モーツァルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525
カール・ミュンヒンガー指揮 シュトゥットガルト室内管弦楽団 1951年録音
Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [1. Allegro]
Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [2. Romance (Andante)]
Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [3. Menuetto (Allegretto)]
Mozart:Serenade in G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [4. Rondo (Allegro)]
この作品は驚くほど簡潔でありながら、一つの完結した世界を連想させるものがあります。
「音符一つ変えただけで音楽は損なわれる」とサリエリが感嘆したモーツァルトの天才をこれほど分かりやすく提示してくれる作品は他には思い当たりません。
おそらくはモーツァルトの全作品の中では最も有名な音楽の一つであり、そして、愛らしく可愛いモーツァルトを連想させるのに最も適した作品です。
ところが、それほどまでの有名作品でありながら、作曲に至る動機を知ることができないという不思議さも持っています。
モーツァルトはプロの作曲家ですから、創作には何らかのきっかけが存在します。
それが誰かからの注文であり、お金になる仕事ならモーツァルトにとっては一番素晴らしい動機だったでしょう。あるいは、予約演奏会に向けての作品づくりであったり、出来のよくない弟子たちのピアノレッスンのための音楽作りであったりしました。
まあ早い話が、お金にならないような音楽づくりはしなかったのです。
にもかかわらず、有名なこの作品の創作の動機が今もって判然としないのです。誰かから注文があった気配はありませんし、演奏会などの目的も考えられません。何よりも、この作品が演奏されたのかどうかもはっきりとは分からないのです。
そして、もう一つの大きな謎は、そもそもこの作品はどのようなスタイルで演奏されることを想定していたかがよく分からないのです。具体的に言えば、1声部1奏者による5人の弦の独奏者で演奏されるべきなのか、それとも弦楽合奏で演奏されるべきなのかと言うことです。
今日では、この作品は弦楽合奏で演奏されるのが一般的なのですが、それは、そのスタイルを採用したときチェロとコントラバスに割り振られたバス声部が素晴らしく美しく響くからです。しかし、昨今流行の「歴史的根拠」に照らし合わせれば、どちらかといえば1声部1奏者の方がしっくりくるのです。
さらに、ついでながら付け加えれば、モーツァルトの「全自作目録」には「アイネ・クライネ・ナハトムジーク。アレグロ、
メヌエットとトリオ 、ロマンツェ、メヌエットとトリオ、フィナーレから構成される」と記されていて、この作品の原型はもう一つのメヌエット楽章を含む5楽章構成だったのです。そして、その失われたメヌエット楽章は他の作品に転用された形跡も見いだせないので、それは完全に失われてしまっているのです。
ただし、その失われた事による4楽章構成が、この簡潔なセレナードをまるで小ぶりの交響曲であるかのような雰囲気にかえてしまっているのです。
ですから、それは「失われた」のではなくて、モーツァルト自身が後に意図的に取り除いた可能性も指摘されるのです。
そんなわけで、自分のために音楽を作るということはちょっと考えづらいモーツァルトなのですが、もしかしたら、この作品だけは自分自身のために作曲したのかもしれないのです。
もしそうだとすると、これは実に貴重な作品だといえます。そして、そう思わせるだけの素晴らしさを持った作品でもあります。
ただし、それはどう考えても「あり得ない」妄想なので、おそらくは今となっては忘れられてしまった。そして記されなかった何らかの理由があったのでしょう。つまりは、それほどまでにモーツァルトは「プロの作曲家」だったのです。
若い団体が育っていく一側面を示す演奏
彼らが演奏したモーツァルトの「
ディヴェルティメント ニ長調 K.136 」は実に見事ものでした。
すでに紹介しているように、ミュンヒンガーがシュトゥットガルトで室内管弦楽団を設立したのは戦争が終わった1945年のことでした。弦楽器を主体とした10数名程度の団体だったようなのですが、工業の中心だったがゆえに徹底的に空爆をされて瓦礫となった街ですぐに音楽活動を始めたという事実には驚かされます。
それ故にと言うべきか、その活動は全くの「ゼロ」からのスタートであり、そこには驚くほどの若々しさと自発性があふれていました。指揮者であるミュンヒンガーを貶める意図は全くないのですが、それは、まるで指揮者などは全く存在していないかのような印象すら与えるのです。
もっとも、注意深く聞けば、細かいアクセントの付け方や微妙なデュナーミク等に関してはミュンヒンガーが適切に指示を与えていることはすぐに了解できます。ただし、そう言う細かい表現の有り様というのは、あくまでも全員の総和であり、ミュンヒンガーもその枠に従って適切に指示を出していたのだろうと推測されます。
そして、そう言う基本的な部分は同じ年に録音されたもう一つのモーツァルト作品である「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」にも適用されているのですが、すでに紹介している「K.136(ザルツブルク・シンフォニーとも言われる作品の一つ)」の時ほどには上手くいっていない部分があるようです。
おそらく、成熟したモーツァルトが謎のようにポツンと残したこのセレナードをどのように消化すればいいの、か最後まで迷っていたのかもしれません。
ただの素人が偉そうな言い方をして申し訳ないのですが、おそらくはレーベルから録音を依頼されたものの(何といってもとびきり有名な作品ですから)、さて、これをどう解釈しようかとなったときに議論百出して、結果として、「団体」としては消化しきれなかったのではないかという想像が沸き起こってくるのです。
それ故に、全体としては平均的な解釈にもたれかかった演奏となって、50年代の彼らならではの強烈な自発性と若々しさが後退してしまったのかもしれません。
しかし、それもまた、若い団体が育っていく一側面ですから、それを紹介することにも意味はあるでしょう。
それと、録音テープの保管状態が悪かったのか、同じ年に録音されたもう一枚のディヴェルティメントと較べてもあまり音質がよろしくありません。おそらくは、録音のクオリティには違いはないのでしょうが復刻に使った音源に問題があったのかもしれません。
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