ベートーベン:ピアノソナタ第32番 ハ短調 作品111
(P)リヒター=ハーザー 1959年4月7~14日録音
Beethoven:ピアノソナタ第32番 ハ短調 作品111 「第1楽章」
Beethoven:ピアノソナタ第32番 ハ短調 作品111 「第2楽章」
時間が不足だったので・・・
最後の最後で二楽章に圧縮されたソナタを書いたのですが、周囲は3楽章についてしきりに説明を求めました。それに対するベートーベンの答えが「時間が不足だったので・・・」だそうです。
もちろんこれはベートーベン一流の冗談であることは明らかです。
変奏曲形式の極限とも言える第2楽章の音楽を聴くとき、そしてその最後の音がはるかな高みへと消えていくのを聞くとき、これに続く音楽などは存在しないことを誰もが納得できるはずです。
ピアノソナタ32番 Op.111 ハ短調
第1楽章
マエストーソーアレグロ・コン・ブリオ・エド・アッパッシオナート ハ短調 4分の4拍子 ソナタ形式
第2楽章
アダージョ・モルト・センプリーチェ・エ・カンタービレ ハ長調 16分の9拍子 変奏曲形式
まさに変奏曲形式の行き着く先を示したような音楽。主題旋律は次第にその姿を漂う霧の中に姿を没していきます。
腕のいい煉瓦職人
少し前になりますが、「恥ずかしながら、『Hans Richter-Haaser』というピアニストのクレジットを見ても「ハンス・リヒター=ハーザー」とは読めなかった。(´`)>」などと書いていましたね。まあ、それくらい私の視野に入っていなかったピアニストだと言うことです。
ただし、ファースト・コンタクトだったブラームスのコンチェルトの印象は悪くなくて「録音の良さも貢献しているのでしょうが、一つ一つの粒立ちが良くて実に冴え冴えとした響きはなかなかに魅力的です。そして、いわゆるドイツ系のピアニストのようにゴツゴツした感じが全くなくて、それとは反対の優雅な雰囲気が全体を支配しています。」と書いています。
しかしながら、ピアニストの本質はベートーベンのピアノソナタを聴かなければ分からないという「古い人間」なので、いささか意地悪な興味も伴ってこれら最晩年のソナタを聴いてみました。
結論から言えば、極めてファンタスティックな演奏だと言わざるを得ません。
ネット上の評価を散見しますと、「重厚、立派な骨格で作品を再現」とか「がっしりと堅固に構築されたドイツ風なスタイルを基調としたもの」などと書かれていますが、この録音を聞く限りは同意しかねます。おそらくは、年を経るに従って演奏スタイルが変わってい言ったのかもしれませんが、50年代の録音を聞く限りでは、そしてベートーベンの演奏においても、ゴツゴツした感じよりはそれとは反対の優雅な雰囲気が全体を支配しています。
ただし、雰囲気だけの流線型の演奏とはこれまた全く異なります。
果たして、こういう喩えが相応しいのかどうかは自信はありませんが、腕のいい煉瓦職人のような感じです。つまり、一つ一つの細部は極めて繊細にして精緻に仕上げられています。そして、そう言う一つずつの細部をこれまた実に丁寧に積み上げて、結果として実に立派な建造物を作り上げているように聞こえるのです。
ですから、まずはその「一つずつの煉瓦の仕上げの良さ」に感心させられます。その手触りの良さ見栄えの良さには録音のクオリティの高さも貢献して、実に惚れ惚れとさせられます。しかし、リヒター=ハーザーの素晴らしさは、そう言う細部の素晴らしさに感心させられながら、最後に気がつくと実に立派な建築物に仕上がっているという事です。
ただ、惜しむらくは、録音ではこれほどまでに「いい仕事」をしているのに、実演になると結構荒っぽかったらしいのです。そのあたりが、常に高いレベルの演奏を維持していたバックハウスなどとの違いだったのかもしれません。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)