モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第40番 変ロ長調 K.454
(P)リリー・クラウス (Vn)ボスコフスキー 1954年6月録音
Mozart:Sonata in B-flat for Keyboard and Violin, K. 454 [1st movement]
Mozart:Sonata in B-flat for Keyboard and Violin, K. 454 [2nd movement]
Mozart:Sonata in B-flat for Keyboard and Violin, K. 454 [3rd movement]
後期の三大ソナタ:K.454、K.481、K.526
「三大ソナタ」という呼び方は一般的ではありあせんが、モーツァルトのこのジャンルにおける最後の貢献としてこの3作品を指摘することができますから、あえてこのようなネーミングをしてみました。
この3作品は、K.376?K.380のように、何らかの目的を持ってまとめて作曲されたわけではありません。
K.454については、モーツァルトは父親に宛てた手紙でふれていますからその成立状況はよく分かっています。そして、それはモーツァルトの「天才伝説」を彩るエピソードの一つでもあります。
この作品は、当時ウィーンを訪れていたストリナサッキというヴァイオリニストのために作曲されたもので、それをモーツァルトとの競演で演奏しました。しかし、演奏会当日までにはヴァイオリンのパートしか楽譜が完成しなかったために、モーツァルトは白紙の楽譜を前にピアノを演奏したというのです。・・・恐るべし、モーツァルト!!
次のK.481については成立事情に関しては何も分かっていません。おそらくは出版目的の小銭稼ぎだったと思われますが、これもまた作品の「価値」とは間の関係もない話です。
この作品の第1楽章には「ジュピター」のモチーフ「ドレファミ」が出てきます。モーツァルトはこのモチーフがよほど気に入っていたようで、彼の作品には何回も顔を出します。
そして、最後のK.526は、おそらく「ドン・ジョヴァンニ」の作曲中に書かれたものと思われます。クロイツェル・ソナタの先駆けとも呼ばれるこの作品については、アインシュタインによる次の賛辞ほど相応しいものはありません。
「この曲においてモーツァルトはヴァイオリンソナタの分野でも完璧な《諸様式の調和》に到達し得ている。」
「緩徐楽章では、あたかもすべての善人に生存の苦い甘みを味わわせようと、父なる神が世界の一瞬だけいっさいの運動を停止させたかのような、魂と芸術との均衡が達成されている。」
ヴァイオリンソナタ第40番 変ロ長調 K.454
- 第1楽章:Largo - Allegro
- 第2楽章:Andante
- 第3楽章:Allegretto
忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音
リリー・クラウスによるモーツァルトと言えば、真っ先に思い浮かぶのはゴールドベルグとのコンビで録音されたSP盤の方です。あのパチパチノイズ満載の録音をいつまで聞いているの?と突っ込まれながら、それでも未だに捨てきれぬ愛着を感じている人は少なくありません。
それと比べると、この50年代の中葉にウィーンフィルのコンサートマスターとして名をはせていたボスコフスキーとのコンビで録音したソナタ集は話題になることが少ないように思われます。しかし、今では「偽作」と断定されている「k.17~k22」の6作品や子供時代の2作品も収録されているのは興味深いです。
特に、「k.17~k22」のような「偽作」と断定された作品を今さら録音する人はほとんどいないので、それを実際の音として聞ける価値は大きいと思います。
何故ならば、この偽作を通して、モーツァルトがマンハイムで出会ったシュスターのヴァイオリンソナタがどのようなものであったかを垣間見ることができるからです。ただし、この偽作がもしかしたら、モーツァルトをして「悪くありません」と言わしめたシュスターの作品そのものではないか?と言う見方は否定されているようです。
しかし、演奏に関して言えば、これはある意味でモーツァルトの時代にふさわしいものになっています。
この時代のヴァイオリンソナタというのは従来のピアノが「主」でヴァイオリンが「従」であるというのが慣例でした。そして、モーツァルトはシュスターの作品などにも影響を受けながらこの慣例を打ち破っていくのですが、ボスコフスキーのヴァイオリンはどこまで行ってもリリー・クラウスのピアノに付き従っていくのです。
音色的に自己主張の少ないふんわりとした雰囲気で、その面でも芯の強いクラウスのピアノをサポートしています。
つまりは、この二人の演奏はどこまで行ってもクラウスのピアノが「主」でありボスコフスキーのヴァイオリンは「従」なのです。初期作品ならばこれでいいのかもしれませんが、ピアノとヴァイオリンがただ単に交替するだけでなく、この二つの楽器が密接に絡み合いながら人間の奥底に眠る深い感情を語り始めるようになってくると、いささか物足りなさを覚えるのは事実です。
しかし、聞きようによっては、クラウスの絶頂期のピアノが堪能できるという風にとらえることもできます。
昨今のピアニストはは右手と左手がほぼ均等に響きます。これは、ギーゼキング以来の「伝統」です。
しかし、リリーの演奏では左手は基本的に控えめで、ここぞと言うところになると深々と響かせて前に出てきます。そこには、彼女なりのモーツァルト解釈とそれにもとづく演奏設計があって、右手と左手が絶妙のバランスで鳴り響きます。その結果として、モーツァルトが音符を使って書いた「心のドラマ」、深い感情がリリーの演奏からはヒシヒシと伝わってきます。
そう言う意味では、これもまた忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音だと言えます。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-11-24]
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)