バッハ:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
リヒター指揮 ミュンヘン・バッハ管弦楽団 オーレル・ニコレ(Fl) 1960年6月録音
Bach:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 「序曲」
Bach:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 「ロンド」
Bach:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 「サラバンド」
Bach:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 「ブーレ」
Bach:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 「ポロネーズ」
Bach:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 「メヌエット」
Bach:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067 「バディヌリー 」
ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品
ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。
そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。
ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。
ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。
疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。
第1番:荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。
第2番:パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。
第3番:この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。
第4番:序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。
私の中では今でもバッハはリヒターを模倣します。
リヒターの管弦楽組曲もパブリックドメインの仲間に入りました。感慨深いモノがあります。
何故ならば、私にとってのこの作品の刷り込みはこのリヒター盤だからです。いや、この組曲だけでなく、マタイもロ短調ミサも、そしてブランデンブルグ協奏曲も、つまりは管弦楽や合唱を伴うバッハの作品は全てリヒターが最初だったのです。
ですから、バッハというのはこのように「厳しいモノ」だという刷り込みができてしまいました。鋭い響きで輪郭線がクッキリと浮かび上がるのがバッハの音楽だったのです。
私がオリジナル楽器による演奏にどうしてもなじめなかったのは、このような刷り込みが原因だったのかもしれません。あの青白く病気のような響きで弱々しく演奏されるバッハには最後まで納得することができませんでした。
確かに、バッハは自分の書いた音楽がこのように荘重に、そして厳しく演奏されることは想像していなかったでしょう。しかし、リヒターにとってバッハとはこのような音楽だったのです。そう言えば、未だ無名だった時代にリヒターは演奏会の合唱メンバーを集めるためにミュンヘンの街角でチラシを配り続けたそうです。とにかく、彼は己の信ずるバッハを演奏したかったのです。
そして、やがて時代は彼のバッハを支持し、彼が信じたバッハの姿が一つのスタンダードとして定着していくまでになります。
彼のバッハ演奏が一つのスタンダードとして定着していっても、彼の演奏の中には何時までも無名時代の良き意味でのアマチュア精神が息づいていました。彼の演奏には常にある種のひたむきさと清冽さが感じられました。
しかし、時代はやがて彼を置き去りにして前に進んでいきます。リヒターは己のバッハ像が次第に時代遅れのモノになるのを感じながらも、それでも新しいバッハ像を納得して受け入れることはできなかったようです。そして、「音楽的能力のない音楽学者があまりにも多すぎる」と批判したことも、彼の焦りといらだちの表れだったのかもしれません。
しかし、「自然は芸術を模倣する」という言い方を援用するならば、私のなかでは何時までもバッハはリヒターを模倣します。
進歩のない男だと言われればそれまでですが・・・。
リヒターとはあまり関係が良くなかったと言われるフィッシャー=ディースカウでさえ「私は多くの人が、リヒターの時代が過ぎ去ってしまったのを嘆いているのを聞きます。」と述べています。
オリジナル楽器による演奏が普通となった時代に育った人々にとっては、この演奏はあまりにも暑苦しく聞こえるかもしれません。金管楽器の響きも鋭すぎて耳障りかもしれません。
しかし、これもまた演奏史において見過ごすことのできない一コマです。
一度は心して、しっかりと聞いてほし演奏だと思います。
よせられたコメント
2013-07-12:副島芳行
- いつもよく聴かせていただいています。ブランデンブルグ協奏曲の旋律も何とも云えない深いものがありますが、この曲もまた85歳の小生には物悲しい響が心に沁み戦中の亡き友の面影が偲ばれてきます。なにしろ自由に聴けない時代でしたから・・・・
2018-07-18:藤原正樹
- 実存に迫る名演。というか、最初期に聴いたのがこの演奏。中学にあった鑑賞用レコードのプロハスカ=ウィーン国立歌劇場管弦楽団も悪くなかったが、やはりリヒターのキレのよさが私を魅了した。いろんな意味で「斬新」なのである。このサイトで取り上げられている他の演奏と比べてみればそれははっきりしていて、第1楽章を極力インテンポで進めていくのは、カザルスと対照的だろう。戦前のメンゲルベルク(野村あらゑびすの推奨盤。ネットに転がっている)や戦後でもシューリヒトがそうであったように、序曲は遅めにしたくなるもので、カザルスでも遅い。全体の鳴らし方も小ぶりのオケでニコレの鋭く清潔なフルートがうまく浮き出てくる。おなじDG系列でもカラヤンが名手ピヒト=アクセンフェルトを得ながら、うるさく響かせて、大オーケストラで押してくるのとは正反対。
2021-09-12:笑枝
- LP 、最初に購入したのがこのリヒター盤でした。高校三年のとき。
リズムの切れがよくて、今でも好きな演奏です。
ニコレのフルート、何度聴いても素晴らしい。
サラバンド以下、盤擦りきれるくらい繰り返し繰り返し聴きました。
とくにメヌエットは、三回くらい聴かないと満足できないので、
カセットに三回繰り返しのバージョンを録音して楽しんだものです。
バッハって、ダカーポしてもダカーポしても、飽きない?
2022-12-17:大串富史
- 今回は特にバッハとリヒター、また管理人様へ感謝を述べたく思いました。
わたし的にはバッハの一群の管弦楽組曲が、ずっとなんだかなーだったのですが、この年になりようやく、バッハ的には万人受けで譲れるところまで譲るとこうなるのかー、みたいな感慨があります。
簡単に言ってしまえば、バックグラウンドミュージックとしてこの2番がわたし的にはギリギリの許容範囲で、逆に音楽の捧げものとかを流してしまうとやっぱりまずいかなーと思ったりするわけです。
#本当はバッハのトッカータとフーガ、いやブクステフーデの霧あたりを流したいぐらいの衝動が、まだあったりするのですが…
そんなわけでヘンデルやハイドンは最初から流したくなく、かといってヴィヴァルディを流すのもなんだかなー、というのが正直なところで、今回は残りの管弦楽組曲も全部バックグラウンドミュージックとして流させていただければと思っています。もちろんリヒターです。
音楽というのは人類の共通言語であると同時に、どうしても「俺の歌を聴け」ということになってしまうこともあり、万人受けするものと芸術性音楽性が秀でているものは明らかに同じではない(皆が皆バッハ並みであれば別でしょうが)、まあ結局どちらでもいいのかという、半ば諦めの気持ちと不思議な安堵感とが入り混じった複雑な心境で、バッハらしくないなーやめてほしいなー、と思っていたこの2番を改めて聴き直しています。
最後に管理人様への感謝も申し述べさせていただくのですが。こんな言い方をして一括りにしたくはないものの、あれもこれもとあらゆるクラシック楽曲に目を向け続けておられるのは、クラシック音楽通でいらっしゃるだけに時にストレスではなかろうかとも危惧してしまう一方、結果としてこちらのサイトは正真正銘の「万人受け」クラシック音楽サイトに仕上がっていると思います。
これからもご自愛されながら、この貴重なお仕事をお続けくださいますよう。
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