されます。
そして、それを聞いてみて、あらためてシューリヒトはオペラの人ではなかったんだなと再確認した次第です。
それは、言葉をかえれば、「オーケストラによるオペラ」と言うべきシュトラウスの交響詩をコンサート指揮者の観点から構築すればどうなるのかと言うことを示してくれているような演奏だったからです。
おそらく、作曲家であるシュトラウスからすればあまり気に入らないでしょうが、そこには大袈裟な身振りやパフォーマンスなどは一切排除された、音の構築物としての「交響詩」が極めてスッキリとした姿で提示される事になります。やろうと思えばいくらでも派手に盛りあげることが可能であり、そして、作曲家も真その事を期待しているであろう作品を敢えてこのように演奏をするというのは、まさに、シューリヒトの真骨頂が発揮されていると言うべきでしょう。
そして、注目すべきは、こういう方向性で演奏するときにオーケストラがヘボだと演奏もまたどうしようもないほどのショボイものになってしまうのですが、シュトゥットガルト放送交響楽団の正確無比なアンサンブルがあれば、細部の細部までがシューリヒトの意志を汲んでクリアに表現されきっていることです。
そして、そう言う正確無比なアンサンブルでありながら、響きにはどこか木目の温かみを感じさせる魅力も持っているのです。これは、どこかウィーンフィル等とも通じるところがあります。
昨今のオケで物足りないのは音色に魅力がないことです。おそらくアンサンブル能力はこの時期のシュトゥットガルト放送交響楽団よりも優れているかもしれないのですが、その大部分が無味無臭の蒸留水のようなひびきです。
それにしても、あらためて感じさせられたのはシュトゥットガルト放送交響楽団の素晴らしさです。
聞くところによると、このオケは給料も良くて拘束時間も短いので、多くのオケマンにとっては憧れのオケらしいです。まあ、それだけの好待遇に見合うだけの仕事は昔からしていたと言うことでしょう。
よせられたコメント 2022-12-09:小林正樹 この作品ほとんどの指揮者が冒頭を意味ありげにやるけどシューリヒトはサラッと(セルもびっくりってか?)、僕が言いたのはこの先ですよ。これがまた「とてつもなく」素晴らしい!わけのわからん独りよがりを言わせてもらうと「これぞ!ドイツロマン派の馥郁たる旋律美。一抹の危険な香りを発散させながら脳髄にしみこんでくるわいな!」昨今の若返った管弦楽団には「多分」絶対に絶対に表出できない(かも)しれない、危険な美の臭い香りの響き、恐るべきレガートの美しさ・・。おそらく芸術家が生きた時代の環境がそうさせてると思うけど・・。まぁこういった恐らく2度と出現しないであろう芸術至上の世界(←普遍的生活にはちょっとやばいかも)を恋焦がれる己がこわーぃ(笑)。ブルーさんおおきにです!
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