クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ワーグナー:ジークフリート牧歌

ピエール・モントゥー指揮 サンフランシスコ交響楽団 1960年1月24日録音





Wagner:Siegfried-Idyll, WWV 103


階段の音楽

この作品の誕生に関わるエピソードはあまりにも有名です。

ジークフリート牧歌は、1870年、晴れて自分の妻となったコジマへの誕生日プレゼントとして創作されました。しかし、コジマの誕生日までそのプロジェクトは極秘であり、練習も家族に知られないように行われたと言います。
そして、誕生日当日の朝、コジマは美しい音楽で目をさますことになります。階段に陣取った17名の演奏家とワーグナーによる彼女へのプレゼントが同時に世界初演となったわけです。
そして、音楽が終わると、ワーグナーはうやうやしく総譜をコジマに手渡したと言います。

なかなかやるもんです。
そして、コジマと子供たちはこの作品を「階段の音楽」と呼んで何度も何度もアンコールしたと言うエピソードも伝わっています。

こういうお話を聞くとワーグナーってなんていい人なんだろうと思ってしまいます。しかし、事実はまったく正反対で、音楽史上彼ほど嫌な人間はそういるものではありません。(-_-;)おいおい

ただ、コジマとの結婚をはたし、彼女とルツェルンの郊外で過ごした数年間は彼にとっては人生における最も幸福な時間でした。そして、その幸福な時代の最も幸福なエピソードにつつまれた作品がこのジークフリート牧歌です。
それ故にでしょうか、この作品はワーグナーの作品の中では最も幸福な色彩に彩られた作品となっています
こういうのを聴くと、つくづくと人格と芸術は別物だと思わせられます。

モントゥーだからこそ可能だった、そして許された芸だったのかもしれません


これは1960年に、久しぶりにモントゥーがサンフランシスコ響を指揮して録音したものです。
録音クレジットを調べてみれば、前日(1960年1月23日)にシュトラウスの「死と変容」を録音して、その翌日(1960年1月24日)にこの「ジークフリート牧歌」を録音しています。

どういう経緯でこの録音が計画されたのかは分からないのですが、60年に録音されながら、「ジークフリート牧歌」の方はベートーベンの交響曲第4番の埋め草のようにして1965年に始めてリリースされています。
そして、「死と変容」の方に至っては1969年になってこの「ジークフリート牧歌」との組み合わせで始めて日の目を見ているのです。
つまりは、録音はしたものの長い間塩漬けになっていたのです。

それは、もしかしたら1961年からヨーロッパに戻ってロンドン響の首席指揮者に就任したことが影響をしているのかも知れません。今と違ってこのあたりの録音関係の制限は昔は厳しかったと聞いています。
また、演奏の方もよく言えば大らか、悪く言えば大雑把なものになっていたことも影響していたのかも知れません。

モントゥーは1940年代からサンフランシスコ響の音楽監督を務めていたのですが、実に気長にこの下手くそなオケを鍛え上げていった人でした。
モントゥーと言えば「独裁せずに君臨する」と言われた指揮者なのですが、その典型がこのサンフランシスコ響の音楽監督の時代でした。

そう言う「前史」があるからでしょうか、久しぶりに客演をしてもモントゥーは五月蠅いことは言わずに実に大らかに音楽を導いています。
管楽器も弦楽器も所々バランスを欠いているように聞こえる部分があちこちにあるのですが、そんな「些細」な事は一切気にしないで悠然と、そしてある意味ではエレガントに進んでいきます。

おそらく、この時代であっても、そう言うバランスの悪さは録り直しの用件には十分になりうるのでしょうが、モントゥーがそれでOKならばそれで全てがOKだったのでしょう。
RCAの録音スタッフがそれ以上何を言えるでしょうか・・・って、まるで見てきたようなことを書いているのですが、概ねその様な事情もあって長期の塩漬けの原因になったに違いありません。

でも、聞き手にしてみればこういう大らかさは心地いいですし、貴重です。
それはもう、80歳を超えてもなお第一線の現役として活躍していたモントゥーだからこそ可能だった、そして許された芸だったのです。

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