クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ヘンデル:組曲「水上の音楽」

スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1958年10月20日録音



Handel:Water Music Suite [1st movement - Allegro]

Handel:Water Music Suite [2nd movement - Air]

Handel:Water Music Suite [3rd movement - Bourree]

Handel:Water Music Suite [4th movement - Hornpipe]

Handel:Water Music Suite [5th movement - Andante espressivo]

Handel:Water Music Suite [6th movement - Allegro deciso]


機会音楽

「水上の音楽」は名前の通り、イギリス国王の船遊びのために、そして「王宮の花火の音楽」は祝典の花火大会のために作曲された音楽です。
クラシック音楽の世界では、こういう音楽は「機会音楽」と呼ばれます。機会音楽とは、演奏会のために作曲されるのではなく、何かの行事のために作曲される音楽のことをいいます。それは純粋に音楽を楽しむ目的のために作られるのではなく、それが作られるきっかけとなった行事を華やかに彩ることが目的となります。ですから、一般的には演奏会のための音楽と比べると一段低く見られる傾向があります。

しかしながら、例え機会音楽であっても、その創作のきっかけが何であれ、出来上がった作品が素晴らしい音楽になることはあります。その一番の好例は、結婚式のパーティー用に作曲されたハフナー交響曲でしょうか。
そして、このヘンデルの2つの音楽も、典型的な機会音楽でありながら、今やヘンデルの管弦楽作品を代表する音楽としての地位を占めています。

機会音楽というのは、顧客のニーズにあわせて作られるわけですから、独りよがりな音楽になることはありません。世間一般では、作曲家の内なる衝動から生み出された音楽の方が高く見られる傾向があるのですが、大部分の凡庸な作曲にあっては、そのような内的衝動に基づいた音楽というのは聞くに堪えない代物であることが少なくありません。それに対して、モーツァルトやヘンデルのようなすぐ入れた才能の手にかかると、顧客のニーズに合わせながら、音楽はそのニーズを超えた高みへと駆け上がっていきます。
そして、こんな事を書いていてふと気づいたのですが、例えばバッハの教会カンタータなどは究極の機会音楽だったのかもしれないと気づきました。バッハが、あのようなカンタータを書き続けたのは、決して彼の内的な宗教的衝動にもとづくのではなく、それはあくまでも教会からの要望にもとづくものであり、その要望に応えるのが彼の職務であったからです。そう考えれば、バッハの時代から、おそらくはベートーベンの時代までは音楽は全て基本的に機会音楽だったのかもしれません。

明るくて健康的な音楽


スタインバーグと言えば協奏曲の伴奏をやっている地味な指揮者というイメージがあります。そのイメージの原因となったのがミルシテインとのコンビで録音した数多くのコンチェルトでしょう。

ミルシテインは今も20世紀を代表するヴァイオリニストとして認知されていますから、それらの録音の多くは今も現役盤です。つまりは半世紀以上の時間が経過してもそれらの録音は多くの人の目に触れる機会があり、その目にふれた録音のクレジットを眺めるといつもスタインバーグ指揮、ピッツバーグ交響楽団という記述があるというわけです。
そして、不幸なことに、現役盤を眺めまして見ても「スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団」だけで録音された演奏がほとんど存在しないのです。
結果として、スタインバーグという指揮者に「地味な伴奏指揮者」というイメージができあがってしまったわけです。

しかし、「ああ、あのミルシテインの伴奏をいつもやっていた人ね」みたいな認識がある方がまだしもましで、「スタインバーグって誰?」という反応の方が一般的かもしれません。
もしかしたら、熱心にPCオーディオに取り組んできた人なら、「知っているよ!ASIO規格を作ったドイツの会社でしょう!!」なんて言われてしまうかもしれません。実際、Googleで「スタインバーグ」と検索すれば一番にヒットするのはそのスタインバーグ社の方です。

スタインバーグという指揮者は典型的な職人タイプの指揮者でした。
いますね、こういう人。
結構いい仕事をしてきたのに、そして、元気に活躍していたときはあちこちからたくさんのお仕事が殺到していたのに、何故か亡くなってしまうと一気に認知度が下がってしまうと言うタイプです。そして、その忘れ去られた録音を久しぶりに引っ張り出して聞き直してみると、これまた不思議なことにどれもこれも「いい仕事」をしているのです。
不思議と言えば不思議、理不尽と言えば理不尽なのですが、それが「芸の世界」というものなのでしょう。

スタインバーグの音楽は基本的にはトスカニーニのスタイルなのでしょうが、あの頑固親父みたいに屈折していないのが素敵でもあり、残念でもあるのです。もしも、彼がもっと屈折していれば、セルやライナーのようになっていたかもしれません。しかし、彼はああいう変人になるには人がよすぎたみたいです。
彼が1952年から1976年まで率いたピッツバーグ響のことを「二流オーケストラ」と書いている人がいますが、それはあまりにも聞く耳がなさすぎます。四半世紀にもわたってこの職人的オーケストラビルダーに率いられたオケが二流であるはずがありません。50年代のモノラル録音を聞いても楽器間のバランス感覚は抜群で、内部の見通しのよいすっきりとした音楽に仕上げる能力を有していたことは誰でもすぐに分かるはずです。

言うまでもないことですが、当時の録音技術では後から楽器間の音量バランスを調整するなどと言うことは不可能ですから、この見通しのよい響きが実際のコンサートホールで鳴り響いていたはずです。
確かに、90年代以降のハイテクオケと比べれば精緻さには欠けるかもしれませんが、この時代の水準を考えれば見事なものです。

ただし、スタインバーグは自らが鍛え上げたこのオケをさらに変質的なまでに締め上げて、「セル&クリーブランド響」や「ライナー&シカゴ響」のようにしようとは思わなかったようです。結果として、彼の音楽にはセルやライナーのような凄みはなかったかわりに、何とも言えない明るくて健康的な直線性を獲得しました。
言葉をかえればあまりにも「脳天気」だと批判することも可能なのでしょうが(たとえばブルックナー)、ある意味ではアメリカの「黄金の50年代」に最もふさわしい音楽になっています。そして、あまりにも屈折しすぎた今という時代にそのような音楽を聞くことは一つの「癒し」でもあります。

その意味では、ベートーベンやブラームスみたいな音楽よりはヘンデルの「水上の音楽」やラヴェルの「ボレロ」「ラ・ヴァルス」みたいな音楽の方が相性がいいように思います。また、ベートーベンならば「皇帝」、ブラームスならば「ピアノ協奏曲第1番」のような外連味あふれる作品の方が好ましく思えます。
ただし、誤解の起きないように言い添えておきますは、それは決して彼のベートーベンやブラームスの交響曲がつまらないと言っているわけではありません。それらもまた、屈託のないトスカニーニのように響きます。もしかしたら、音楽の形としてはシューリヒトに近いのかもしれませんが、スタインバーグの音楽はあれほど淡彩ではありません。その意味では、トスカニーニやシューリヒトの亜流ではない、スタインバーグならではの音楽になっています。

それから、もう一つ加えておくと、ブルックナーのロマンティックやチャイコフスキーのイタリア奇想曲みたいに、「なんだこりゃ??」みたいな演奏もあります。そう言うのを聞くと、面白いと言えば面白い、なかなかに一筋縄ではいかない指揮者だったんだなとニヤリとさせられます。もちろん、そう言うのは許せない!と言う人もいるでしょうが、私は決して嫌いではありません。

なお、聞くところによるとこのコンビによる録音はテープ録音が一般的でなかった時代に「35mmマグネチックフィルム」なるものを使って録音されたこともあるそうです。映画用に作られたテープですからコスト的には10倍以上かかったそうですが、録音できる「情報量」が圧倒的に多かったために音質的なメリットは大きかったようです。
デジタルマスタリングされた状態で聞いても、50年代の初期のモノラル録音としては極上といえる音質です。

よせられたコメント

2014-08-21:さとう


2014-08-11:トリス


2015-11-16:ジェネシス


2022-07-16:joshua


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