クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 作品88

ヴァーツラフ・ターリヒ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1951年10月28日~31日録音





Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [1.Allegro con brio]

Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [2.Adagio]

Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [3.Allegretto grazioso - Molto Vivace]

Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [4.Allegro ma non troppo]


一度聞けば絶対に忘れないほどの美しいメロディーです

メロディーメーカーと言われるドヴォルザークですが、ここで聞くことのできるメロディーの美しさは出色です。
おそらく一度聞けば、絶対に忘れることのできない素晴らしいメロディーです。

私がこのメロディーに初めてであったのは、車を運転しているときでした。
いつものようにNHKのFM放送を聞きながら車を走らせていました。おそらく何かのライヴ録音だったと思います。

第2楽章が終わり、お決まりのように観客席の咳払いやざわめきが少し静まったころを見計らって、第3楽章の冒頭のメロディーが流れはじめました。
その瞬間、ラジオから流れる貧弱な音でしたが耳が釘付けになりました。

それは、今まで聞いたことがない、この上もなく美しくメランコリックなメロディーでした。
その頃は、クラシック音楽などと言うものを聞き始めて間もない頃で、次々と新しい音楽に出会い、その素晴らしさに心を奪われると言う本当に素晴らしい時期でした。
そんな中にあっても、この出会いは格別でした。

実は、車を運転しながら何気なく聞いていたので、流れている音楽の曲名すら意識していなかったのです。
第4楽章が終わり、盛大な拍手が次第にフェイドアウトしていき、その後アナウンサーが「ドヴォルザーク作曲、交響曲第8番」と読み上げてくれて初めて曲名が分かったような次第です。

翌日、すぐにレコード屋さんにとんでいったのですが、田舎の小さなお店ですから、「えぇ、ドヴォルザークって9番じゃなかったですか?」等とあほみたいな事を言われたのが今も記憶に残っています。
クラシック音楽を聴き始めた頃の、幸せな「黄金の時代」の思い出です。

民族への誇りに満ちた熱い演奏


嘘か本当かは分かりませんが、ターリッヒ&チェコ・フィルによるドヴォルザークの演奏を聞いたムラヴィンスキーは、その素晴らしさに感嘆して、それ以後自らの演奏会ではドヴォルザークを取り上げることはなかったという話が伝わっているそうです。
しかし、じっくりと考えてみると、このエピソードはなかなかに興味深いものがあります。

音楽史の中ではドヴォルザークは「国民楽派」というカテゴリーに入れられて、民族主義的な音楽を書いた作曲家と言うことになっています。もちろん、それで間違いはないのですが、ところが彼の作品で高く評価されている録音の多くは、そう言う民族主義的な側面を削ぎ落とした、(おかしな言い方ですが)、純音楽的なというか、民族的と言うよりは国籍不明のコスモポリタンな音楽として演奏したものが上げられることが多いのです。
その典型はトスカニーニやセルによる交響曲演奏でしょう。

しかし、そうなってしまう背景を見てみれば、ドヴォルザークの音楽にはブラームスの音楽が強く影響をしていて、その背骨として伝統的な西洋音楽の構造がしっかりと通っているからです。ですから、そのしゃんとした背骨に添って音楽を構築すれば、それはそれで実に立派な音楽として仕上がってしまうのです。
おそらく、ムラヴィンスキーがドヴォルザークを演奏すれば、間違いなくセルやトスカニーニと同じ方向性で音楽を構築したはずです。

しかし、ここで聞くことのできるターリッヒのドヴォルザークは、そう言う西洋音楽の伝統を踏み外すことなく、そこに加えてチェコの民族的要素を大らかに、そして情熱的に歌い上げています。
音楽というものが「知」と「情」で出来ているとするならば、セルやトスカニーニは徹底的に「知」に添って音楽を構築し、ターリッヒは大らかに民族的な「情」を歌い上げているのです。

そして、不思議なことに、こういうターリッヒのように熱く民族への賛歌を歌い上げるような演奏はそれほど多くはないのです。それは、彼のあとを継いでチェコ・フィルを率いたクーベリックやアンチェルにしても同様です。そして、その背景に様々な政治的要因が重なって、おそらくはそこまで屈託もなく民族の誇りを歌い上げることには躊躇いを感じてしまったのでしょう。

そう言う意味では、ターリッヒは多少の政治的嫌がらせを受けたことはあっても、それによって自らの民族への誇りと信頼を損なうことのない幸せな人生を送れた人といえるかもしれません。

彼が引退する直前の1954年に録音された「新世界より」はそう言うターリッヒの幸せな側面が色濃くでた演奏です。セルやトスカニーニの演奏ばかり聞いてきた私にとってはいささか驚かされるほどの「熱さ」で圧倒されました。
それは、1951年に録音した第8番の交響曲もまた同様なのですが、こちらの方はいささか響きが痩せて聞こえる録音が残念ではありますが、演奏はこれもまた実に「熱い」ので、是非とも聞いて欲しい一枚です。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-24]

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

?>