ラヴェル:舞踏詩「ラ・ヴァルス」
ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1958年録音9月26日録音録音
Ravel:舞踏詩「ラ・ヴァルス」
沈みゆく船
この音楽を聞いていると、いつもタイタニック号のイメージが浮かび上がってきます。
華やかな舞踏会が繰り広げられる豪華な客船、しかし、その船はまさに沈みゆこうとしています。
それでも、人々は、そんなことを夢にも思わずに踊り続けている。
パッと聞くだけなら、この上もなく華やかで明るいだけの音楽に聞こえます。でも、その音楽を聞いていると、その底に何とも言えない苛立ちのような不安感が流れています。それは、おそらくは上辺の華やかさと底辺の不気味さが妙に同居していて、その不気味さが華やかな音楽の合間に時々ぬっと顔を出すからでしょう。
こういう不気味さは結構コワイ。
そして音楽はラストに向けてやけくそのようにテンポを速めながら、最後は砕け散るように幕を閉じます。
よく言われるように、この作品にはラヴェル自身の第一次世界大戦への従軍とその後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)が間違いなく反映しています。
ラヴェルはこの作品に対して次のような標題を掲げています。
渦巻く雲の中から、ワルツを踊る男女がかすかに浮かび上がって来よう。雲が次第に晴れ上がる。と、A部において、渦巻く群集で埋め尽くされたダンス会場が現れ、その光景が少しずつ描かれていく。B部のフォルティッシモでシャンデリアの光がさんざめく。1855年ごろのオーストリア宮廷が舞台である。
おそらく、氷河に衝突したのがフランツ・ヨーゼフ1世治下の1850年代であり、その結果としての沈没が第一次世界大戦であったという思いがあったのでしょうか。
でも、これが他人事とは思えない現状も怖いなぁ。
木管群の響きが魅力的です
ベイヌム&コンセルトヘボウ管によるラヴェル作品というのはいかにもミスマッチのような気がするのですが、聞いてみると意外と悪くないので驚かされます。
当然のことながら、昨今のハイテクオケによるキレキレの演奏とは全くベクトルが異なります。
かなり、緩いです。
しかし、緩いのですが、とりわけ木管群の暖かくて福やかな響きを聞かされると、なるほどこういうラヴェルもいいもんだと納得させてしまう力を持っています。
特にボレロの方は、このコンビのそう言う特徴が上手くはまっているように思います。それと比べると、ラ・ヴァルスの方は華やかな舞踏会というよりは、黒い欲望が渦巻く社交界みたいな雰囲気で、ちょっと怖い感じがします。(^^;
でも、この翌年にベイヌムは亡くなってしまうんですね。長生きしていれば、かなり幅広いレパートリーでカラヤンと対抗できた人だったでしょう。残念なことです。
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