モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調, K.581
(Clarinet)ジャック・ランスロ:バルヒェット四重奏団 1959年2月録音
Mozart:Clarinet Quintet in A major, K.581 [1.Allegro]
Mozart:Clarinet Quintet in A major, K.581 [2.Larghetto]
Mozart:Clarinet Quintet in A major, K.581 [3.Menuetto]
Mozart:Clarinet Quintet in A major, K.581 [4.Allegretto con variazioni]
クラリネット~モーツァルトが愛した楽器
クラリネットという楽器の魅力を発見し、その魅力を最大限に引き出したのがモーツァルトでした。コンチェルトや交響曲の中でクラリネットを活躍させたのはモーツァルトが最初ではなかったでしょうか。
そして晩年の貧窮の中で彼はクラリネットのふくよかでありながら哀愁の入り交じったクラリネットの響きにますます魅せられていったようで、素晴らしい二つの作品を残してくれました。
それがここで紹介するクラリネット五重奏曲であり、もう一つはそれと兄弟関係とも言うべきクラリネット協奏曲です。
しかし、最晩年に作曲されたコンチェルトには救いがたいほどのモーツァルトの疲れが刻印されています。美しくはあっても、そのあまりに深い疲れが聞き手の側にのしかかってきます。それに対してこのクインテットの方はモーツァルト特有の透明感を保持しています。ある人はこの作品に、澄み切った秋の夕暮れを感じると書いています。
とりわけ第2楽章の素晴らしさ!!
これほどまでに深い感情をたたえた音楽は、モーツァルトといえども他には数えるほどしかありません。音楽の前に言葉は沈黙する、と言う陳腐な言い回しがここでは実感として感じ取ることができます。
リードのデリケートな震えがはっきりと分かるほどの繊細さ
これもまた中古レコード屋で見つけた一枚なのですが、私の興味をひいたのは「バルヒェット四重奏団」というクレジットでした。随分昔に彼らのモーツァルトの弦楽五重奏曲の録音を聞いてすっかり気に入っていたからです。
その演奏は昨今のハイテクカルテットとは対極にあるもので、その鄙びた素朴さの中にえもいわれぬロマンと気品が漂ってくる事にすっかり魅了されたものです。
そして、その後、ソリストとしてのバルヒェットの録音も幾つか聞くようになり、その魅力にすっかり魅入られてしまったのです。
ですから、中古レコード屋さんで「バルヒェット四重奏団」というクレジットを見たときには躊躇わずに購入しました。
おかしな話ですが、この作品ならば真っ先にチェックするであろうクラリネット素者には全く無頓着でした。
そして、これまたお恥ずかしながら(最近、この言葉が本当に多い^^:)、「ジャック・ランスロ」という名前には全く思い当たるものがありませんでした。
ところが、帰ってきてレコード針を落としてみれば、「バルヒェット四重奏団」の演奏は期待に違わず素晴らしかったのですが、それと同じくらい「ジャック・ランスロ」のクラリネットも素晴らしくって、ここで初めて「ジャック・ランスロって何者?」と思った次第でした。
調べてみれば、「ウラッハと並び称されるのはフランスのクラリネット奏者」などと書かれていたりするではないですか。
私が彼のクラリネットを聞いて感心したのは、ウラッハに代表されるようなほの暗い音色とは全く異なる明るめの音色でした。なるほど、「並び称される」というのは肩を並べると言うよりは対照的な二人という意味合いととらえた方いいのかもしれません。
クラリネットという楽器には「ドイツ型(エーラー式)」と「フランス型(ベーム式)」の二つがあることは知っていました。そして、「ドイツ型(エーラー式)」の伝説がウラッハだとすれば、ジャック・ランスロこそは「フランス型(ベーム式)」の伝説とも言うべき存在だったのです。
ですから、「ウラッハと並び称されるクラリネット奏者」と評されたのです。
確かに、フランスのオーケストラの管楽器は非常に魅力的な音色をふりまきますが、それにさらに磨きをかけたような明るさと、リードのデリケートな震えがはっきりと分かるほどの繊細さは一度聞けば病みつきになります。
ただし、注目すべきはそう言う美音をふりまくだけでなく、演奏そのものは非常に明晰で、一つ一つの音を明確に鳴らして恣意的にテンポを揺らすようなことはしないことです。つまりは、変に抑揚をつけて必要以上に歌い込もうとはしないのです。
そして、そう言うクラリネットをロマンと気品が漂う「バルヒェット四重奏団」がしっかりサポートをしているのです。
「バルヒェット四重奏団」は言うまでもなくドイツのカルテットなのですが、生真面目で誠実さを失わない「ジャック・ランスロ」との相性は抜群のようです。
知っている人から見れば今頃何を言っているんだと言われそうなのですが、これはモーツァルトのクラリネット五重奏曲の録音の中でも真っ先に指を折りたくなる演奏だと言えます。
よせられたコメント
2022-05-14:yk
- この録音もパブリック・ドメイン入りなのですね(言われて見れば当然のことですが・・・)。ランスロはスタンダール以来のフランスの伝統的モーツアルト観を演奏で体現することの出来た最後のフランス人演奏家世代の一人でした。フランスのクラリネット奏者の録音ではフランソワ・エティエンヌの録音もあり、ソレも良い演奏ですが私はランスロをより近代的な点(と録音の良さ)で好みます。深い(暗い)音色のウラッハとどちらが良いか?・・・・と言うのは愚問ですが、特に連日暗いニュースの続く昨今、モーツアルトの人生肯定的なラテン的側面を率直に表現するランスロのモーツアルトはやはりかけがえのないものだと思います。
2022-05-14:望月 岳志
- ジャック・ランスロといえば、モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299
(Harp.)リリー・ラスキーヌ (Fl.)ジャン=ピエール・ランパル (指揮)ジャン=フランソワ・パイヤール パイヤール室内管弦楽団 1963年6月録音
http://www.yung.jp/yungdb/op.php?id=2283&category_id=4
のLPのB面に収録されていたクラリネット協奏曲のソリストで、刷り込み的に親しみました。
バルヒエット四重奏団とのクラリネット五重奏曲の演奏も、ランスロの特徴的な音色がいいですね。
2022-05-14:禍有修理人
- これは素晴らしい。
当方聴き専歴40年の貧乏クラオタです。後回しになりがちな室内楽・器楽曲・声楽曲において新たな音源との出会いをもたらしてくれる貴サイトに感謝しております。本当にありがとうございます。
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