クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドビュッシー:子供の領分 - ピアノだけの小さな組曲

(P)アルベール・フェルベール1954年3月11~13日録音



Debbussy:Children's Corner [1. Doctor Gradus ad Parnassum]

Debbussy:Children's Corner [2. Jumbo's Lullaby]

Debbussy:Children's Corner [3. Serenade of the Doll]

Debbussy:Children's Corner [4. The Snow is Dancing]

Debbussy:Children's Corner [5. The Little Shepherd]

Debbussy:Children's Corner [Golliwogg's Cakewalk]


父親の優しい言いわけ?

どろどろの不倫劇の中で「喜びの島」を書いたドビュッシーは、やがて不倫相手のエンマ・バルダックと「2度目の結婚」を果たします。
そして、1905年に娘が生まれます。
シュシュという愛称で呼ばれることになるクロード・エマです。

そして、ドビュッシーはこの娘が生まれると、今までのトンデモ人生から一転して、今度は娘への溺愛におぼれていきます。
その溺愛が形となってあらわれた最初のものが、この「大事なかわいいシュシュへ」と題された「子供の領分」です。

ただ、面白いのは、その献辞にはただ「大事なかわいいシュシュへ」ではなくて、「以下に続く曲への父親の優しい言い訳をそえて、大事なかわいいシュシュへ」となっていることです。「父親の優しい言いわけ」って何だろうと想像せずにはおれません。

ただし、「シュシュへ」と題されてはいても、、子供に聞いてもらうための作品でもありません。ましてや、子供が演奏できるような作品でもありません。
しかし、同時に子供でも楽しんで聞けるように分かりやすく単純化された音楽になっています。

そして、そのような単純化が施されていても、どの音楽も疑いもなくドビュッシーらしい幻想的でかつ繊細な響きが全体を覆っています。

娘が生まれて私生活ではただの親バカになったとしても、音楽面ではやはりドビュッシーはドビュッシーだったのです。


  1. Doctor Gradus ad Parnassum「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」

  2. Jumbo's Lullaby「ジンボーの子守歌(象の子守歌)」

  3. Serenade of the Doll「お人形へのセレナード」

  4. The Snow is Dancing「雪は踊っている」

  5. The Little Shepherd「小さな羊飼い」

  6. Golliwogg's Cakewalk「ゴリウォーグのケークウォーク」



茫洋とした響きがクリアに表現されている演奏


「Albert Ferber」は「アルベール・フェルベール」と読むそうです。そんなことを紹介しなければいけないほどに、このピアニストは忘れ去られた存在になっています。

調べてみると、1919年にスイスのルツェルンに生まれ、マルグリット・ロンやヴァルター・ギーゼキングといった名匠に師事し、ラフマニノフの薫陶も受けたピアニスト・・・という紹介がされていました。
そして、ピアニストとして成功してからは活動の本拠をイギリスに据えるのですが、録音活動は「デュクレテ=トムソン」と言うフランスのローカルレーベルで行ったので、フランス風の「アルベール・フェルベール」が定着したようです。

彼はこの「デュクレテ=トムソン」というレーベルでかなり多くの録音活動を行い、特にこのドビュッシーの録音は高く評価されたようです。
しかし、ローカルレーベルの悲しさか、レーベルの消滅とともに彼の録音も忘れ去られてしまったようです。
ただし、中古LP市場ではかなりの高値で取引されているようですから、一部の好事家の間での評価は高かったようです。

そして、最近になって、漸くにしてCDによる復刻がなされ、誰もが簡単に聞けるようになってみると、なるほど、分かっている人には分かっていたんだと納得できる素晴らしい演奏でした。
そして、個人的な感想を言わせてもらえば、どうにもこうにも苦手だったドビュッシーのピアノ作品を、初めて面白く聞かせてもらえることができました。

私が苦手だったのは、あの茫洋としたドビュッシーの響きです。
何を言ってるんだ、それこそがドビュッシーの魅力なんだろう!と言われそうなのですが、まさにそれこそが「嫌い」だったのです。

しかし、このフェルベールのピアノによるドビュッシーには、そう言う茫洋とした雰囲気が希薄です。
おかしな言い方ですが、その茫洋とした響きがクリアに表現されているような気がするのです。ですから、ドビュッシーの音楽にいつも感じるとりとめのなさが姿を消して、どこかにとっかかりを持ちながら聞き続けることができるのです。

そう考えると、これは異端なドビュッシー演奏なのかも知れませんが、これを好きだという人がいて、とんでもない高値で中古LPを購入する人もいるのですから、これはこれで立派なドビュッシーなのでしょう。

なお、「デュクレテ=トムソン」というレーベルはかなりの優秀録音だったようで、50年代中頃のモノラル録音とは信じがたいほどのクリアな音質です。
また、彼のドビュッシー演奏の中ではこの「前奏曲集」が最も高く評価されているようです。しかし、その是非を判断できるほど良いドビュッシーの聞き手ではありません。
しかし、一つだけ言えることは、この「前奏曲集」を最後まで退屈しないで聞き続けられる数少ない演奏であるとことです。その事だけは、責任を持って保障できます。

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