スカルラッティ:ソナタ集(54年録音)
(P)チッコリーニ 1950年4月28日録音
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk259
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk64
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk268
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk492
近代的鍵盤楽器奏法の父
スカルラッティはほとんど独力で新しい鍵盤技法を作り出したと言われ、「近代的鍵盤楽器奏法の父」と呼ばれています。
彼はナポリで生まれた生粋のイタリア人であり、1715年には教皇庁のサン・ピエトロ大聖堂にあるジュリア礼拝堂の楽長と言うローマ・カトリックの音楽家としては最高の地位に上りつめています。ところが、1719年に突然その職を辞して活躍の場をイベリア半島に移します。
辞任の理由は今日に至るも謎に包まれていますが、1719年の終わり頃にはポルトガルのジョアン5世に仕えるためにリスボンに赴いて、ポルトガル王家の宮廷楽長として活躍しています。そして、彼がチェンバロを教えていた王女マリア・バルバラが1729年にスペイン王子フェルナンド(後のフェルナンド6世)のもとに嫁ぐと、スカルラッティもそれに随伴してマドリードに赴き、1757年に彼自身が亡くなるまで王家のチェンバロ教師としてスペインで生涯を終えています。
つまり、スカルラッティという人はイタリアで活躍した前半生と、ポルトガルやスペインというイベリア半島で活躍した後半生とに二分割されるのです。作品的に見ると、イタリアとポルトガル時代は宮廷楽長として教会音楽やオペラ、室内カンタータが創作の中心でしたが、後半生のマドリッド時代はチェンバロ音楽が中心となっています。そして、スカルラッティにとって真に素晴らしい業績がこの後半生のチェンバロによるソナタ作品にあったことは今さら言うまでもないことです。
ラルフ・カークパトリックによって555曲に整理された彼のソナタ作品は、今日的感覚のソナタ作品とは全く異なります。一部の例外はありますが、そのほとんどが単一楽章の二部構成という極めてシンプルな形式です。しかし、楽想は驚くほどの多様さを持っていて、イベリア半島ならではのアラブの音楽やスペイン・ポルトガル特有の民族色の濃いリズムや旋律があちこちにこだましています。
また、演奏技法の点でも、両手の交差やアルペッジョ、さらにはチェンバロを打楽器的に扱ってみたり、今までにないような大きな音程の跳躍を用いるなど様々なテクニックを駆使してます。 スカルラッティ自身が「これらの作品のうちに深刻な動機でなく、技術的な工夫をこそ見て欲しい」と記しているように、その事は結果として鍵盤楽器の演奏に必要な近代的な技法が全て網羅されていると言っても過言ではありません。
同時代を生きたJ.S.バッハの平均律などとは全く性格を異にした作品群ではありますが、これはこれで、バッハと比肩できるほどのバロック鍵盤音楽の傑作だといえます。
スコット・ロスはこの演奏のすぐ横にいます。
チッコリーニと言えば現役最高齢のピアニストと言うことで、シルバーシート優先という麗しい伝統のあるいずこかの国では
近年評価が高まっています。評論家というのは、褒めなければいけないときは実にいろいろな言い方で褒めるものだと感心してしまいます。
さて、そんな長い芸歴を持つチッコリーニのファーストレコーディングがこのスカルラッティのソナタ集です。
チッコリーニと言えば「サティのスペシャリスト」というイメージがあります。さらに、ラヴェルやドビュッシーのピアノ作品の全曲録音も行っていますから、一般的にはフランスのピアニストというイメージが強いです。
それだけに、何故にファーストレコーディングがスカルラッティなんだ?と訝しく思ったのですが、調べてみると彼はナポリ出身のイタリア人だったんですね。ただし60年代にはフランスに帰化していますから、彼をフランスのピアニストというのは決して間違った印象ではありません。しかし、ファーストレコーディングにスカルラッティを選んだというのは、やはり自らのルーツとしてナポリを意識していたんだろうなとは想像できます。
そして、彼はこのファーストレコーディング以外に54年と62年にもスカルラッティのソナタを録音しています。
スカルラッティはナポリで生まれ育ちながら、最終的にはスペインの宮廷で自分の居場所を見つけ出して555のソナタ集を残しました。
チッコリーニもまたナポリで生まれ育ちながら、最後はフランスに居場所を見つけ出し、フランス近現代音楽のスペシャリストとしての地位を築き上げました。
偶然と言えばただの偶然といえるかもしれませんが、この二人にはどこか似通った気質があったのかもしれません。そして、彼がフランス人として生きていくことを決めてからは、私の知る限りでは二度とスカルラッティを録音していません。そのこともまた、最後はスペイン人として生涯を全うしたスカルラッティに通じるものがあります。
さて、肝心の演奏の方ですが、同時代のハスキルなどと比べると遙かに現代的です。
私はかつてハスキルのスカルラッティのことをスコット・ロスの演奏と比べてこんな風に書いたことがあります。
「ロスの演奏を聞いて伝わってくるのは地中海の太陽と乾いた風の匂いです。そして、その雰囲気はスカルラッティのソナタにとても相応しく思えます。それに対してハスキルの演奏から伝わってくる風の匂いはすこぶる湿っぽいです。
ロスの演奏が地中海の光と風を満喫するリゾートだとするなら、ハスキルの方は湖畔のキャンプ場という雰囲気です。」
チッコリーニのピアノから伝わってくるのもまた「地中海の光と風」です。音色はどこまでもからりと乾いていて、一つ一つの音はまるでチェンバロのようにころころとよく転がります。
スコット・ロスはこの演奏のすぐ横にいます。
スカルラッティ:ソナタ集(50年録音)の収録作品
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk259
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk64
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk1
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk492
Scarlatti:Sonata fo keyboard 268
スカルラッティ:ソナタ集(54年録音)の収録作品
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk259
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk64
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk268
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk492
スカルラッティ:ソナタ集(62年録音)の収録作品
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk406
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk9
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk380
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk87
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk492
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk268
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk64
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk259
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk159
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk377
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk239
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk432
Scarlatti:Sonata fo keyboard kk1
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