シューマン:謝肉祭 作品9
(P)ニキタ・マガロフ:1961年録音
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [1.Preambule]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [2.Pierrot]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [3.Arlequin]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [4.Valse noble]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [5.Eusebius]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [6.Florestan]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [7.Coquette]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [8.Replique]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [9.Papillons]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [10.Lettres dansantes]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [11.Chiarina]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [12.Chopin]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [13.Estrella]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [14.Reconnaissance]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [15.Pantalon et Colombine]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [16.Valse allemande]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [17.Aveu]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [18.Promenade]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [19.Pause]
Schumann:Carnaval "Scenes mignonnes sur quarte notes", Op.9 [20.Marche des "Davidsbundler" contre les Philistins]
様々な人間的な感情の交錯
ロマン派の時代におけるピアノ音楽の新しい地平を切り開いたシューマンの、最初期における輝かしい金字塔がこの作品です。
最初と最後に音楽全体の序と終結の役目を果たす比較的規模簿の大きな曲を配置し、その間に様々な容貌と特徴を持った華麗なる19の小品をちりばめたこの作品は、古典派のかたぐるしい上着を脱ぎ捨てて、人間的な感情のあふれるがままに楽想を飛翔させたものです。ただし、シューマンが偉大なのはその様な飛翔が恣意的で放埒なものになることなく、全ての音楽がごく小さな根本動機からの変奏として作品全体が強固に結びあわされていることです。
しかし、このような言葉による説明は現実に鳴り響く音楽の前では虚しいだけです。私たちはその音楽に謙虚に耳を傾ければ、シューマンがこの作品に施した様々な謎かけに関する知識などを持たなくても、光と影が明滅する木漏れ日のように、様々な人間的な感情の交錯に陶然とさせられます。
ここにおいて神は音楽の表舞台から退場し、音楽は純粋に人間にのみ仕えるようになったのです。
第1曲:前口上
第2曲:ピエロ
第3曲:アルルカン
第4曲:高貴なワルツ
第5曲:オイゼビウス
第6曲:フロレスタン
第7曲:コケット
第8曲:返事
第9曲:パピヨン
第10曲:A.S.C.H. - S.C.H.A. - 踊る文字
第11曲:キアリーナ
第12曲:ショパン
第13曲:エストレラ
第14曲:めぐりあい
第15曲:パンタロンとコロンビーヌ
第16曲:ドイツ風ワルツ?
第17曲:パガニーニ(間奏曲)
第18曲:告白
第19曲:プロムナード(散歩)
第20曲:休憩
第21曲:ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進
ピアノを叩くのではなく音をすくい上げる
ニキタ・マガロフに関しては随分昔にショパンのマズルカ集をアップしてから、全くふれていませんでした。それは、おそらくそのマズルカ集ゆえにか、私の中で勝手に「ショパン弾き」というイメージが勝手に出来上がってしまったからかもしれません。さらに言い訳を許してもらえるならば、マガロフと言えば世界で最初にショパンのピアノ曲全曲を録音したという「金看板」が常についてまわっていました。(^^:
そして、いわゆる「ショパン弾き」と言われるようなピアニストはたくさんいて、そして、優れた録音も数多くあるものですから、マガロフにまでは手が回らなかったと言うことなのです。
ところが、ふとしたことで、彼が1961年に録音したシューマンとリストの作品をカップリングしたアルバムを聴く機会があって、すっかり感心してしまいました。
そして、このマガロフというピアニストを「ショパン弾き」などと言う狭い範囲でしかとらえていなかった己の不明を恥じたのです。
おそらく、これは「通好み」の演奏であることは間違いありません。
何故ならば、リストの「パガニーニによる大練習曲」と言えば、何よりもピアニストとしての技巧を最大限に発揮し、聞き手はその技巧に拍手大喝采を送るというのが普通のスタイルです。ところが、このマガロフの演奏からはその様な外連味は全く感じられません。
もちろん、マガロフの技巧に問題があるのではありません。彼は、最晩年に至るまでほとんど「衰え」というものを感じさせない人でしたが、それでも「技巧」を前面に出す演奏とは最後まで無縁でした。
彼が、ここで実現しようとしているリストは大向こうを唸らせるための音楽ではなくて、その奥に秘められている瑞々しい叙情のようなものを引き出すことでした。
そう言えば、彼は常に「ピアノを叩くのではなく音をすくい上げる」と語っていました。つまりは技巧によって客を唸らせるのではなくて、その音楽に秘められている深い感情を救い出すことこそが重要だと言いたかったのでしょう。
そこで、思い出すのが、彼はすぐれたピアニストとして評価されながらも、若いころは作曲家を目指していたことです。そして、そう言う作曲家志望から演奏家へと転身する切っ掛けとなったのがヴァイオリニストのシゲティの伴奏ピアニストをつとめたことでした。マガロフはシゲティから多くのものを学び取り、それがピアニストとして活動していく原点となったを語っています。
一般的に、作曲家でもあった演奏者というのは、恣意的な解釈は言うに及ばず主情的な解釈に基づく演奏にも否定的な態度を取るものです。それは、マルケヴィッチの指揮などを聞けばその典型を知ることが出来るでしょう。
そして、シゲティとのパートナー関係の中で、マガロフはその様な演奏スタイルの可能性に気づいたのだと思います。
おそらく、これよりも派手に技巧をひけらかしたリスト演奏はいくらでも存在します。
しかし、ここまで折り目正しく作品に内在する深い感情を引き出した演奏は他に思い当たりません。そう言う意味ではリスト演奏における唯一無二の録音と言っても言い過ぎではないと思います。
そして、最後に付け足しみたいになって申し訳ないのですが、そんなマガロフがシューマンの作品を演奏して悪かろうはずがありません。
「謝肉祭」はエルネスティーネ・フォン・フリッケンへの恋愛感情から生まれたものと言われていますが、それだけにとどまらず「仮面舞踏会」という仕掛けの中でシューマンらしい何処か屈折したロマン的感情に彩られています。
そう言う複雑な感情をマガロフは見事に表現しているのですが、それはリストのような唯一無二の存在ではないこともまた事実です。そこまでマガロフを持ち上げると贔屓の引き倒しになるでしょう。
とは言え、数ある「謝肉祭」の録音の中では忘れたくない一枚であることは事実です。
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