クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」

ワルター指揮 ウィーンフィル 1938年1月11日





Mozart:交響曲第41番「ジュピター」「第1楽章」

Mozart:交響曲第41番「ジュピター」「第2楽章」

Mozart:交響曲第41番「ジュピター」「第3楽章」

Mozart:交響曲第41番「ジュピター」「第4楽章」


これもまた、交響曲史上の奇跡でしょうか。

モーツァルトはお金に困っていました。1778年のモーツァルトは、どうしようもないほどお金に困っていました。
1788年という年はモーツァルトにとっては「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた年ですから、作曲家としての活動がピークにあった時期だと言えます。ところが生活はそれとは裏腹に困窮の極みにありました。
原因はコンスタンツェの病気治療のためとか、彼女の浪費のためとかいろいろ言われていますが、どうもモーツァルト自身のギャンブル狂いが一番大きな原因だったとという説も最近は有力です。

そして、この困窮の中でモーツァルトはフリーメーソンの仲間であり裕福な商人であったブーホベルクに何度も借金の手紙を書いています。
余談ですが、モーツァルトは亡くなる年までにおよそ20回ほども無心の手紙を送っていて、ブーホベルクが工面した金額は総計で1500フローリン程度になります。当時は1000フローリンで一年間を裕福に暮らせましたから結構な金額です。さらに余談になりますが、このお金はモーツァルトの死後に再婚をして裕福になった妻のコンスタンツェが全額返済をしています。コンスタンツェを悪妻といったのではあまりにも可哀想です。
そして、真偽に関しては諸説がありますが、この困窮からの一発大逆転の脱出をねらって予約演奏会を計画し、そのための作品として驚くべき短期間で3つの交響曲を書き上げたと言われています。
それが、いわゆる、後期三大交響曲と呼ばれる39番〜41番の3作品です。

完成された日付を調べると、39番が6月26日、40番が7月25日、そして41番「ジュピター」が8月10日となっています。つまり、わずか2ヶ月の間にモーツァルトは3つの交響曲を書き上げたことになります。
これをもって音楽史上の奇跡と呼ぶ人もいますが、それ以上に信じがたい事は、スタイルも異なれば性格も異なるこの3つの交響曲がそれぞれに驚くほど完成度が高いと言うことです。
39番の明るく明晰で流麗な音楽は他に変わるものはありませんし、40番の「疾走する哀しみ」も唯一無二のものです。そして最も驚くべき事は、この41番「ジュピター」の精緻さと壮大さの結合した構築物の巨大さです。
40番という傑作を完成させたあと、そのわずか2週間後にこのジュピターを完成させたなど、とても人間のなし得る業とは思えません。とりわけ最終楽章の複雑で精緻きわまるような音楽は考え出すととてつもなく時間がかかっても不思議ではありません。
モーツァルトという人はある作品に没頭していると、それとはまったく関係ない楽想が鼻歌のように溢れてきたといわれています。おそらくは、39番や40番に取り組んでいるときに41番の骨組みは鼻歌混じりに(!)完成をしていたのでしょう。
我々凡人には想像もできないようなことではありますが。

痛ましいほどの悲しみに貫かれた演奏


ワルターという人は、その経歴を追ってみると驚くほどの「政治音痴」であるかのように見えます。
1933年にナチスの台頭でドイツを追われた彼が向かったのは何とオーストリアでした。(^^;
やがてオーストリアもドイツに併合されると、今度はフランスに向かいます。(^^;
そして、第2次大戦が勃発した1939年の10月31日に、ワルターはアメリカ行きの船に乗ります。
目先の利く連中はそんな馬鹿げた回り道はしないでさっさとアメリカに向かい、それぞれの生活基盤をせっせと築いていたのに、ワルターは最後の最後までヨーロッパにしがみついていました。

この録音は、そんなワルターがヨーロッパを転々としている時に残したものです。彼が愛したヨーロッパはナチスに蹂躙され、自らの生命に危険さえも感じざるをえないような極限状態での演奏でした。それは、滅びへの道を転がり落ちていくヨーロッパの姿を見つめるワルターの心象風景が痛ましいほどに刻み込まれた演奏のように聞こえます。
誤解を恐れずに一言でまとめれば、「痛ましいほどの悲しみ」に包まれた演奏だと言えます。私は、ジュピターがこんなにも悲しげに響くのを聞いたことがありません。

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