ブラームス:交響曲第3番
ワインガルトナー指揮 ロンドンフィル 1938年10月6日録音
Brahms:交響曲第3番「第1楽章」
Brahms:交響曲第3番「第2楽章」
Brahms:交響曲第3番「第3楽章」
Brahms:交響曲第3番「第4楽章」
秋のシンフォニー
ユング君は長らくブラームスの音楽が苦手だったのですが、その中でもこの第3番のシンフォニーはとりわけ苦手でした。
理由は簡単で、最終楽章になると眠ってしまうのです(^^;
今でこそ曲の最後がピアニシモで消えるように終わるというのは珍しくはないですが、ブラームスの時代にあってはかなり勇気のいることだったのではないでしょうか。某有名指揮者が日本の聴衆のことを「最初と最後だけドカーンとぶちかませばブラボーがとんでくる」と言い放っていましたが、確かに最後で華々しく盛り上がると聞き手にとってはそれなりの満足感が得られることは事実です。
そういうあざとい演奏効果をねらうことが不可能なだけに、演奏する側にとっても難しい作品だといえます。
第1楽章の勇壮な音楽ゆえにか、「ブラームスの英雄交響曲」と言われたりもするのに、また、第3楽章の「男の哀愁」が滲み出すような音楽も素敵なのに、「どうして最終楽章がこうなのよ?」と、いつも疑問に思っていました。
そんなユング君がふと気がついたのが、これは「秋のシンフォニー」だという思いです。(あー、またユング君の文学的解釈が始まったとあきれている人もいるでしょうが、まあおつきあいください)
この作品、実に明るく、そして華々しく開始されます。しかし、その明るさや華々しさが音楽が進むにつれてどんどん暗くなっていきます。明から暗へ、そして内へ内へと音楽は沈潜していきます。
そういう意味で、これは春でもなく夏でもなく、また枯れ果てた冬でもなく、盛りを過ぎて滅びへと向かっていく秋の音楽だと気づかされます。
そして、最終楽章で消えゆくように奏されるのは第一楽章の第1主題です。もちろん夏の盛りの華やかさではなく、静かに回想するように全曲を締めくくります。
そう思うと、最後が華々しいフィナーレで終わったんではすべてがぶち壊しになることは容易に納得ができます。人生の苦さをいっぱいに詰め込んだシンフォニーです。
意外なほど意志的で強靱な響き
ワインガルトナーといえばスタイリッシュで淡泊な演奏をした人というイメージがあります。
しかし、最晩年に彼が残したブラームスの演奏を聴き直してみて、少し考えをあらためました。4番の最終楽章ではちょっと粘る部分はありますが、全体としては颯爽としたスタイリッシュな演奏に仕上がっているところは、ワインガルトナーらしいといえます。しかし、ここで聞ける演奏はそれだけにとどまらず、意志的で強靱な響きが聞こえてきます。
ワインガルトナーってこんなにがっちりとした音楽を聞かせる人だったのかと少し驚かされました。
ワインガルトナーは1863年に現在のクロアチアで生まれ、その後リストの弟子となって音楽を学んだという経歴を持っています。そして、当時のお決まりだと思うのですが、地方の歌劇場からスタートして少しずつキャリアを積み上げていき、1891年にはベルリン宮廷歌劇場の首席指揮者にまでのぼりつめます。さらに、1908年にはグスタフ・マーラーの後任としてウィーン宮廷歌劇場とウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任しています。
まさに順風満帆の音楽家生活だと思うのですが、晩年になるとナチスの台頭によりその生活にも影が差してきます。1934年に再び就任したウィーン国立歌劇場の音楽監督も36年には辞任せざるを得なくなり(ワインガルトナーはユダヤ人でした)、さらにローザンヌからパリに居を移し、第2次対戦の勃発直前にはロンドンへの亡命を余儀なくされます。
私の見るところ、このナチス台頭以後の録音には、それまでのワインガルトナーにはなかった強い意志のようなものが演奏に現れてきているように思います。
また、録音セッションを長年にわたって経験してきた人だけに、ライブ演奏との違いもよく知っていたように思います。何度も何度も繰り返し聞かされることを前提とした録音では、派手さはなくてもきっちり仕上げることの大切さをよく分かっていた人だと思います。しかし、ケレン味なく音楽を展開させながら次第次第に盛り上げていって最後でクライマックスを築き上げていくあたりはなかなかの手腕だと思います。
一部、原盤に起因すると思われるノイズはありますが音質的にはこの時代のものとしてが最上に属するものです。最晩年のワインガルトナーを知るには絶好の録音だといえます。
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