サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン Op.20
Vn.ハイフェッツ ウィリアム・スタインバーグ指揮 RCAビクター交響楽団 1951年6月10,16,19日録音
Sarasate:ツィゴイネルワイゼン Op.20
ヴァイオリンのテクニックの見本市
サラサーテと言えばツィゴイネルワイゼン、ツィゴイネルワイゼンと言えばサラサーテです。
多くの作曲家(サン=サーンス・ブルッフ・ラロなど)が彼のために多くの作品を献呈していますが、何と言っても彼の手になるこの「ツィゴイネルワイゼン(ジプシーの歌)」が一番有名であり、サラサーテの代名詞となっています。
ヴァイオリンの華やかな技巧の見本市ともいうべき作品であり、エンターテイメントとしてのヴァイオリンの楽しさをこれほどまでに満喫できる作品はそうあるものではありません。
この作品は、当時のハンガリーで広く普及していたジプシーオーケストラのハンガリーの歌が使われています。サラサーテはこのアンサンブル特有の演奏スタイルと自由な即興的形式を上手くこの作品に取り込んでいます。
感傷的なレチタティーヴォ、歌うようなメロディー、炎のチェルダシ(ハンガリーの民族舞踊)。
実に見事なものです。
音のサーカス
音楽、とりわけクラシック音楽などと言う世界では「精神性」というものが何よりも大切にされます。指だけが良くまわるような若手の演奏などは、精神性に乏しい底の浅い演奏などと批判されることが良くあります。
ではその精神性なるものの本質は何か、その実態はどういうものなのかと問うてみて、あまり確たる回答のかえってきた試しがありません。せいぜいが、その演奏を通して生きることの苦悩やヨロコビなどが深く表現されているというような曖昧な回答がかえってくるだけで、ではその演奏のどの部分にそのような苦悩やヨロコビが表現されているのかとつっこみを入れると、それは演奏全体を通してオーラのように立ち現れてくるのであって、そのように分析的に表現できるものではないと叱られたりします。
しかし、誤解のないように言い添えておきますが、確かに人生の最も重要な部分に直接触れてくるような演奏は存在します。そして、そのような演奏は聞くものに大いなる希望やヨロコビを与え続けてきてくれました。それは確かです。
ただ、年寄りのよたよたの演奏までもが「精神性」という「護符」でごまかされるのはこの国ではよくあることなので要注意です。
ところが、50年代のアメリカでは、そのような精神性などとは全く関係ない、まさに「音のサーカス」とも言うべき演奏がもてはやされました。その代表格がこのハイフェッツであり、もう片方の横綱がホロヴィッツであることは言うまでもありません。
この二人のような偉大な才能が登場したからそのような演奏様式が受け入れられたのか、それともそのような演奏様式を50年代のアメリカが求めたからこそ、ハイフェッツやホロヴィッツのような才能が登場したのか、どちらが卵でどちらが鶏かは分かりません。
しかし、「精神性」などというものを一切捨象しても、クラシック音楽は一流の芸術となることをこの二人は鮮やかに証明してみせました。
たとえば、当時のアメリカを代表する評論家であったショーンバーグがホロヴィッツのことを「ネコほどの知性もない」と批判してみたところで、そのネコほどの知性もない男の指から紡ぎ出される音に聴衆は熱狂し、今も多くの聞き手を魅了するのです。
さすがに、ハイフェッツの知性はそれほど酷くはなかったようですが、それでも彼の演奏から深い精神性を感じ取りそれに涙するという「変わり者」はあまりいないでしょう。
しかし、ホロヴィッツと同様に、その指先から繰り出される魔法のような「音のサーカス」の魅力に抗しきれる人はほとんどいないはずです。
とりわけ、彼の絶頂期であった50年代初頭にまとめて録音された技巧的な小品は、そのような「音のサーカス」の凄さを堪能させてくれます。
そして、頃はクラシック音楽などをあまり聴かない人たちにこのような演奏を聞いてもらえば、堅苦しくて面白みのないという思いこみも多少は払拭されることでしょう。
そう言う意味で、これもまた不滅の名録音に断言したい演奏です。
<今回まとめてアップした録音>
・サラサーテ:ツィゴイネルワイゼンOp.20
・サン=サーンス:ハバネラOp.83
・サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調Op.28
ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)
ウィリアム・スタインバーグ(指揮)、RCAビクター交響楽団
・ショーソン:詩曲Op.25
ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)
アイズラー・ソロモン(指揮)、RCAビクター交響楽団
(1952年12月2日 ハリウッド、ユナイテッド・アーティスツ・スタジオ)
なお、録音に関してはこの時代のものとしては「極上」です。音楽を楽しむ上で何の支障も問題もありません。
よせられたコメント
2013-02-25:野口 岩男
- 学生時代に名曲喫茶でよく聞きました。バイオリンの音がきれいではっきりしていて正確です。名演奏です。若いときのことが思い出されます。
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)