クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ウェーベルン:管弦楽のための5つの小品 Op.10

ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1962年7月14&22日録音



Webern:Five Pieces for Orchestra Op.11


新ウィーン楽派と言ってもそれぞれ

音楽史においては「新ウィーン楽派」という言葉で一括りにされるのですが、実際に音楽を聴いてみるとその雰囲気はひとりひとりで随分異なります。
そこで、その雰囲気の違いを実感してもらおうと考えて、それぞれの管弦楽作品を一つずつ紹介してみようかと考えました。

取り上げたのはと以下の3曲です。


  1. シェーンベルク:5つの管弦楽曲 作品16(1909年)

  2. ウェーベルン:管弦楽のための5つの小品 作品10(1911年~1913年)

  3. ベルク:3つの管弦楽曲 作品6(1915年)



無調の時代へ突入した時期に書かれた純粋管弦楽曲の代表作です。
タイトルも「○つの管弦楽曲」みたいな感じでよく似通っているのですが、実際の響きは随分異なります。

特に、ウェーベルンの「管弦楽のための5つの小品 作品10」とベルクの「3つの管弦楽曲 作品6」を聞き比べてみれば、この二つの音楽を「新ウィーン楽派」などと言う言葉でカテゴリー化してもいいのだろうかという素朴な疑問が浮かび上がってきます。

ベルクの「3つの管弦楽曲 作品6」からは明らかにマーラーの後ろ姿が垣間見ることができます。
よく、マーラーの9番は調性をもった音楽の切り岸にたたずんでいると言うことがよく言われます。しかし、そう言う楽典的なことに暗い人間にはあまりピントこない話だったのですが、このベルクの作品を耳にすれば、なるほどこの二つは調性という境界線を挟んで仲良く肩を並べていることが実感できます。

それと比べれば、ウェーベルンの「3つの管弦楽曲 作品6」は遠くバッハの音楽を望んでいるように感じ取れます。もちろん、その音楽とは「フーガの技法」や「音楽の捧げもの」です。
とにかく、その極限にまで切りつめられた響きの手触りはバッハの厳しさと相似形です。そして、こういう音楽が怖いのは、その響きに魅入られたならば、後は何を聞いても緩くて甘い砂糖菓子のような音楽に思えてしまう危険性があることです。

そして、こういう書き方をするとあまりにも図式的に過ぎて気が引けるのですが、彼らの師であったシェーンベルクの音楽はこの二人の中間点に位置するように聞こえます。
1909年に作曲された「5つの管弦楽曲 作品16」は、シェーンベルクが無調の時代に突入した時期に書かれた唯一の純粋管弦楽曲です。
しかし、調性を放棄しながらその響きからはある種の叙情性が感じ取れます。その事は、彼がこの作品の各曲に「予感」とか「湖畔の夏の朝」などと言うロマン派顔負けのタイトルを付けていることからも伺えます。

もちろん、こういう「感覚」ではなくて、もっと専門的に楽曲分析をすれば一つのカテゴリーにまとめる必然性を証明することもできるのでしょうが、そう言う専門性を持たない聞き手にとっては随分雰囲気が異なるなぁ!というのが率直な感想です。
しかし、ある著名な評論家も「シェーンベルクは叙情的に表され、ベルクは劇的にぶちまけられるが、ウェーベルンにおいては端的な直截さで表され」ると評しているそうです。
この説明は実感にぴったりだったので妙に納得してしまいました。

シェーンベルク:5つの管弦楽曲 作品16(1909年)


  1. 「予感」~非常に速く

  2. 「過ぎ去りしもの」~中庸の早さの4分音符で

  3. 「色(湖畔の夏の朝)」~中庸の早さの4分音符で

  4. 「大団円」~ひじょうに速く

  5. 「オブリガート(叙唱)~運動性を持った8分音符で



ウェーベルン:管弦楽のための5つの小品 作品10(1911年~1913年)


  1. Sehr ruhig und zart

  2. Lebhaft und zart bewegt

  3. Sehr langsam und ausserst ruhig

  4. Fliessend, ausserst zart

  5. Sehr fliessend




ベルク:3つの管弦楽曲 作品6(1915年)


  1. 前奏曲(Praludium)

  2. 輪舞(Reigen)

  3. 行進曲(Marsch



ドラティの熱い演奏


そう言えばドラティという人も基本は作曲家志望だったことを思い出しました。いや、「志望」なんて言ったら失礼ですね、いくつかの交響曲も残していますし、ハインツ・ホリガーのために書かれた「無伴奏オーボエのための5つの小品なんかは結構有名な作品だそうです。
ですから、指揮者ドラティがこういう新ウィーン楽派の作品を取り上げているのはちょっと不思議な感じがするのですが、彼のもう一つの顔を思い出せば、かくも熱い共感を寄せてこれらの作品を取り上げているのには十分に納得がいきます。

しつこいですが、何度でも繰り返します。
シェーンベルクやウェーベルン、そしてベルクの音楽は、19世紀的な音楽に慣れた耳にとってはいささか抵抗感のある響きす。そこには、疑いもなく20世紀という時代にふさわしい「ロマン」が内包されています。いかに抵抗感があったとしても、それはこの後に続くう音楽であることを捨ててしまった愚かな「非音楽」=「前衛音楽」とは異なります。

そして、ドラティとロンドン交響楽団による演奏は、そう言う20世紀的なロマンに同時代的な共感が熱くあふれ出しているのです。
当然のことながら、この後に続く時代は、それらの作品をより精緻に演奏することには長けています。それは事実です。

しかし、精緻な演奏はいくつかは思い浮かびますが、こういう熱い演奏はなかなか変わるものがありません。

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