ワーグナー:ジークフリート牧歌
カンテッリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 (Hr)Brain 1951年10月16日録音
Wagner:ジークフリート牧歌
階段の音楽
この作品の誕生に関わるエピソードはあまりにも有名です。
ジークフリート牧歌は、1870年、晴れて自分の妻となったコジマへの誕生日プレゼントとして創作されました。しかし、コジマの誕生日までそのプロジェクトは極秘であり、練習も家族に知られないように行われたと言います。
そして、誕生日当日の朝、コジマは美しい音楽で目をさますことになります。階段に陣取った17名の演奏家とワーグナーによる彼女へのプレゼントが同時に世界初演となったわけです。
そして、音楽が終わると、ワーグナーはうやうやしく総譜をコジマに手渡したと言います。
なかなかやるもんです。
そして、コジマと子供たちはこの作品を「階段の音楽」と呼んで何度も何度もアンコールしたと言うエピソードも伝わっています。
こういうお話を聞くとワーグナーってなんていい人なんだろうと思ってしまいます。しかし、事実はまったく正反対で、音楽史上彼ほど嫌な人間はそういるものではありません。(-_-;)おいおい
ただ、コジマとの結婚をはたし、彼女とルツェルンの郊外で過ごした数年間は彼にとっては人生における最も幸福な時間でした。そして、その幸福な時代の最も幸福なエピソードにつつまれた作品がこのジークフリート牧歌です。
それ故にでしょうか、この作品はワーグナーの作品の中では最も幸福な色彩に彩られた作品となっています
こういうのを聴くと、つくづくと人格と芸術は別物だと思わせられます。
カンテッリの少し違った顔が見られる
カンテッリと言えば「トスカニーニの後継者」というタグがついてしまっているので、推進力に富んだ颯爽とした演奏というイメージがつきまといます。確かに、既にアップしてある一連のチャイコフスキーやブラームスの1番、メンデルスゾーンの4番などはまさにその通りの演奏になっているので、そのようなイメージは決して間違ったものではありません。
しかし、それなりに一家をなした指揮者の音楽というものは、そのような決まり切ったタグで特徴づけることができるほど単純なものでないことも心得ておかなければなりません。そのような例の一つが、この1951年に録音されたジークフリート牧歌です。
聞いてみれば分かるように、一般的なこの作品のイメージからしても、かなりゆっくりめのテンポでじっくりと歌い上げています。ウィキペディアのこの作品の項目には演奏時間は21分と書かれていますが、これは明らかに間違いです。一般的な演奏時間は16分程度ではないかと思います。
それと比べると、このカンテッリの演奏は17分を超えていますから、やや遅めのテンポ設定だといっていいと思います。ただ、実際に聞いてみれば、そう言う単純な時間比較以上に、じっくりと歌い上げているように聞こえます。
ただ、各声部のバランスの取り方が絶妙で、全体としての響きの純度は驚くほど高いのがこの演奏の特徴です。その意味では、細部にはこだわらずに、鷹揚に歌い上げているような演奏とは本質的に異なります。個人的に言えば、このように細部の緻密さには徹底的にこだわりながら、それでいながら音楽全体としてはこぢんまりとすることなく大らかに歌い上げているというのは好ましく思えます。
そう言えば、この録音には伝説のホルン奏者デニス・ブレインが参加しているのですが、カンテッリの要求が非常に厳しくて「何度もやり直しを命じられた」ために、「彼とは二度と仕事をしたくないよ」と愚痴をこぼしていたらしいです。
あまりカンテッリの業績の中では話題になることの少ない録音ですが、カンテッリの少し違った顔が見られるという意味でも興味深い一枚だと思います。
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