クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S.124

(P)エミール・ギレリス:キリル・コンドラシン指揮 ソビエト国立交響楽団 1952年録音





Liszt:Piano Concerto No.1 in E flat major S.124


循環形式によるソナタ形式を初めて完全に実現させた作品

「ピアノのパガニーニ」を目指したリストなので、ピアノの独奏曲は数多く残していますが、協奏曲となると完成した形で残されているのはわずか2曲です。これを少ないと見るか、それともこんなものと見るかは難しいところですが、作品の認知度という点で言えばかなり落ちることは事実です。
例えば、ショパンやブラームスもピアノ協奏曲は2曲しか残していませんが認知度は抜群です。
シューマンは1曲しか残しませんでしたが、認知度ではリストの協奏曲を少し上回る雰囲気です。

しかし、実際に聞いてみると、これがなかなかに面白い音楽なのです。

たとえば、ハンスリックが「トライアングル協奏曲」と冷笑した第3楽章は、そう言われても仕方がないほどにトライアングルの響きが突出しているのですが、音響的な面白さは確かにあります。
また、バルトークが「循環形式によるソナタ形式を初めて完全に実現させた作品」と評価したように、決してピアノの名人芸ををひけらかすだけの音楽でもありません。
そう言われてみれば、冒頭の音型があちこちに姿を現すような雰囲気があるので、ある種のまとまりの良さを感じさせますし、4つの楽章が切れ目無しに演奏されるので、ピアノ独奏を伴った交響詩のようにも聞こえます。

そして、最終楽章の怒濤のクライマックスは、やはり「ピアノのパガニーニ」を目指したリストの真骨頂です。
聞いて面白いと言うことでは、決して同時代のロマン派のコンチェルト較べても劣っているわけではありません。


  1. 第1楽章:Allegro maestoso

  2. 第2楽章:Quasi Adagio

  3. 第3楽章:Allegretto vivace. Allegro animato

  4. 第4楽章:Allegro marziale animato



オボーリンとギレリスのカップリング


この音源は60年代に発売された国内盤でラフマニノフとリストの協奏曲がカップリングされていました。50年代初頭のソ連での録音と言うことなのですが、ラフマニノフの方はやや苦しい部分はあるのですが、リストの方はまずまずの音質です。
そして、この中古レコードのどこに目が止まったのかと言えば、オボーリンがソリストとしてラフマニノフの協奏曲を演奏していたからです。

レフ・オボーリンと言う名前はよく聞くわりにはどことなく影の薄い存在です。それは、同時代にギレリスやリヒテルという大きな存在がいて、どうしてもその光にかき消されがちだったことは否めません。また、室愛楽の分野でもオイストラフと組んで数々の優れた録音を残したのですが、それにしても世の注目はオイストラフの方に向けられがちでした。

しかし、そう言う不幸な要因を排除して彼のピアノ演奏を聞けば、彼もまた傑出したピアニストであったことを再認識させられます。それに、覚えている人は少ないかもしれませんが、彼は第1回ショパン国際ピアノコンクールの優勝者でもあります。
そして、このギレリスの演奏とカップリングされている一枚を聞いてみて、面白いことに気づかされました。

ギレリスと言えば一時は「鋼鉄のタッチ」などと言われたのですが、この二つの録音を聞き比べてみるとオボーリンの方がはるかに「鋼鉄のタッチ」です。伴奏を務めるガウクとモスクワ・ラジオ交響楽団(後のモスクワ・ラジオ交響楽団)の演奏は率直に言ってかなり雑な部分が目立ちます。しかし、その雑さを吹き払うかのようにオボーリンのピアノは驀進していきます。
その強靭なタッチは時には快適ですらあります。フィナーレでは完全に入力オーバーになっていますが手直しもされていないので、もしかしたら一発録りに近かったのかもしれません。

しかし、後年のオボーリンと言えば自然体の優雅で繊細な演奏をする人でした。それ故に、マッスル系の音楽が持て囃される当時のソ連ではあまり評価されなかったようです。
しかし、こういう古い録音を聞いてみると、それを承知の上で、オボーリンはどこかの時期にマッスル系の音楽と袂を分かったのでしょう。

それと比べれば、カップリングされているギレリスの演奏の方がはるかに繊細で細部にまで目配りが聞いています。ガウクのことを悪く言う気はないのですが、こういう録音を聞くとコンドラシンはプロの指揮者だなと感じ入ります。
そして、そう言う万全のサポートに支えられて、ギレリスは己の持ち味を十分に生かしています。もちろん、彼のピアニズムを「鋼鉄のタッチ」と評価することは決して誤りではないのですが、彼の本当の魅力は繊細な響きのコントロールと豊かな歌心にこそあることをこの若い時代の録音からでも聞き取ることが出来ます。

ギレリスの録音は入念に作り込まれているのに対してオボーリンの録音はあまりにも雑な作りであるように思えます。
しかし、雑は雑なりに楽しめる面もあり、思わぬところでオボーリンの素顔が垣間見られたりするのが面白いと言えばお叱りを受けるでしょうか。

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