クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドビュッシー:映像第2集

(P)アルベール・フェルベール 1955年6月24~25日録音



Debbussy:Images 2 [1.Cloches a travers les feuilles]

Debbussy:Images 1 [2.Et la lune descend sur le temple qui fut]

Debbussy:Images 2 [3.Poissons d'or]


苦手な作品

正直に申し上げると、こういうドビュッシーの作品がどうにも苦手なのです。しかし、専門家の間ではこういう作品こそが「印象派」と呼ばれる彼の作風が最もよく発揮されたものとして評価されるのです。
タイトルの映像というのは、ピアノ作品では2集、管弦楽によるものが1集作られています。それ以外にも破棄されたピアノ音楽の作品が存在したらしく、全部で4集からなっていたようです。

この「映像」というのは、彼の目に映ったものを音楽的に写し取ったものなのですが、その仕方はいささか屈折していたようです。つまり、自分が目にした風景(映像)をそのまま音譜に写し取るのではなく、その目にした映像を自分の中にもともと存在する様々な思念によってもう一度再構成しなおしてから音符に移し替えるというものなのです。
つまり、二人の人間がいてそれぞれが同じ映像を見ていたとしても、お互いにその「映像」が「どの様に見えているのか」は知るよしもありません。ましてや、相手も自分と同じものが見えているはずだと思うことは「独善」以外の何ものでもありません。
しかし、ドビュッシーはその「見えている」ものを音楽的に表現し、それを他者に伝えようとしたのです。ですから、例えば「水に映る影」という映像は、水に映った影の正確な描写ではなくて、あくまでもドビュッシーが見た「水に映る影」として表現されているのです。ですから、きっとドビュッシーにとって自明なことは私にとっては自明ではないのでしょう。
ドビュッシーに見えている「映像」はますます茫漠として、輪郭線は果てしなくぼやけていきます。ピアノが醸し出す和声はますます稀薄になり実態を失っていくかのようです。そして、その様にして構成した「映像」に対してドビュッシーは「「和声という化学における最も新しい発見」として大変な満足を感じていたようです。
「この3つの曲は,全体にうまくまとまっていると思います。自惚れからでなく,ピアノ音楽の歴史の中でこれらは(シュヴィヤールの言うように)シューマンの左にか,ショパンの右にか?どちらなりとお気に召すままですが?席を占めることになるだろうと確信しています。」と言う言葉は彼の満々たる自信を表しています。

しかし、私はどうしてもこの世界についけいけません、・・・正直に申し上げると・・・。
しかし、「王様は裸だ!」と叫ぶ勇気もありません。つまらぬ理性が「王様は裸ではない」と主張するからです。
どうやら死ぬまで彼とは波長があわないようです。

映像 第一集 Premiere Serie

  1. 水の反映 reflets dans l'eau

  2. ラモーを讃えて hommage a Rameau

  3. 動き mouvement




映像 第二集 Deuxieme Serie

  1. 葉末をわたる鐘の音 cloches a travers les feuilles

  2. かくて月は廃寺に落つ et la lune descend sur le temple qui fut

  3. 金色の魚 poissons d'or




茫洋とした響きがクリアに表現されている演奏


「Albert Ferber」は「アルベール・フェルベール」と読むそうです。そんなことを紹介しなければいけないほどに、このピアニストは忘れ去られた存在になっています。

調べてみると、1919年にスイスのルツェルンに生まれ、マルグリット・ロンやヴァルター・ギーゼキングといった名匠に師事し、ラフマニノフの薫陶も受けたピアニスト・・・という紹介がされていました。
そして、ピアニストとして成功してからは活動の本拠をイギリスに据えるのですが、録音活動は「デュクレテ=トムソン」と言うフランスのローカルレーベルで行ったので、フランス風の「アルベール・フェルベール」が定着したようです。

彼はこの「デュクレテ=トムソン」というレーベルでかなり多くの録音活動を行い、特にこのドビュッシーの録音は高く評価されたようです。
しかし、ローカルレーベルの悲しさか、レーベルの消滅とともに彼の録音も忘れ去られてしまったようです。
ただし、中古LP市場ではかなりの高値で取引されているようですから、一部の好事家の間での評価は高かったようです。

そして、最近になって、漸くにしてCDによる復刻がなされ、誰もが簡単に聞けるようになってみると、なるほど、分かっている人には分かっていたんだと納得できる素晴らしい演奏でした。
そして、個人的な感想を言わせてもらえば、どうにもこうにも苦手だったドビュッシーのピアノ作品を、初めて面白く聞かせてもらえることができました。

私が苦手だったのは、あの茫洋としたドビュッシーの響きです。
何を言ってるんだ、それこそがドビュッシーの魅力なんだろう!と言われそうなのですが、まさにそれこそが「嫌い」だったのです。

しかし、このフェルベールのピアノによるドビュッシーには、そう言う茫洋とした雰囲気が希薄です。
おかしな言い方ですが、その茫洋とした響きがクリアに表現されているような気がするのです。ですから、ドビュッシーの音楽にいつも感じるとりとめのなさが姿を消して、どこかにとっかかりを持ちながら聞き続けることができるのです。

そう考えると、これは異端なドビュッシー演奏なのかも知れませんが、これを好きだという人がいて、とんでもない高値で中古LPを購入する人もいるのですから、これはこれで立派なドビュッシーなのでしょう。

なお、「デュクレテ=トムソン」というレーベルはかなりの優秀録音だったようで、50年代中頃のモノラル録音とは信じがたいほどのクリアな音質です。
また、彼のドビュッシー演奏の中ではこの「前奏曲集」が最も高く評価されているようです。しかし、その是非を判断できるほど良いドビュッシーの聞き手ではありません。
しかし、一つだけ言えることは、この「前奏曲集」を最後まで退屈しないで聞き続けられる数少ない演奏であるとことです。その事だけは、責任を持って保障できます。

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