クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団:1951年録音





Brahms:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18 「第1楽章」

Brahms:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18 「第2楽章」

Brahms:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18 「第3楽章」

Brahms:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18 「第4楽章」


若々しさと情熱にあふれた作品

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ二挺という特殊な編成を持った作品です。そして、ブラームスはこの特殊な編成による作品を二つ作っています。その中で、とりわけ有名なのがこの第1番の第2楽章です。数あるロマン派音楽の中でももっともロマンティックな音楽の一つであり、一度はどこかで耳にされた方も多いのではないでしょうか。(ルイ・マル監督のフランス映画「恋人たち」に用いられたことは有名です。)

ブラームスがベートーベンの不滅の9曲に対する重圧から第1交響曲を生み出すために20年以上の歳月を必要としたことはよく知られています。そして、室内楽の分野においても、最初の弦楽四重奏曲を生み出すまでに20曲前後の四重奏曲が破棄されました。
ブラームスにとって、交響曲や弦楽四重奏という古典派音楽における王道とも言うべきジャンルにおいては、あまりにもベートーベンの存在は重く大きいものだったようです。
そして、「できれば同じ土俵で勝負はしたくない!」という意識がはたらいたのかどうかは分かりませんが、室内楽の分野では弦楽四重奏という王道の形式で競合することをを避けて、どちらかといえばもう少し編成を大きくした管弦楽的な効果を多用するような作品が数多く生み出されました。
とりわけ、この弦楽六重奏のような分厚い編成であればベートーベンの影をほとんど気にしなくてすんだのか、いつもの気難しい顔はしまいこんで、陽気で明るく、そしてこの上もなくロマンティックな素顔をさらけ出しています。
特に、その第2楽章をピアノ独奏用に編曲して、終生の憧れであったクララの誕生日プレゼントとしたことも、その様な傾向を際だたせている要因かもしれません。そして、ブラームスはその楽譜にそえた手紙の中で「私の作品について長い手紙をください。汚い音のところ、退屈なところ、バランスの悪いところ感情の冷たいところなど、どうかたくさん書いてください。」などと、後の気難しいブラームスからは想像もできないようなことを書いているのです。
20代の青年ブラームスの若々しい情熱にあふれた作品です。

泣き節、炸裂!!


ウィーンフィルにはコンサートマスターを中心に各パートの首席がカルテットを結成する習慣があります。しかし、このコンツェルトハウス四重奏団はその様なエリート集団ではなくて首席奏者の後ろで演奏しているメンバーたちで結成されたものです。ちなみに、この時代のエリート四重奏団はワルター・バリリをリーダーとしたバリリ四重奏団でした。

だから、というわけではないのですが、この四重奏団の演奏には芸術的に突き詰めたの緊張感ではなくてどこか親密で寛いだ雰囲気がただよいます。
ある人が、この四重奏団のリーダーであるカンパーのことを「彼はムジカー(音楽家)だったが、同時にムジカント(楽士)でもあった」と評していました。もちろん、この「ムジカント」という言葉は否定的な意味合いで使われたのではなくて、演奏する方も聞く方も楽しい気分にさせてくれる芸人魂の持ち主であったことを肯定的に表現したものでした。

そして、そう言う彼らの美質が炸裂したのがこのブラームスの弦楽六重奏曲でしょう。とりわけ、若きブラームスの青春の歌とも言うべき第一番の第二楽章はポルタメントを多用した「泣き節」が炸裂しています。
まさに、ドイツ版ド演歌です。
ヨーロッパの名の通ったカルテットから、これほどコブシのきいた泣き節が聞けるとは驚いてしまいます。そして、齢を重ねてきた身にとっては、こういう「泣き節」はしみじみと「いいなぁ・・・。」と一人呟いてしまいます。

今となっては、頼まれてもこんな演奏をするようなカルテットは存在しないでしょう。そして、それは当然すぎるほどのことであり、その事を不満に思うのは間違いであることは頭では理解できても、その事を残念に思う心の有り様も否定できない自分がいます。
ああ、どこかで、恥も何もかもかなぐり捨てて、こんな泣き節を聞かせてくれるカルテットはいないものでしょうか。

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