モーツァルト:12のピアノ変奏曲 ハ長調 K.265 (300e) "きらきら星変奏曲"
(P)クララ・ハスキル:1960年5月録音
Mozart:12 Variations on "Ah, vous dirai-je maman", K.265/300e
繊細な変奏と、その組み合わせの上手
「きらきら星変奏曲」としてよく知られているこの作品のテーマは、正式には「シルヴァンドルの愛」です。1760年代のパリで広く愛好されていた民謡らしいのですが、それがアメリカに伝わっていつの間にか子供向けの歌である「キラキラ星」と名前を変えました。そのために、いつの間にか「きらきら星変奏曲」と呼ばれるのが一般的になったのですが、事情は日本でも同じです。
この作品はモーツァルトの残した手紙によると、ピアノの弟子のためにかかれた作品です。
おそらくは、それぞれの変奏に相応しいピアノのタッチというものを分からせ、それを習熟させることが目的だったのでしょう。それ以外にも分散和音であるとか装飾音などの技法の練習のためにも使われたと思われるのですが、聞き手にとってはそんな事はどうでもいいことです。
それよりも、このシンプルな主題からかくも多様な変奏の妙を生み出したモーツァルトの腕の冴えを楽しめばいいのでしょう。その繊細な変奏と、その組み合わせの上手さには脱帽するしかありません。
「通俗曲」と言うことで聞きとばすのではなく、是非ともそのあたりの妙をじっくりと聞いてみてください。
美しくも繊細なモーツァルトのピアノ独奏曲をもう少しは残して欲しかった
何度も同じ事を繰り返して恐縮なのですが、ハスキルと言えばやはりモーツァルトです。ところが、ふと気づいてみれば、彼女はピアノの独奏曲を殆ど録音していません。
ちなみに、私のてもにとあるハスキルのモーツァルトの独奏曲は以下の4つだけです。
- モーツァルト:デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調,K.573
- モーツァルト:ピアノ・ソナタ ハ長調, K330
- モーツァルト:12のピアノ変奏曲 ハ長調 K.265 (300e) "きらきら星変奏曲"
- モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第2番 ヘ長調 K.280 (189e)
もちろん、探せばもう少しは出てくるのかもしれませんが、それにしても協奏曲や、グリュミオーと組んで録音したヴァイオリン・ソナタと較べると驚くほどの数の少なさです。
そう言えば、ハスキルという人はとてもシャイで社交的でもなかったと言うことですから、自分一人にスポットライトの当たるピアノ独奏というのはあまりお好きではなかったのかもしれません。
しかし、さらに調べてみれば、1953年4月11日に、ドイツ最大にしてヨーロッパ最大規模のバロック宮殿であるルートヴィヒスブルク城という特別な場所でリサイタルを行っています。そして、その時のプログラムはスカルラッティから始まって、バッハ、ベートーベン、シューマン、そしてドビュッシーとラヴェルという、言ってみればピアノ音楽の歴史を辿るかのような意欲的なものでした。
ところが、この特別な意味を持ったであろうリサイタルにおいてもモーツァルトの作品は取り上げていないのです。
そうなると、これは考えれば考えるほどに不思議な話のように思えてきます。
当たり前の話ですが、ハスキルがそう言う作品を苦手にしていたはずがありません。それは、この残された4曲の録音を聞けばすぐに分かることですし、そもそもそう言うことなどはあり得ない話なのです。
この4曲の中で、解くに感心したのは有名な「きらきら星変奏曲」です。
ともすれば、アンコール・ピースとして弾きとばされてしまうようなことの多い作品なのですが、ハスキルはこの上もない繊細さで一つずつの変奏の美しさを描き出しています。それは、何処を探しても無駄な力の一切入っていない、この上もなく素晴らしいファンタジーの世界がそこには存在します。
また、この変奏曲と同時に録音したと思われるピアノ・ソナタの2番にも同じ事がいえます。
それと比べると、残りの2曲は54年のモノラル録音と言うこともあってか、そこまでの繊細さはありません。
ただし、それはモーツァルトに限った話ではなくて、ハスキルは最初は結構強めの打鍵を使うこともあったのですが、年を重ねるにつれて次第にそう言う強めの打鍵は姿を顰め、ひたすら繊細で美しい響きで音楽を紡ぎ出していくようになっていきます。
それだけに、そう言う美しくも繊細なモーツァルトのソナタをもう少しは残して欲しかったと思わずにはおれません。
さらに、想像をたくましくすれば、レーベルからすれば到底売れ筋とは思えないピアノ・ソナタの2番の録音を60年5月に行っていたと言うことは、もしかしたら晩年に向けてソナタのまとまった録音をハスキルは考えていたのかもしれません。そう考えれば、同年12月の不慮の事故は実に悲しむべき出来事だったと言うしかありません。
繊細な変奏と、その組み合わせの上手
「きらきら星変奏曲」としてよく知られているこの作品のテーマは、正式には「シルヴァンドルの愛」です。1760年代のパリで広く愛好されていた民謡らしいのですが、それがアメリカに伝わっていつの間にか子供向けの歌である「キラキラ星」と名前を変えました。そのために、いつの間にか「きらきら星変奏曲」と呼ばれるのが一般的になったのですが、事情は日本でも同じです。
この作品はモーツァルトの残した手紙によると、ピアノの弟子のためにかかれた作品です。
おそらくは、それぞれの変奏に相応しいピアノのタッチというものを分からせ、それを習熟させることが目的だったのでしょう。それ以外にも分散和音であるとか装飾音などの技法の練習のためにも使われたと思われるのですが、聞き手にとってはそんな事はどうでもいいことです。
それよりも、このシンプルな主題からかくも多様な変奏の妙を生み出したモーツァルトの腕の冴えを楽しめばいいのでしょう。その繊細な変奏と、その組み合わせの上手さには脱帽するしかありません。
「通俗曲」と言うことで聞きとばすのではなく、是非ともそのあたりの妙をじっくりと聞いてみてください。
よせられたコメント
2020-07-06:しょうちゃん
- ハスキルさんの20番のコンチェルトが大好きで、かつてレコードはモノラルからステレオ録音まで数枚買い込みました。一音一音が放つ独特の「暗さ」に魅力を感じていました。この変奏曲の演奏には驚きました。タッチは変わらないのですが、華やかで幸福感に満ちていますね。アップしていただきありがとうございます。
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