ショーソン:交響曲 変ロ長調 作品20
モントゥー指揮 サンフランシスコ交響楽団 1950年2月28日録音
Chausson:Symphony in B-flat major Op.20 [1.Lent - Allegro vivo - Allegro molto]
Chausson:Symphony in B-flat major Op.20 [2.Tres lent -nUn peu plus vite]
Chausson:Symphony in B-flat major Op.20 [3.Anime - Tres anime]
上品な叙情性に溢れた音楽
「フランキスト」なる言葉があります。作曲家フランクの弟子や影響を受けた音楽家のことをそのように呼ぶようです。
そして、その「フランキスト」の中で最も重要な存在がエルネスト・ショーソンです。
師であるフランクが、その晩年に狙いすましたように各ジャンルで1曲ずつきわめて完成度の高い作品をリリースしたように、ショーソンもまた寡作な作曲家でした。
ショーソンと言えばまず思い浮かぶのが「詩曲」なのですが、それ以外の作品となると大部分が「歌曲」ですから、フランスでも基本的に「歌の人」と評価されているようです。彼のトレードマークである「詩曲」のように管弦楽を使った作品は非常に少なくて、管弦楽伴奏の歌曲集を含めても5曲にも満たないはずです。
そんなショーソンが、1989年から1890年にかけて「交響曲」を生み出しました。彼の創作活動をを概観してみれば、これは実に持って画期的なことだと言えます。
その背景には、サン=サーンスの「交響曲第3番ハ短調(オルガン付き)」やフランクの「交響曲ニ短調」が生み出され、さらには同じフランキスト仲間であるダンディも「フランス山人の歌による交響曲」を発表するという、フランスにおける交響曲の高揚という流れがあったようです。
師であるフランクの交響曲と同様に3楽章構成であり、さらにはフランクのトレードマークともいうべき「循環形式」が採用されています。ただし、その循環形式は冒頭の導入部が最後のエンディングで思い出のように繰り返される程度ですから、かなり控えめな使われ方ではあります。また、第1楽章のトランペットが演奏する印象的なメロディも最終楽章でよみがえるのですが、どちらにしても師の交響曲と較べれば控えめであることは間違いありません。
そして、ショーソンも交響曲でもっとも印象的なのはそう言う場面ではなくて、中間部の第2楽章の叙情性です。
ショーソンの叙情は「詩曲」でもそうだったように、甘さゼロのキリッとした上品さが持ち味なのですが、ここではさらに磨きのかかった上品さによって貫かれています。
なお、この作品は1891年にショーソン自身の指揮で行われてまずまずの成功をおさめるのですが、評価が決定的になったのはニキッシュが1897年にベルリンフィルで取り上げて大成功を収めたことによります。しかし、最近はあまり光の当たることの少ない作品になっているのですが、実際に聞いてみれば十分すぎるほどに魅力的な音楽であることはすぐに気づくはずです。
もう少し取り上げられてもいい交響曲です。
気迫に精緻さが追いついた時代
モントゥーのことをかつて「プロ中のプロ」と書いたことがありました。
キャリアには恵まれず、客演活動が中心だったのですが、どのオケにいってもその指揮のテクニックだけで楽団員を信服させてしまい、「独裁せずに君臨する」と言われました。
そんなモントゥーにとって、唯一、手兵とも言えるオケだったのがサンフランシスコ交響楽団でした。
どんな経緯で、フランスからサンフランシスコに流れていったのかは分かりませんが、1935年から17年間にわたってモントゥーはこのオケの音楽監督をつとめています。そして、40年代から50年代にかけてRCAレーベルからこのコンビで40枚近いレコードをリリースしています。
ただし、この一連の録音を聞いてみると、これまたどういう経緯で、かくも多くの録音活動が行われたのだろう、と首をかしげざるを得ません。
何故ならば、40年代の録音を聞いてみると、やけに元気はいいもののかなり荒い演奏をしているからです。
もっと、はっきりと言えば、かなり下手くそなのです。
かくもへたくそなオケに対して天下のRCAレーベルが継続的に録音活動オファーしたというのは、ひとえにモントゥーの商品価値が高かったということなのでしょう。
そして、オケに対して「独裁者」的な立場で望むことをよしとしなかったモントゥーは、実に長い時間をかけてゆっくりとこのへたくそなオケを熟成させていきます。
そう、それはまさに「育て上げる」と言うよりは「熟成」といった方がぴったりな感じで、少しずつ少しずつ完成度を上げていっているのです。
世上に名高い、50年録音の「幻想交響曲」の録音は、ホントに下手くそだった地方オケが、ついに世界レベルにまで熟成したことを世に証明しました。
このコンビの一番良いところは、指揮者がオケを一切締め上げていないことから来る前向きな勢いが横溢していることです。
40年代には、その前向きな勢いだけが前に出すぎて演奏の精度が全く追いついていなかったのが、漸くにしてその両者が良い具合にバランスがとれるようになったのです。
そして、50年代に録音された他の作品においても同これとほぼ同様のことが言えます。
40年代の録音の多くは、録音のクオリティのみならず演奏の質においてもモントゥーの名誉にはならないようなものが多いのですが、50年以降のものはほぼ外れはないようです。
調べてみると、モントゥー&サンフランシスコ響による50年代の主な録音は以下の通りです。
- マーラー:『亡き子をしのぶ歌』 1950年2月26日録音
- フランク:交響曲ニ短調 1950年2月27日録音
- ベルリオーズ:幻想交響曲Op.14 1950年2月27日録音
- ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調Op.93 1950年2月28日録音
- ショーソン:交響曲変ロ長調Op.20 1950年2月28日録音
- ストラヴィンスキー:春の祭典 1951年1月28日録音
- ドビュッシー:管弦楽のための『映像』 1951年4月3日録音
- ブラームス:交響曲第2番ニ長調Op.73 1951年4月4日録音
- ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調Op.60 1952年4月7日録音
- シューマン:交響曲第4番ニ短調Op.120 1952年4月7日録音
また、幻想を取り上げたときには、それでもなお「荒いことは荒いです。」とコメントしたのですが、その後、この録音がマイク2本によるワンポイント録音だったことを知り、そのコメントはいささか酷であることに気づきました。
これが後の時代のマルチ録音ならば、そう言う楽器間のバランスの悪さはいかようにも修正が聞くのですが、ワンポイント録音ならば、そこで鳴り響いている楽器のバランスが全てです。録音が終わってから、そのバランスを修正することは不可能です。
さらに、上の録音データを見れば、ほとんど全ての録音が基本的には一発録りだった雰囲気です。
おそらくはコンサートで取り上げた後に、同じ会場で録音したのではないかと思われます。
それらの事を勘定に入れれば、そしてこの時代のオケのレベルを考えれば、かなり精緻な部類に入る演奏だといわねばなりません。
例えば、金管群の弱さなどを感じる部分もあるのですが、それでも、あの下手くそだった地方オケをよくぞここまで熟成させたものだと感心せざるを得ません。そして、不思議なのは、漸くにしてここまで時間をかけて熟成させたオケを54年には手放してしまい、その後はボストン響との関係を深めていったことです。
サンフランシスコ響にしても、モントゥーの後釜は「エンリケ・ホルダ」なる指揮者だったのですから、この「縁切り」はかなりの傷手だったはずです。
やはり不思議な男です。
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