ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98
ケンペ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1960年2月14,22&23日録音
Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 [1st movement]
Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 ]2nd movement]
Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 [3rd movement]
Brahms:Symphony No.4 in E minor Op.98 [4th movement]
とんでもない「へそ曲がり」の作品
ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。
この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。
この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。
冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!
それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?
控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。
芸術がもっている理不尽さと闇に思いをはせる
ケンペと言えばベートーベンやブラームスに代表されるようなドイツ・オーストリア系の正統派の作品を手堅くまとめ上げるというイメージがついて回ります。ついでに付け加えれば、一聴しただけではその良さは伝わらないけれども、何度も繰り返し聞くうちにその真価が理解できる指揮者と言う評価もついて回りました。
ただし、少しばかり嫌みっぽく言えば、これほど情報があふれかえっている世の中で、一度聞いただけでは魅力がストレートに伝わってこないような演奏を、何度も繰り返し聞くような「暇人」がどれほどいるのだろうかと心配になってしまいます。
確かに、ケンペにとっての「本線」とも言うべきベートーベンやブラームスに関しては数多くの名演・名盤に恵まれていますから、その中でどれほど自己主張ができるのかと問われればいささか心許なくなってしまいます。ぱっと聞いただけでその凄みがストレートに伝わってくる演奏はいくつかありますし、さらに言えば、ケンペの持ち味である「一聴しただけではその良さは伝わらないけれども、何度も繰り返し聞くうちにその真価が理解できる」たぐいの(^^;録音ならば数多くあるからです。
ケンペのキャリアを振り返ってみれば、「早すぎる死によって不本意にも最晩年となってしまった60代には巨匠の地位に上り詰める一歩手前までいったものの、その突然の死によって急速に忘れ去られてしまった指揮者」という括りがされてしまいます。
これがベームのように大きな存在になってしまっていれば、その死語に「ベームは二度死んだ」みたいな批判にさらされたのかもしれませんが、ケンペの場合は静かにフェードアウトしていきました。そして、そのような存在であったが故に、己の見識の広さと深さを主張したい人はこういう指揮者を意識的に持ち上げる向きがあります。
もちろん、そのような再発見、再発掘は非常に意義深いことも多いのですが、しかし、改めて彼のベートーベンやブラームスの録音を聞き返してみると、その他の凡百の演奏と同一とまでは言いませんが、数多くあるすぐれた演奏・録音の一つという範疇にとどまるものだと思います。
しかし、不思議なことなのですが、そう言う「本線」以外の演奏になると不要な縛りから抜け出せたのか、意外と面白い録音が目につきます。たとえば、ドヴォルザークの「新世界より」の第2楽章で聞ける深い情感あふれる表現は出色です。第3楽章から最終楽章へと突き進んでいくベルリンフィルからはドイツの田舎オケらしいゴリゴリとした迫力が感じられてこれもまたかなり魅力的です。
私は聞いたことはないので確証はできませんが、ネット情報によると、同じ時期に録音したシューマンの1番なんかもかなり野蛮な演奏だったようです。
しかし、「ウィーンフィルとの休日」と題した61年録音のアルバムなどを聴くと、休日と言いながら、そしてせっかくのウィーンフィルを相手にしながら、律儀さと生真面目さが前面に出てきてしまっていて、悪くはないのですがどこか楽しめない部分が残ってしまいます。
ケンペと言えば相手が女王陛下でもタクシードライバでも全く態度を変えないと言われたジェントルな立ち居振る舞いが評価され、その暖かな人間性も相まって存命中は高い人気を誇った人でした。
ただ残念に思うのは、亡くなった後に作品のみで評価されるようになると、生き残るのはどいつもこいつも「イヤな奴」ばかりだという厳然たる事実です。それは指揮者に限っただけでも、狂犬トス○○ーニや女誑しフルト○○○ラー以降、ほとんど絶対的な真実かと思えるほどです。
ケンペの端正で律儀な音楽を聴きながら、芸術がもっているそう言う理不尽さと闇に思いをはせるというのはかなり屈折した聴き方だとは思うのですが、それでも彼ほどにそう言う理不尽さを体現している指揮者はいないように思います。
よせられたコメント 2014-05-24:ポッキー いつも楽しく拝見させていただいております。今回も素敵な演奏をご紹介いただき、さっそく一聴し、しみじみと伝わってくるものを温めています。
指揮のテクニックや音の組立てに終わることなく、指揮者の曲への真摯な思いや楽団員との共感といったアナログな要素が微妙にそして人間臭さが洗い流されて伝わってきます。普段はカラヤンやマゼールなどを愛聴し、音の構造を主に楽しんでいますが、ケンペは違った脳の部分で聴くといいのだと、いま独り合点しています。指揮者として一流、二流といった評価など気に止めない限られた人びとにとって、ケンペという指揮者は掛け替えのないスペシャルな存在なのかもしれませんね。
あと、ケンペとベルリンフィルで56年モノラルのほかに60年録音もあったのですね。
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