チャイコフスキー:序曲「1812年」 変ホ長調 作品49
カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1958年1月録音
Tchaikovsky:序曲「1812年」 変ホ長調 作品49
下品さが素敵!!
その昔、「これからの私の人生にチャイコフスキーの音楽はもう不要だ」と言った、エラーい評論家が痛そうです。いや、(訂正)、いたそうです。(^^;
クラシック音楽が「強要」として、いや(訂正)、「教養」としてとらえられていた、古き良き(?)日本の時代を思い出させてくれるエピソードです。
なるほど、「教養」と書こうと思って、「きょうよう」と入力して変換すると「強要」になるとは、パソコンの変換機能はたんなる変換機能をこえて事の真実をさらけ出す能力まで身につけたようです。
確かに、「教養」というものは、どう聞いても面白くないようなものをじっと我慢して聞くことを「強要」されることで身につくのですから、最初の音が出た瞬間から耳が惹きつけられ、聞き進んでいくうちに血湧き肉躍るというような音楽では「教養」は身につかないのです。ですから、「教養」を身につけるためにクラシック音楽を聴いているエライ人にとってはチャイコフスキーの音楽などは害悪以外の何物でもないでしょう。
そして、おそらくは、そう言う人たちにとって、このチャイコフスキーの「序曲 1812年」こそは、そのような害悪の象徴、悪の権化のような音楽だったに違いありません。
まさに、下品!!
おそらく、音楽史上、最も下品な音楽の一つでしょう。いやもしかしたら「One of the most vulgar music」ではなくて「Most vulgar music」かもしれません。
しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉もありますが、芸の世界では、下品も極めれば一つの価値となります。その下品さこそが最高に素敵なのです。
この作品は今さら言うまでもなく、1812年のナポレオンによるロシア戦役を描いた音楽です。この戦役では、ロシアはナポレオン軍に首都モスクワを制圧されながらも、最終的には冬将軍の厳しい寒さにもつけられて「無敵ナポレオン」を打ち破ります。まさに、歴史に刻み込むべき「偉大なる祖国防衛のための戦い」でした。
ですから、この作品はその戦いをなぞった音楽になっています。
第1部:Largo
ヴィオラとチェロのソロが奏でる正教会の聖歌「神よ汝の民を救い」にもとづく静かな序奏で始まります。この後のハチャメチャが想像できないような美しい出始めです。
第2部:Andante
打楽器の活躍がロシア軍の行進を暗示し、音楽は次第に盛り上がっていきます。
第3部:Allegro giusto
「ボロジノの戦い」と説明されることもあります。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の旋律を響き渡り、ナポレオン群の進撃が始まります。
最初の大砲もこの部分で5回「発射」され、この偉大なる(?)作品の真実が姿を現し始めます。
第4部:Largo
冒頭の主題と同一の旋律ですが、今度は管楽器で堂々と演奏されロシア軍の反撃が始まります。
第5部:Allegro vivace
ロシア帝国国歌が壮大に演奏されます。さらに鐘は鳴り響き、大砲もとどろく中でナポレオン軍は撃退されロシア軍の大勝利で音楽は終わります。
まさに、下品です(^^v
でも、素敵です!!
下品比べ
こういう作品は、乙に構えて気取ってみても仕方がありません。
外連味だけでできているような音楽なのですから、演奏の方も外連味たっぷりにやってもらった方が聞いている方も気持ちがいいです。
ところが、意外と思われるかもしれませんが、カラヤンはそう言う「下品さ」はあまりお好きではなかったようです。
おそらく、作品の下品さという点でこの序曲と双璧をなすと思われるのがレスピーギの「ローマの祭り」です。ところがカラヤンは「ローマの松」と「ローマの泉」は録音しているのに、「ローマの祭り」だけは取り上げていないのです。
理由は「下品すぎる」だからだそうです。
しかし、この「序曲 1812年」はそれよりもさらに下品だと思うのですが、2回も録音しています。やはり売れ筋だからでしょうか?
では、基本的にはそう言う「下品さ」からは距離をとりたいと思っているカラヤンがこの作品をどのように料理しているのでしょうか。
これは聞いてみれば分かるとおり、第3部で大砲をぶっ放すあたりからの雰囲気は、とっても下品です。そして、その下品さを聞き比べてみると、古今の録音の中でも傑出した下品さに満ちています。
例えば、この作品の下品さナンバーワンとして常に取り上げられるのが、これです。
ゴロワノフ指揮 モスクワ放送響 1948年録音
聞いてみると、トータルとしてはカラヤンの方が下品かもしれません。その最大の功労者は大砲ぶっ放しの「えぐさ」でしょうか。
確かに、ゴロワノフの演奏は意味不明の強弱やテンポの伸び縮みにあふれていて、確かに「トンデモ演奏」の名に恥じません。しかし、聞いてみると、個人的にはカラヤンの方が下品に聞こえます。
やはりカラヤンです。
いつもはお上品に振る舞っていても、やるときはやるのです!!
よせられたコメント 2012-10-07:Sammy 聴き始めて、洗練された音の流れに、「下品かなあ」と思っていたのが、お書きになられた通り、大砲が鳴るあたりで一挙にブチ切れてしまって、逃げも隠れもしない、すがすがしいまでの「純度の高い下品全開」モードについ大爆笑してしまいました。でも、きっとこれでよいのです。
【最近の更新(10件)】
[2025-10-02]
J.S.バッハ:幻想曲 ハ短調 BWV.562(Bach:Fantasia and Fugue in C minor, BWV 562)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)
[2025-09-30]
ベートーベン:合唱幻想曲 ハ短調 Op.80(Beethoven:Fantasia in C minor for Piano, Chorus and Orchestra, Op.80)
(P)ハンス・リヒター=ハーザー カール・ベーム指揮 ウィーン交響楽団 ウィーン国立歌劇場合唱団 (S)テレサ・シュティヒ=ランダル (A)ヒルデ・レッセル=マイダン (T)アントン・デルモータ (Br)パウル・シェフラ 1957年6月録音(Hans Richter-Haaser:(Con)Karl Bohm Wiener Wiener Symphoniker Staatsopernchor (S)Teresa Stich-Randall (A)Hilde Rossel-Majdan (T)Anton Dermota (Br)Paul Schoffler Recorded on June, 1957)
[2025-09-28]
エルガー:コケイン序曲 Op.40(Elgar:Cockaigne Overture, Op.40)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962年5月9日&8月27日録音(Sir John Barbirolli:The Philharmonia Orchestra Recorded on May 9&August 27, 1962)
[2025-09-26]
ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60(Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major ,Op.60)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1962年1月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on January, 1962)
[2025-09-24]
フォーレ:夜想曲第3番 変イ長調 作品33-3(Faure:Nocturne No.3 in A-flat major, Op.33 No.3)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)
[2025-09-22]
ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op. 51-2(Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2)
アマデウス弦楽四重奏団 1955年2月11日~12日&14日録音(Amadeus String Quartet:Recorde in February 11-12&14, 1955)
[2025-09-20]
エルガー:序曲「フロワッサール」, Op.19(Elgar:Froissart, Op.19)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年7月14日~16日録音(Sir John Barbirolli:New Philharmonia Orchestra Recorded on July 14-16, 1966)
[2025-09-18]
バッハ:トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV.564(Bach:Toccata, Adagio and Fugue in C major, BWV 564)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)
[2025-09-16]
メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 Op.54(Mendelssohn:Variations Serieuses, Op.54)
(P)エリック・ハイドシェック:1957年9月20日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n September 20, 1957)
[2025-09-14]
フランク:天使の糧(Franck:Panis Angelicus)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)