ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 , Op.68
カール・シューリヒト指揮:スイス・ロマンド管弦楽団 1953年12月28日録音
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [1.Un poco sostenuto - Allegro]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [2.Andante sostenuto]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [3.Un poco allegretto e grazioso]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [4.Piu andante - Allegro non troppo, ma con brio - Piu allegro]
ベートーヴェンの影を乗り越えて
ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。
彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。
の交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。
確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。
彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。
しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。
私は、若いときは大好きでした。
そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
それだけ年をとったということでしょうか。
なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。
ブラームスと共鳴する何か
シューリヒトという指揮者はベートーベンであれ何であれ、己の理性というか知性というか、そう言うものの中に取り込んで、その枠の中からはみ出すことなくスッキリと仕上げてしまうと言う印象があります。
それは、シューマンやブルックナーのような癖の強い作品であっても事情は変わりません。
それ故に「偉大な解釈者」と評価され、「作曲家の作品に対して完全に一歩下がった芸術的な謙虚さ」をもった指揮者だと褒め讃えられてきたのです。そして、その事を私は彼の芸術が持っている「軽み」と表現しました。暑苦しさとは一切無縁のスッキリとした彼の表現を好む人は少なくあありません。
ところが、不思議なことに、彼のブラームスの録音を聞いていると、なんだか常とは違うものを感じてしまうのです。
それは、いつもは作品を完璧に解釈してその枠の中でスッキリと構成している彼が、ブラームスの場合はそう言う理性の中に己を押し留めることが耐えかねるようなのです。
結果として、その理性の奥に秘めている主情性のようなものがあちこちでこぼれ出すような雰囲気があるのです。
それは、彼のブラームス録音の中でももっとも有名な
コンサートホールでの4番の録音 でも感じました。(バイエルン放送交響楽団 1961年9月録音)
シューリヒトにしてみれば最晩年の録音にあたると思うのですが、そこには指揮者としての衰えを指摘されながらも、それでも最後まで戦い続ける「老いたるチャンピオン」の覇気を感じました。
そうして考えてみれば、ブラームスというのは内に強烈なロマン主義的感情を持ちながらも、それを古典派の正統的スタイルの中に押し留めようとした人でした。
そして、その姿勢は、ブラームスとシューリヒトの間に、作曲家と演奏家という違いはあってもどこか互いに共鳴するものがあったのかもしれません。
そして、そう言う共鳴する部分が二人の中で重なり合うような場面にくると、シューリヒトもまた常の己を忘れて奥に秘めていた主情性が前に出てしまったのでしょうか。
面白いのは、それはライブでの演奏だけでなく、スタジオで録音したウィーンフィルやバーデン=バーデンのオケとの演奏でも同じ姿を垣間見ることが出来ることです。
シューリヒトにとってブラームスというのは、どこか特別な意味を持たざるを得ない特別な存在だったのかもしれません。
よせられたコメント 2022-08-19:joshua ほんの少しですが、夏から秋に変わるのが感じられだしました。このブラ1、第4楽章、一気呵成に聴いてしまいました。スイスロマンドも一般的評判より上手く聞こえました。
私の知っているシューリヒトブラ1は、彼の晩年、60年代シュトゥットガルト放送響のものですが、甲乙つけがたいですね。
最後まで戦い続ける「老いたるチャンピオン」の覇気、という説明文のフレーズが思い出される晩年らしからぬ演奏をもう一度聞きたくなってきました。
そう、演奏によっては晩夏の今、地上平野部でもブラームスが聴くに堪えるのでしょう。
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