モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調, K.364
フェリックス・プロハスカ指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 (Vn)ワルター・バリリ (Va)パウル・ドクトール 1951年録音
Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [1.Allegro maestoso]
Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [2.Andante]
Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [3.Presto]
痛切なる青春の音楽

私が初めてウィーンとザルツブルグを訪れたのは1992年のことで、ちょうどその前の年はモーツァルトの没後200年という事で大変な盛り上がりをみせた後でした。とはいっても、未だに町のあちこちにその「余熱」のようなものがくすぶっているようで、いまさらながらモーツァルトいう存在の大きさを実感させられました。
さて、その没後200年の行事の中で、非常に印象に残っているシーンがあります。それは、ヨーロッパで制作されたモーツァルトの伝記ドラマだったと思うのですが、若きモーツァルトが失意の底で野良犬のように夜のウィーンをさまよい歩くシーンです。そこにかぶさるように流れてきた協奏交響曲の第2楽章の冒頭のメロディがこのシーンに見事なまでにマッチングしていました。
ドラマのBGMというのは安直に選択されることが多くて邪魔にしかならないことも多いのですが、その時ばかりは若きモーツァルトの痛切なまでの悲しみを見事に表現していて深く心に刻み込まれたシーンでした。
ところが、この冒頭のメロディは一度聞けば絶対に忘れないほどに魅力的なメロディなのに、そのメロディは楽章の冒頭に姿を現すだけで、その後は二度と姿を見せないことに恥ずかしながら最近になって気がつきました。
似たような形に変形されては何度も姿を現すのですが、あのメロディは完全な形では二度と姿を現さないのです。
もったいないといえばこれほどもったいない話はありません。しかし、その「奥ゆかしさ」というか「もどかしさ」がこの作品にいいようのない陰影をあたえているようです。
冒頭の部分で愛しき人の面影をしっかりと刻み込んでおいて、あとはその面影を求めて聞き手をさまよい歩かせるような風情です。
そして、時々その面影に似た人を見かけるのですが、それは似てはいてもいつも別人なのです。そして、音楽はその面影に二度と巡り会えないままに終わりを迎えます。
いかにモーツァルトといえども、青春というものがもつ悲しみをこれほどまでに甘く、そして痛切にえがききった作品はそうあるものではありません。
気心の知れた者同士の見事なアンサンブル
こういう録音を今まで見落としてきたとは、不覚としか言いようがありません。それほどに、これは魅力的でもあり、面白い演奏です。
まず、注目すべきは、ともにソリストの魅力が存分に発揮されてると言うことです。
ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲はワルター・バリリとパウル・ドクトールがつとめています。バリリは言うまでもなくウィーン、フィルのコンサート・マスターです。
この演奏の主導権はそのバリリが全て握っていて、オーケストラのメンバーも気心の知れた相手なのですから、実に息のあった、そしてバリリの持つ魅力が存分に発揮されています。
面白いのは、ヴィオラにパウル・ドクトールが起用されていることです。
最初は彼もウィーン・フィルのヴィオラ奏者だろうと思ったのですが、調べてみるとオーストリア生まれであるものの活動の拠点はアメリカです。しかし、彼の父親はブッシュ四重奏団のメンバーであり、その父に音楽の手ほどきを受け、ウィーン音楽院を卒業したのですから、音楽的にはこの集団の中に入ってもなんの違和感もなかったことでしょう。
そして、指揮者のフェリックス・プロハスカはウィーン・フォルクスオーパーの指揮者をしていた人物ですから、彼ももしかしたら国立歌劇場の指揮台に立つことがあったのかもしれません。実に気心の知れた雰囲気で、彼らの音楽を邪魔することなく上手くサポートに徹しています。
同じように、管楽器のための協奏交響曲もソリストはウィーン・フィルハーモニー木管グループですから、事情は全く同じで、ウィーンフィルが誇る管楽器奏者の実力と魅力を遺憾なく発揮しています。
そして、指揮者は合わせものが上手いヘンリー・スウォボダなのですから、彼もまた表にしゃしゃり出来ることはなく、ソリストの持ち味を引き出すためのサポート徹しています。
そして、同じウィーンのオケでも指揮者がベームだとこういうふうにはならないことにあらためて気づかされます。指揮者の力が強すぎるのです。
もちろん、それはそれで魅力はあるのですが、どちらが好きかと聞かれれば、今の私なら躊躇うことなくこの古い録音を選びます。
と言うことは、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲の刷り込みがセル&クリーブランド管による録音だった私も、次第に過去のものになりつつあると言うことなのかもしれません。
よせられたコメント
2022-09-12:笑枝
- K.364 大好き人間です。
オイストラフ-バルシャイ盤に遇う前は、一番好きな演奏でした。
初期盤を置いてあるクラシック喫茶によく通ったものです。
いつ行っても、リクエストするのはこの盤だったので、客が少ないと、バリリですね、とかけてくれたものです。
2022-09-19:小林正樹
- ヴィオラのドクトール氏は大発見!バリリ先生は絶対的ウィーンの権化。
ドクトール氏は素晴らしすぎ!!
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