クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

マーラー:交響曲第1番 「巨人」

ワルター指揮 NBC交響楽団 1939年4月8日





Mahler:交響曲第1番「第2楽章」

Mahler:交響曲第1番「第1楽章」

Mahler:交響曲第1番「第3楽章」

Mahler:交響曲第1番「第4楽章」


マーラーの青春の歌

 偉大な作家というものはその処女作においてすべての要素が盛り込まれていると言います。作曲家に当てはめた場合、マーラーほどこの言葉がぴったり来る人はいないでしょう。

 この第1番の交響曲には、いわゆるマーラー的な「要素」がすべて盛り込まれているといえます。ベートーベン以降の交響曲の系譜にこの作品を並べてみると、誰の作品とも似通っていません。

 一時、ブルックナーとマーラーを並べて論じる傾向もありましたが、最近はそんな無謀なことをする人もいません。似通っているのは演奏時間の長さと編成の大きさぐらいで、後はすべて違っているというか、正反対と思えるほどに違っています。
 基本的に淡彩の世界であるブルックナーに対してマーラーはどこまで行っても極彩色です。基本的なベクトルがシンプルさに向かっているブルックナーに対して、マーラーは複雑系そのものです。

 その証拠に、ヴァントのように徹底的に作品を分析して一転の曖昧さも残さないような演奏スタイルはブルックナーには向いても、マーラー演奏には全く不向きです。ヴァントのマーラーというのは聞いたことがないですが(探せばあるのかもしれない?)、おそらく彼の生理には全く不向きな作品です。

 逆に、いわゆるマーラー指揮者という人はブルックナーをあまり取り上げないようです。
 たとえば、バーンスタインのブルックナーというのはあるのでしょうか?あったとしても、あまり聞きたいという気にはならないですね。(そういえば、彼のチャイコフスキー6番「悲愴」は、まるでマーラーのように響いていました。)
 それから、テンシュテット、彼も骨の髄までのマーラー指揮者ですが、他のマーラー指揮者と違って、めずらしくたくさんのブルックナーの録音を残しています。しかし、スタジオ録音ではあまり感じないのですが、最近あちこちからリリースされるライブ録音を聞くと、ブルックナーなのにまるでマーラーみたいに響くので、やっぱりなぁ!と苦笑してしまいます。

そこでワルターですが、


 彼こそは、元祖マーラー指揮者とも言うべき人なのですが、どうも最近のマーラー指揮者とは少し雰囲気が違います。基本的に複雑系であるはずのマーラーの複雑さをそのまま提示はしないで結構バッサリと整理しているのです。

 このNBC交響楽団とのライブ録音もそうですし、有名な晩年のコロンビア響とのスタジオ録音でもそうです。
 これを、「理解されなかったマーラーの作品を少しでも理解されんがためのやむを得ない処置」だなんて言う人もいましたが、それでは悪名高きブルックナーの弟子たちと同じになってしまいます。

 ワルターという人はそんな柔なお人ではなかったはずです。ユング君は、ワルターという人は世間が言うほどマーラー的な指揮者ではなかったと思います。

 最近古い録音を漁りはじめて気がついたのですが、ワルターという人はTPOにあわせて演奏スタイルをガラリと変えられる人です。もう少し具体的にいうと、アメリカとヨーロッパで二つの顔を使い分けています。
 アメリカでは男性的な引き締まった演奏をしているかと思えば、ヨーロッパでは別人かと思うほどのロマンティックな演奏を展開します。

 このような単純な図式化は誤解を招きますが、言いたいのは、ワルターの本質はそのような状況に合わせて自分のスタイルを変えることができる、それも(これが大切ですが)、驚くほど高いレベルで変えることができるところにあります。
 そのようなあり方の本質を一言で表現すれば「芸人」です。芸人という表現に抵抗を感じるなら「劇場の人」と言い換えてもいいかもしれません。

 芸人は受けなければその存在は無に等しくなります。
 芸術などというとらえどころのないものに執着するのではなく、この劇場でいかに受けるかがワルターにとって重要なのではなかったでしょうか。
 場所が変わればスタイルが分かるのは芸人にとっては当然のことです。(大阪で受けたギャクを東京に持っていけばみんな引いてしまいます^^;、これはホント!)ですから、マーラーの作品でも、受けないと思えば遠慮なくマーラーの指示を無視したのだと思います。これは何もマーラーだけに限ったことでなく、結局は誰の作品を演奏しても最後はワルターの世界になってしまうのです。
 すべてを自分の世界に引き寄せておきながら、結局は聞く人を納得させてしまう、結構したたかな人だったと思います、ワルターという人は。

 ここで聞くことのできるNBC交響楽団との演奏でも、これほどまでに濃厚に青春のメランコリーを感じさせてくれる演奏はありません。流石というしかないです。

 それからもう一つ強調しておきたいのは、NBC交響楽団の素晴らしさです。
 弦楽器群の美しさはまさに全盛期のVPOのようです。コロンビア響とのスタジオ録音は編成の小ささからくる響きの薄さが悔やまれるだけに、貴重なライブ録音です。

よせられたコメント

2012-01-25:さとちゃん


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