ボロディン:交響曲第2番 ロ短調
ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1960年1月20日&26日~27日録音
Borodin:Symphony No.2 in D minor [1.Allegro moderato]
Borodin:Symphony No.2 in D minor [2.Scherzo. Molto vivo]
Borodin:Symphony No.2 in D minor [3.Andante]
Borodin:Symphony No.2 in D minor [4.Finale. Allegro]
ロシア国民楽派最高の交響曲
ボロディンと言えば「ロシア五人組」の一人として有名ですが、基本的には音楽を本職としない「日曜作曲家」でした。
聞くところによれば、彼はグルジア皇室の皇太子の子どもとして生まれながら、嫡出ではないと言うことで実子としては登録されなかったそうです。しかし、そういう法的な手続きはどうであれ、皇太子の子どもなのですから音楽も含めて非常にすぐれた教育を受けることが出来ました。よって、ペテルスブルクの医学大学の助教授、教授と進み、最後は有機化学の研究家として多大な業績を残した化学者というのが彼の「本職」となりました。
そんな立ち位置のためか、ボロディンの作品は「未完成」のままに放置されているものが少なくありません。たとえば、彼の代表作とされる「イーゴリ公」も、リムスキー・コルサコフの励ましにもかかわらず完成されることなく、最後は彼の突然の死によって未完成のままで終わりました。そして、それではあまりにも惜しいと思った友人のリムスキー・コルサコフが残されたスケッチなどをかき集めて今日のような「作品」に仕立て上げました。
確かに、彼は「本職」の化学者、教育者としての仕事が忙しくて作曲に時間がとれなかったという面も否定できませんが、基本的には「皇太子の子ども」というやんごとなき生まれのために、その辺の感覚が一般人とはかなりかけ離れていた事も大きく作用したようです。
とにかく、いい人であり、おおらかな人だったようです。
そのあたりのことは、友人のリムスキー・コルサコフが自伝の中であれこれ紹介しているそうです。
たとえば、スケッチを総譜(スコア)になかなか書き移さないので、リムスキー・コルサコフが焦りまくって「あのオペラの例の曲はもう総譜に移したでしょうね?」と聞くと、彼は「うん、もちろん」と答えたそうです。
よかった、間に合ったとと思ってリムスキー・コルサコフが駆けつけると、彼は「総譜はちゃんとピアノ上からから机の上に移しましたよ」と大真面目に答えたそうです。
これでは、怒る気にもなれないでしょうね。
そんな中で、この交響曲の第2番は完成まで8年の年月を要したとは言え、無事に完成にこぎつけたましたから、数少ない大作の中では貴重な存在だと言えます。ロシア国民楽派最高の交響曲とされ、ボロディン自身もこれが完成したときには「勇士」と言う名を与えたほどの自信作でした。
確かに、重厚なユニゾンで開始される第1楽章は「勇士」の名にふさわしい勇壮な音楽となっています。
しかし、この音楽で一番魅力的なのは、誰が何と言ってもアンダンテの第3楽章でしょう。こういう哀愁を含んだ音楽は彼の得意とするところで、冒頭のホルンの歌を聴いただけで心をギュッと掴まれてしまいます。
そして、彼に続くカリンニコフなどの源流がこんなところにあったのだと気づかせてくれます。まあ、そんなことを書いている人はどこにもいませんが、カリンニコフのあのロマンティックで美しい音楽はチャイコフスキーではなく、このボロディンにこそ近しさがあるように思います。
近年になってカリンニコフが再評価されたのですから、このボロディンの交響曲ももう少し演奏されてもいいのではないかと思います。
ひ弱なこの作品をシンフォニックに仕立て直し
ボロディンの交響曲なんて言うのはどう考えてもマイナー曲です。ところが、かなりマイナーな部類に属すると思うのですが、意外なほどに録音に恵まれています。
アンセルメは既にアップしているのですが、それ以外にマルティノンだとかコンドラシン、さらにはあのクライバーさんまでもが録音しているのです。そんな中にこのクーベリックの録音を入れ込んでみると、その存在価値やいかに?とならざるを得ません。
まずは、オケがウィーンフィルだというのがポイント一つです。
そう言えば、この年にウィーンフィルはケルテスと「新世界より」も録音しています。何か一つ変わったことをやりたいという機運でもあったのでしょうか。ただし、あちらの方は録音がデッカで、こちらはEMIです。何が言いたいのかというと、ウィーンフィルにしてはいささか響きが薄めで、デッカ録音のケルテス盤ほどには「美しく」ないのです。
ただし、その辺りは録音の問題なのか、指揮者の音作りの問題なのかははっきりしません。オケの主体性を大切にしているケルテスと較べると(要はやりたいようにやらせている)、クーベリックの方はかなり引き締めにかかっています。その引き締めによって、ウィーンフィル本来の響きがいささかスポイルされている管もあるのですが、やはり一番の問題は録音でしょうね。
ですから、この作品の一番の聞き所である第3楽章も響きが薄くて今ひとつパッとしません。逆にアレグロの両端楽章の方がきりりと引き締まって、構造的にはいささか(かなり?)ひ弱なこの作品をシンフォニックに仕立て直しています。
この時クーベリックはそれなりにキャリアも積み上げてきた40代半ば、ケルテスは全く駆け出しの30代。
ところが、結果がこうなると、何が幸いするのか分かったものではなく、音楽とは難しいものだと思わずにはおれません。
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