ウェーバー:コンツェルトシュテュック(ピアノ小協奏曲)
(P)カサドシュ セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1952年1月20日録音
Weber:コンツェルトシュテュック(ピアノ小協奏曲)
物語風の作品
ウェーバーという人は、あのモーツァルトの妻であったコンスタンツェの従兄弟にあたります。ですから、彼の父はウェーバーもモーツァルトのように天才音楽家としてヨーロッパ各地を演奏旅行をして回ることを夢見ていたと伝えられています。
しかし、残念なことに幼少の頃のウェーバーはモーツァルトのような天才ぶりを発揮することはなく、どちらかといえば平凡な少年時代でした。しかし、9才から正式な音楽教育を受けると、急激にその才能を顕わし、作曲家としてもピアニストとしてもヨーロッパを代表する偉大な音楽家となっていきます。
ピアニストとしても一流だったウェーバーはその生涯に三曲のコンチェルトを書いていますが、現在も演奏されるのは「コンチェルトシュテック(小協奏曲)」と題されたこの作品ぐらいです。
単一楽章からなるこじんまりとした作品ですが、ウェーバー自身が中世の姫君と騎士のロマンが語られていると記しているように、物語風の展開をうかがわせるような作品となっています。
曲は4つの部分からなり、第1部は騎士を戦場に送り出した姫君の嘆き、第2部は姫君がさいなまされる恐ろしい妄想、第3部は騎士達の帰還、第4部は姫君の喜び、となっているそうです。楽譜にその様なことが書き込まれているわけではないようですが、この作品を演奏するときにその様なことをウェーバー自身が常に語っていたという話が伝わっています。
カサドシュが主導権を握った演奏
セルは実に慎ましく端正に伴奏をつけています。カサドシュも、この作品が持つ物語性に寄りかかるようなことはしないで、これもまた造形を崩すことなく、また名人芸のひけらかしになることもなく、粋に演奏しています。
セルはカサドシュとはたくさんの録音をしているのですが、常々、セルはカサドシュというピアニストをどのように見ていたのだろうかと疑問に思うことがあります。逆に、カサドシュもどのような思いでセルという指揮者と共同作業を続けていたのだろうかと疑問に思うことがあります。
セルという人はピアニストとしても超がつくほどの一流でしたから、ちょっとやそっとではピアニストを評価しない人でした。(セルが評価したピアニストというだけで、それが一つのブランドとなるほどでした。例えば、カーゾン・・・。)ですから、ピアニストとの方もその様なセルと共同作業を行うことに二の足を踏みました。
例えば、駆け出しの才能のあるピアニストならば、ひたすらセルの指示に従って仕事を全うすることも可能だったでしょうが、それなりに一家をなしたようなピアニストだとその共同作業はなかなかに難しいものだったと想像されます。
そして、あれこれの経緯を見てみると、セルがカサドシュを高く評価していたという記述はついぞ目にしたことがありません。ですから、カサドシュとの共同作業というのはセルが望んだものではなく、おそらくはレコード会社からの要望だったのかもしれません。それでも、普通のピアニストならその様なセルとの共同作業というのは二の足を踏むと思うのですが、このカサドシュはそんなあれこれの経緯は全く眼中にないかのように飄々とセルとの共同作業をこなしていっているように見えます。
ただし、この50年代初頭の演奏では、ようやく台頭してきたばかりのセル&クリーブランドのコンビに対して、カサドシュの方が主導権を握っているように見えます。そして、この両者の関係はこのあとのモーツァルトの協奏曲の録音では次第に主導権がセルの方に移り、最後はセルの美学が貫徹されるような演奏に変化していきます。しかし、それでもカサドシュはあまり意に介せずに淡々と己の仕事をこなしているように見えます。
もしこの二人の関係に詳しい方がおられたら、そのへん事を是非とも教えていただきたいと思います。
実に不思議なピアニストです。
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