Operatic Favourites(A面)/ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」より 第3幕 ヴォータンの別れ 「さらば、勇気ある輝かしき子よ!」 他
フェリックス・プロハスカ指揮 (Br)パウル・シェフラー ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1955年録音
Wagner:Wotan's Farewell and Magic Fire Music(Die Walkute Act3)
Wagner:Amfortas' Monologue(Parsifal Act1)
何とも怪しいレコード
この音源は「Operatic Favourites」とタイトルのついた中古レコードです。Wagner、Verdi、Meyerbeerという3人ごちゃ混ぜの上にアリア集というわけでもなく、さらに言えば演奏者もバラバラという実に怪しげなレコードです。
レーベルはと確認してみれば大きく「SAGA」と記されています。全く知らないレーベルです。
ところが調べてみるとこのレーベル、1958 年に設立された英国の独立系レコード レーベルで、手頃な価格のライトクラシックミュージックやジャズのLPのパイオニア的存在だったようで、決して怪しい海賊版のレーベルではないようです。事業的には60年代の初頭に破綻して売却されるのですが、売却後も「SAGA」のレーベル名は残り続けたようです。
ですから、この「Operatic Favourites」というレコードは、このレーベルのライトクラシックミュージックとして、有名なオペラのさわりの部分を寄せ集めたものだったようです。
収録されているのは以下の6曲です。
A面
- Wagner:Wotan's Farewell and Magic Fire Music(Die Walkute Act3)[ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」より 第3幕 ヴォータンの別れ 「さらば、勇気ある輝かしき子よ!」]
- Wagner:Amfortas' Monologue(Parsifal Act1)[ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」より第1幕 第2場 「息子アンフォルタスよ!」]
B面
- Wagner:Selig Wie Die Sonne(Die Meistersinger von Nurnberg Act3)[ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第3幕「太陽が私の幸せに微笑みかける(五重唱)」]
- Verdi:O Tu, Palmero(Vespri siciliani Act2)[ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より第2幕「おお、おまえパレルモ」]
- Meyerbeer:Figlia de Re(L'Africana Act2)[マイアベーア :歌劇「アフリカの女」より王の娘]
- Wagner:Liebestod(Tristan und Isolde Act3)[ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「愛の死」]
まさにごった煮です。
しかし、さらに困るのは演奏者として「フェリックス・プロハスカ指揮&ウィーン国立歌劇場管弦楽団」「ルドルフ・ケンペ指揮&シュターツカペレ・ドレスデン 」「フランツ・コンヴィチュニー指揮&ゲヴァントハウス管弦楽団」の3者がクレジットされているのですが、A面のワーグナーに関しては「フェリックス・プロハスカ指揮 (Br)パウル・シェフラー ウィーン国立歌劇場管弦楽団」がクレジットされているのですが、B面に関しては誰がどの作品を演奏したのかが何もクレジットされていないのです。
この時代のレコードには録音年などがクレジットされていないものが多いのは良くあることですが、誰がどの作品を演奏したのかがしっかりとクレジットされていないというのはあまり見たことがありません。
おそらくは、そう言う「細かいこと^^;」などは気にしない聞き手をターゲットにしたレーベルのレコードだったのでしょう。
私の検索能力が酔われる
と言うことで、これはまず最初に誰がどの作品を演奏したのかを明らかにしないといけません。まさに、己の耳と検索能力が試されるという雰囲気なので、妙なところで俄然やる気が出てきました。
まずは耳の方ですが、音質的にワーグナーのマイスタージンガーとトリスタンとイゾルデは明らかに古そうです。さらに、この2曲は雰囲気的に、さわりの部分を単独で録音したのではなくて明らかに全曲盤から切り出した雰囲気が濃厚です。
ということで、この2曲の全曲盤をあれこれ検索してみるとルドルフ・ケンペがシュターツカペレ・ドレスデンを指揮して1951年にマイスタージンガーを全曲録音していて、トリスタンとイゾルデはフランツ・コンヴィチュニーがゲヴァントハウス管弦楽団を指揮してこれまた1951年に録音していることが分かりました。
おそらく、このレコードに収録されているのはその全曲盤から切り出したものでしょう。
そして、残りの4曲はフェリックス・プロハスカという指揮者とバリトンのパウル・シェフラー、ウィーン国立歌劇場管弦楽団によって1955年に録音されたものであることが分かりました。
A面
- ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」より 第3幕 ヴォータンの別れ 「さらば、勇気ある輝かしき子よ!」
フェリックス・プロハスカ指揮 (Br)パウル・シェフラー ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1955年録音
- ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」より第1幕 第2場 「息子アンフォルタスよ!」
フェリックス・プロハスカ指揮 (Br)パウル・シェフラー ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1955年録音
B面
- ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第3幕「太陽が私の幸せに微笑みかける(五重唱)」
ルドルフ・ケンペ指揮:シュターツカペレ・ドレスデン (S)ティアナ・レムニッツ (T)ベルント・アルデンホーフ (T)ゲルハルト・ウンガー (S)エミルー・ヴァルター=ザックス (Br)フェルナンド・フランツ 1951年録音
- ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より第2幕「おお、おまえパレルモ」
フェリックス・プロハスカ指揮 (Br)パウル・シェフラー ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1955年録音
- マイアベーア :歌劇「アフリカの女」より王の娘
フェリックス・プロハスカ指揮 (Br)パウル・シェフラー ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1955年録音
- ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「愛の死」
フランツ・コンヴィチュニー指揮 (S)マルガレーテ・ボイマー ゲヴァントハウス管弦楽団 1951年録音
全くとんでもない謎解きですが、そこまで頑張ってみようと思ったのは、もっとも知名度の低いフェリックス・プロハスカという指揮者がウィーン国立歌劇場管弦楽団とパウル・シェフラーを率いて録音した音楽が意外なほどに聴き応えがあったからでした。
例えば、「ワルキューレ」の第3幕のフィナーレである「ヴォータンの別れ」といえばクナパーツブッシュとウィーン・フィルによる1958年の録音が断トツに有名ですが、バリトンの歌唱に関してはこのパウル・シェフラーーの方が魅力的なように感じますし、フェリックス・プロハスカもその歌唱を良くサポートしています。
パウル・シェフラーはバス・バリトンの歌手として70歳まで現役として活躍したドイツの歌手で、バイロイト音楽祭やザルツブルク音楽祭の常連として多くの人に愛されていたようです。
そう言えば、私が初めてウィーンを訪れたときにアルフレード・クラウスを聞いたことがあるのですが、その人気は絶大なものでした。まさに、当時世界を席巻していた三大テノールなんて目じゃないよと言うほどのウィーン子の熱狂には驚かされたものです。
おそらく、このパウル・シェフラーもアルフレード・クラウスほどではないにしても多くの人に愛された名物バリトンだったのでしょう。
ですから、このレコードで聞くべきはフェリックス・プロハスカとパウル・シェフラー、ウィーン国立歌劇場管弦楽団による4曲の録音です。
フェリックス・プロハスカもこの録音を行ったときにはウィーン・フォルクスオーパーの指揮者をしていました。まさに、その意味ではこの時代のウィーンという街の薫りを味わえる貴重な録音と言えそうです。
頑張って調べた甲斐がありました。(^^v
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