リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調 S.125
(P)ジュリアス・カッチェン:アタウルフォ・アルヘンタ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1957年1月3日~4日録音
Liszt:Piano Concerto No.2 in A major S.125 [1.Adagio sostenuto assai - Allegro agitato assai]
Liszt:Piano Concerto No.2 in A major S.125 [2.Allegro moderato]
Liszt:Piano Concerto No.2 in A major S.125 [3.Allegro deciso - Marziale un poco meno allegro]
Liszt:Piano Concerto No.2 in A major S.125 [4.Allegro animato]
ある意味ではリストが求めたものがもっともはっきりと具現化された作品
19世紀においてはピアノの王者としてヨーロッパに君臨したリストですが、その評価は下がる一方であり、現在では「ラ・カンパネラ」とか「愛の夢」のようなごく限られたピアノ曲しかレパートリーにあがらなくなってしまいました。
ただし、この傾向は今に始まったことではなくて、20世紀に入った頃にはすでに演奏される作品の範囲は限られたものとなっていたようです。
そのことは、一部の方からリストに対するリクエストをいただいて、何かいい音源はないものかと探してみて、あまりの数の少なさに驚かされたことからも、その不人気ぶりを確認することができました。
このピアノ協奏曲の第2番も今ではほとんど演奏される機会のないマイナーな作品となっています。
第1番に関してはそれでもときおりレパートリーにあがることもあるのですが、この2番に関しては1番のカップリングとして埋め合わせ的に収録されるような風情は否定し切れません。
しかし、あのバルトークがリストを高く評価していたことはあまり知られていない事実です。
砂糖菓子のようにひたすら甘くてロマンティックなピアノ音楽ばかりを書いたと思われがちなリストですが、バルトークはその中にドビュッシーや新ウィーン学派の音楽につながるような先見性を見つけていたようです。
今後、リストに対する再評価が進むのかどうかは分かりませんが、今のような「ラ・カンパネラ」とか「愛の夢」だけの作曲家みたいな認識のされ方はいささかひどすぎるかもしれません。
この第2番とナンバーリングされたピアノ協奏曲は1839年に創作をされているのですが、その後何度も補筆が加えられ、1848年には「交響的協奏曲」という名称を与えられています。
たしかに、単一楽章で構成されたこの作品はピアノ付きの交響詩という雰囲気をもっています。
その後も、この作品は楽譜として出版される1863年まで、事あるごとにリストが手を加えつづけたようで、ある意味ではリストが求めたものがもっともはっきりと具現化された作品だといえます。
それぞれに好みはあるでしょうが、完成度という点では第1番の協奏曲よりも頭一つ抜けているのではないでしょうか。
- 第1楽章:Adagio sostenuto assai - Allegro agitato assai - Un poco piu mosso - Tempo del andante -
- 第2楽章:Allegro moderato -
- 第3楽章:Allegro deciso - Marziale un poco meno allegro - Un poco animato - Un poco meno mosso -
- 第4楽章:Allegro animato
ピアノという鑿を使って、その中に埋まっているはずの音楽を掘り出す
カッチェンには42年の歳月しか許されなかったのですが、その短い活動期間を考える残された録音の数は少なくありません。その背景には「知的ブルドーザー」」と言われたほどのパワフルな活動と、Deccaのピア部門門を結果としては一人で背負わざるを得なかったという事情もあったのでしょう。
あまりにも短すぎた人生だったのですが、その短い時間の中で並のピアニストの何倍もの活動を成し遂げたとも言えます。
そして、その卓越したテクニックを考えれば、ここで紹介しているリストの作品などはもっと多く取り上げいてもいいかと思うのですが、私が知る限りでは以下の作品しか録音していないようです。
- リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S.124
- リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調 S.125
- リスト:ハンガリー民謡旋律に基づく幻想曲, S123
- リスト:メフィスト・ワルツ第1番 {村の居酒屋での踊り}
- リスト:「詩的で宗教的な調べ」より第7番「葬送」
- リスト:ハンガリー狂詩曲第12番
おそらく1957年に録音したコンチェルトはレーベル側からの要望も強かったともうのですが、それ以外の作品は全て1955年以前の若い時代に録音したものです。そして、57年にコンチェルトを2曲録音してからは亡くなるまでリストの作品は録音していないようです。
よく知られているように彼はアメリカ出身のピアニストなのですが、若くしてアメリカにおける音楽風土に嫌気がさして活動の拠点をパリに移してそこで永住することになりました。ですから、音楽教育はアメリカで受けながら、それをもとにヨーロッパで活躍したという異色の経歴を持ったピアニストです。
確かに、彼の録音をまとめて聞き直してみると、アメリカの音楽風土が彼には絶えがたいものであったことが少しずつ見えてきます。
彼が20代のころのアメリカはホロヴィッツに代表される、人間離れした技巧を披露して拍手喝采を浴びることが求められる時代でした。ただし、ホロヴィッツやルービンシュタインはそう言うショーマンシップに溢れながらも、それがただのアトラクションにとどまらない領域にまで突き抜けていたことでした。
しかし、彼らの後を追った若手のピアニストたちは、つまりはカッチェンと同じよう時期にアメリカで教育を受けた若手のピアニストたちはホロヴィッツを追い続けていったのですが、結局彼らの多くはアトラクションとしての音楽の壁を打ち破ることが出来ませんでした。それは今も続く弊害で、確かにコンサートで聞いているときは凄いとも思い興奮もするのですが、盛大なブラボーの後にコンサートホールを後にして最初の角を曲がるころには、何を聞いたのか定かでなくなっている類の演奏です。
それはカッチェンにとっては許し難いことだったはずです。
彼は初めての作品に取り組むときには一切ピアノには向かわず、ひたすら譜面と取り組みました。そして、その譜面と徹底的に向き合うことで自らの頭の中で確固たる音楽が出来上がってから初めてピアノの前に座るという人でした。
彼にとってピアノの演奏とは、ピアノという鑿を使って、その中に埋まっているはずの音楽を彫り出すという「仏師」のような行為だったのかもしれません。
ですから、彼が演奏するリストが、ただただ超絶技巧を誇示するだけの音楽になるはずがありません。
それは小品にしてもコンチェルトにしても同様で、おそらくはリストという音楽の中に息づいている叙情性を彫り出すことにのみ興味があったことが、この一連の録音を聞けばよく分かります。そして、リストが活躍した時代には多くのピアニストが自らの技巧を誇示するための作品を数多く作曲したのですが、それらのほぼ全ては記憶の彼方に消え去っています。
つまりは、このカッチェンによる演奏は、そう言う数多くの超絶技巧を誇示する音楽の中で、何故にリストの作品だけが生き残ってきたのかという秘密を解き明かしてくれているのです。
そして、その秘密を味わうには、極めて明晰に演奏されているかのように見えながら、すみずみまで考え抜かれた結果としての微妙なニュアンスが散りばめられていることを聞き取る努力が聞き手には求められるのでしょう。
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