ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
P:ラフマニノフ ストコフスキー指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1929年録音
Rachmaninov:ピアノ協奏曲第2番「第1楽章」
Rachmaninov:ピアノ協奏曲第2番「第2楽章」
Rachmaninov:ピアノ協奏曲第2番「第3楽章」
芸人ラフマニノフ
第3楽章で流れてくる不滅のメロディは映画「逢い引き」で使われたことによって万人に知られるようになり、そのために、現在のピアニストたちにとってなくてはならない飯の種となっています。
まあ、ラフマニノフ自身にとっても第1交響曲の歴史的大失敗によって陥ったどん底状態からすくい上げてくれたという意味で大きな意味を持っている作品です。(この第1交響曲の大失敗に関しては
こちらでふれていますのでお暇なときにでもご覧下さい。)
さて、このあまりにも有名なコンチェルトに関してはすでに語り尽くされていますから、今さらそれにつけ加えるようなことは何もないのですが、一点だけつけ加えておきたいと思います。
それは、大失敗をこうむった第1交響曲と、その失敗から彼を立ち直らせたこのピアノコンチェルトとの比較です。
このピアノコンチェルトは重々しいピアノの和音で始められ、それに続いて弦楽器がユニゾンで主題を奏し始めます。おそらくつかみとしては最高なのではないでしょうか。ラフマニノフ自身はこの第1主題は第1主題としての性格に欠けていてただの導入部になっていると自戒していたそうですが、なかなかどうして、彼の数ある作品の中ではまとまりの良さではトップクラスであるように思います。
また、ラフマニノフはシンコペーションが大好きで、和声的にもずいぶん凝った進行を多用する音楽家でした。
第1交響曲ではその様な「本能」をなんの躊躇いもなくさらけ出していたのですが、ここでは随分と控えめに、常に聞き手を意識しての使用に留めているように聞こえます。
第2楽章の冒頭でもハ短調で始められた音楽が突然にホ長調に転調されるのですが、不思議な浮遊感を生み出す範囲で留められています。その後に続くピアノの導入部でもシンコペで三連音の分散和音が使われているのですが、えぐみはほとんど感じられません。
つまり、ここでは常に聞き手が意識されて作曲がなされているのです。
聞き手などは眼中になく自分のやりたいことをやりたいようにするのが「芸術家」だとすれば、常に聞き手を意識してうけないと話は始まらないと言うスタンスをとるのが「芸人」だと言っていいでしょう。そして、疑いもなく彼はここで「芸術家」から「芸人」に転向したのです。ただし、誤解のないように申し添えておきますが、芸人は決して芸術家に劣るものではありません。むしろ、自称「芸術家」ほど始末に悪い存在であることは戦後のクラシック音楽界を席巻した「前衛音楽」という愚かな営みを瞥見すれば誰でも理解できることです。
本当の芸術家というのはまずもってすぐれた「芸人」でなければなりません。
その意味では、ラフマニノフ自身はここで大きな転換点を迎えたと言えるのではないでしょうか。
ラフマニノフは音楽院でピアノの試験を抜群の成績で通過したそうですが、それでも周囲の人は彼がピアニストではなくて作曲家として大成するであろうと見ていたそうです。つまりは、彼は芸人ではなくて芸術家を目指していたからでしょう。ですから、この転換は大きな意味を持っていたと言えるでしょうし、20世紀を代表する偉大なコンサートピアニストとしてのラフマニノフの原点もここにこそあったのではないでしょうか。
そして、歴史は偉大な芸人の中からごく限られた人々を真の芸術家として選び出していきます。
問題は、この偉大な芸人ラフマニノフが、その後芸術家として選び出されていくのか?ということです。
これに関しては私は確たる回答を持ち得ていませんし、おそらく歴史も未だ審判の最中なのです。あなたは、いかが思われるでしょうか?
ピアニストとしてのラフマニノフ
ラフマニノフは巨大な手をもっていて1オクターブ半を同時に押さえることができたと言います。これはマルファン症候群と呼ばれる病気のためだったと言われています。この病気はピアニストにとっては一般人では不可能な演奏をすることができるがために有利にはたらくことがおおいようです。(そういえば、冒頭の和音を同時に押さえることができないので、分散和音で乗り切るピアニストも多いようです。確か指が短めだったアシュケナージもそうしていたのではないでしょうか)
しかし、この演奏はその様な肉体的特徴を発揮した軽業師的な演奏と思ったら大間違いです。確かに、テンポは一般的なものと比べると早いです。このような技術的に難しい作品のテンポをあげるというのは、それだけをもって困難がともなうものですが、ラフマニノフはそのテンポでもって淡々と素晴らしい歌を歌い上げていきます。とりわけ第2楽章では微妙にテンポを揺らしながら歌い上げていく様は実に見事です。
録音的にはかなり苦しいものがあるのですが、その価値は永遠は消え去ることはないでしょう
よせられたコメント
2008-03-31:伊達 容子
- 私の生まれるずーと以前に、こんな演奏があり作曲者ラフマニノフ自身が演奏し、しかもそれが録音され今復活していることの不思議に感動しています。
私もピアニストを目指した一人ですが、この曲をこんなにやすやすと弾ける、大きな手を神から与えられたこと、しかも豊かな感受性もすごいことです。天才に乾杯。
【最近の更新(10件)】
[2026-06-13]

ベートーベン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 「大公」 Op.97(Beethoven:Piano Trio No.7, Op.97 in B-flat major "Archduke")
(Vn)ダヴィド・オイストラフ (P)レフ・オボーリン (Cello)スヴィヤトスラフ・クヌシェヴィツキー 1958年5月9日~10日&12日録音((Vn)David Oistrakh:(P)Lev Oborin (Cello)Sviatoslav Knushevitsky Recorded on May 9-10&12, 1958)
[2026-06-11]

フランツ・シュミット:ピアノ五重奏曲(Schmidt:Piano Quintet in G major)
バリリ四重奏団:(P)イエルク・デムス 1952年録音(Barylli Quartet:(P)Jorg Demus Recorded on 1952)
[2026-06-09]

バッハ:教会カンタータ 「死人の中より甦りしイエス・キリストを覚えよ」 BWV67(J.S.Bach:Halt im Gedachtnis Jesum Christ, BWV 67)
ギュンター・ラミン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 トーマス教会少年合唱団 他 1954年2月26日録音(Gunther Ramin:Gewandhausorchester Leipzig Thomanerchor Leipzig (Org)Hannes Kastner (A)Gertrud Wagner (T)Gert Lutze (Bass)BJohannes Oettel Recorded on February 26, 1954)
[2026-06-07]

エルガー:セレナーデ Op.20(Elgar:Serenade for String Orchestra in E minor, Op.20)
マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1959年6月6日録音(Sir Malcolm Sargent:The Philharmonia Orchestra Recorded on June 6, 1959)
[2026-06-05]

ハイドン:弦楽四重奏曲 ハ長調, Hob.III:65(Haydn:String Quartet in C major, Hob.III:651)
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団:1954年録音(Vienna Concert House Quartet:Recorded on 1954)
[2026-06-03]

バッハ:教会カンタータ 「人々シバよりみな来たりて」 BWV65(J.S.Bach:ie werden aus Saba alle kommen, BWV 65)
ギュンター・ラミン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 トーマス教会少年合唱団 (T)Gert Lutze (Bass)BJohannes Oettel 1952年1月11日録音(Gunther Ramin:Gewandhausorchester Leipzig Thomanerchor Leipzig (T)Gert Lutze (Bass)BJohannes Oettel Recorded on January 11, 1952)
[2026-06-01]

バルトーク:子供のために Sz.42(Bartok:For Children, Sz.42)
(P)ジェルジ・シャーンドル:1951年1951年9月12日録音(Gyorgy Sandor: Recorded on September 12, 1951)
[2026-05-30]

プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調, Op.19(Prokofiev:Violin Concerto No.1 in D major, Op.19)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニッ音]1956年2月27日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos New York Philharmonic Recorded on February 27, 1956)
[2026-05-28]

ルーセル:フルート三重奏曲 ヘ長調 Op.40(Roussel:Trio for Flute, Viola and Cello in F major, Op.40)
(Cello)エティエンヌ・パスキエ (Vn)ピエール・パスキエ (Fl)ジャン・ピエール・ランパル 1954年発行(Pierre Pasquier:(Cello)Etienne Pasquier (Fl)Jean-Pierre Rampal Published in 1954)
[2026-05-26]

プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 Op.63(Prokofiev:Violin Concerto No.2 in G minor, Op.63)
(Vn)ダヴィド・オイストラフ:アルチェオ・ガリエラ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1958年5月14日&19日録音(David Oistrakh:(Con)Alceo Galliera The Philharmonia Orchestra Recorded on May 14&19, 1958)