クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ラヴェル:ラ・ヴァルス

アンセルメ指揮 パリ音楽院管弦楽団 1953年6月録音





Ravel:ラ・ヴァルス


沈みゆく船

この音楽を聞いていると、いつもタイタニック号のイメージが浮かび上がってきます。
華やかな舞踏会が繰り広げられる豪華な客船、しかし、その船はまさに沈みゆこうとしています。
それでも、人々は、そんなことを夢にも思わずに踊り続けている。

パッと聞くだけなら、この上もなく華やかで明るいだけの音楽に聞こえます。でも、その音楽を聞いていると、その底に何とも言えない苛立ちのような不安感が流れています。それは、おそらくは上辺の華やかさと底辺の不気味さが妙に同居していて、その不気味さが華やかな音楽の合間に時々ぬっと顔を出すからでしょう。
こういう不気味さは結構コワイ。
そして音楽はラストに向けてやけくそのようにテンポを速めながら、最後は砕け散るように幕を閉じます。

よく言われるように、この作品にはラヴェル自身の第一次世界大戦への従軍とその後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)が間違いなく反映しています。

ラヴェルはこの作品に対して次のような標題を掲げています。

渦巻く雲の中から、ワルツを踊る男女がかすかに浮かび上がって来よう。雲が次第に晴れ上がる。と、A部において、渦巻く群集で埋め尽くされたダンス会場が現れ、その光景が少しずつ描かれていく。B部のフォルティッシモでシャンデリアの光がさんざめく。1855年ごろのオーストリア宮廷が舞台である。

おそらく、氷河に衝突したのがフランツ・ヨーゼフ1世治下の1850年代であり、その結果としての沈没が第一次世界大戦であったという思いがあったのでしょうか。

でも、これが他人事とは思えない現状も怖いなぁ。

この上もなく明晰なラベル


以前に、ミュンシュのラベル演奏を評してこんな事を書きました。

「ミュンシュという人の最大の特徴は、複雑を極めるスコアの各パートを実にバランス良く鳴らし分けることです。・・・この国におけるクラシック音楽を支えてきた中核とも言える人々は、音楽に対して造形の確かさや響きの美しさ、明晰さだけでなく、それに加えて「人生」を担いうるだけの「ドラマ性」をプラスαとして求めてきました。・・・(しかし)、ボストン時代のミュンシュにとって、そんな「ドラマ性」など知った話ではなかったのでしょう。」

そして、結論として、「ミュンシュはドイツとフランスのDNAを持つと言われますが、こういう演奏を聴くと、彼のDNAはやはりフランスのようです。」と結んでいました。

この文章を書いたときは、私はアンセルメによるラベルを満足に聞いていなかったのです。
そして、もしもしっかりとアンセルメの演奏を聴いていたならば、決してミュンシュのDNAはフランスのものだ、などとは書かなかったはずです。

アンセルメによるボレロやラ・ヴァルスを聞くと、造形の確かさや響きの美しさに感心させられます。そして、何よりもスコアを眼前に見るがごとくの明晰さにあふれた演奏とはこういうものなのかと納得させられます。
確かにその明晰さや精緻さはデッカというレーベルの録音ポリシーに依存している部分はあるでしょう。来日時の演奏がレコードで聴ける音楽とはかけ離れていたことを持って、あれはデッカ・レコードの録音の魔術によるものだ、と言う批判もあったほどです。

しかし、この録音を通して聞ける音楽とのみ対峙すれば、音の響きと造形だけで全てを語りうると言う信念に満ちた演奏であることは確かです。
そして、こういう類の演奏と比べれば、ミュンシュの音楽というのは「ドラマ性」を削ぎ落としているどころか、聞くものにとっては実に分かりやすく、ドラマ性に満ちた音楽だった事に気づかされます。
聞く気になって耳を傾ければ、彼は一つ一つのフレーズを結構入念に表情付けをしています。そして、そうすることによって聞く人にこの音楽が持っているドラマ性を分かりやすく提示してくれている事に気づかされます。

つまりは、当時の大指揮者と言われた連中の音楽と比べれば、ミュンシュの音楽はかなり即物的に聞こえたことは事実です。しかし、アンセルメと比べれば、はるかにドラマティックな演奏に聞こえるのです。

そういう意味では、ミュンシュこそは「ドイツとフランスのDNA」を持つ指揮者であり、真にフランス的なDNAを持つのはアンセルメなのでしょう。
もちろん、どちらの方がすぐれているのか・・・と言うような類の話ではありませんが・・・。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-03-28]

ラヴェル:スペイン狂詩曲(Ravel:Rhapsodie espagnole)
シャルル・ミュンシュ指揮:ボストン交響楽団 1950年12月26日録音(Charles Munch:The Boston Symphony Orchestra Recorded on December 26, 1950)

[2025-03-24]

モーツァルト:セレナード第6番 ニ長調, K.239「セレナータ・ノットゥルナ」(Mozart:Serenade in D major, K.239)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音(Joseph Keilberth:Bamberg Symphony Recorded on 1959)

[2025-03-21]

シューベルト:交響曲第2番 変ロ長調 D.125(Schubert:Symphony No.2 in B-flat major, D.125)
シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1949年12月20日録音(Charles Munch:The Boston Symphony Orchestra Recorded on December 20, 1949)

[2025-03-17]

リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲, Op.34(Rimsky-Korsakov:Capriccio Espagnol, Op.34)
ジャン・マルティノン指揮 ロンドン交響楽団 1958年3月録音(Jean Martinon:London Symphony Orchestra Recorded on March, 1958)

[2025-03-15]

リヒャルト・シュトラウス:ヴァイオリンソナタ 変ホ長調 ,Op.18(Richard Strauss:Violin Sonata in E flat major, Op.18)
(Vn)ジネット・ヌヴー (P)グスタフ・ベッカー 1939年録音(Ginette Neveu:(P)Gustav Becker Recorded on 1939)

[2025-03-12]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第22番 変ロ長調 K.589(プロシャ王第2番)(Mozart:String Quartet No.22 in B-flat major, K.589 "Prussian No.2")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2025-03-09]

ショパン:ノクターン Op.27&Op.37(Chopin:Nocturnes for piano, Op.27&Op.32)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1956年発行(Guiomar Novaes:Published in 1956)

[2025-03-07]

モーツァルト:交響曲第36番 ハ長調「リンツ」 K.425(Mozart:Symphony No.36 in C major, K.425)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1960年録音(Joseph Keilberth:Bamberg Symphony Recorded on 1960)

[2025-03-03]

ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調, Op.68(Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68)
アルトゥール・ロジンスキ指揮:ニューヨーク・フィルハーモニック 1945年1月8日録音(Artur Rodzinski:New York Philharmonic Recorded on January 8, 1945)

[2025-02-27]

ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調(Debussy:Sonata for Violin and Piano in G minor)
(Vn)ジネット・ヌヴー (P)ジャン・ヌヴー 1948年録音(Ginette Neveu:(P)Jean Neveu Recorded on 1948)

?>