バッハ:ゴルドベルグ変奏曲
チェンバロ:ワンダ・ランドフスカ 1933年11月 パリにおいて録音
Bach:ゴルドベルグ変奏曲
不眠症対策というのはあまりにも有名なエピソードですが・・・
1741年のことです。
ドレスデンを旅をしたバッハは、世話になったロシア公使カイザーリング伯爵のもとを訪ねます。伯爵は当時不眠症にかかっていたために、伯爵に仕えるヨーハン・ゴットリーブ・ゴールトベルクという14歳の少年にクラヴィーアを演奏させていました。(まだ14の子供に、自分が眠りにつけるまで毎日毎日ピアノを演奏させ続けるとはどんな神経をしとったんだ!!)
そんな伯爵が、「穏やかでいくらか快活な性質を持ち、眠れぬ夜に気分が晴れるようなクラヴィーア曲を作ってくれ」とバッハに依頼をして誕生したのがこの作品です。
ユング君はこの「不眠症対策」というエピソードは後世の人が面白おかしくでっち上げたお話だと最初は思っていたのですが、実は大筋で事実と一致しているようですね。それにしても、小さな子供にかくも過酷な命令を平然と出せるような人間が不眠症になるとは信じがたい話です。
でも、ゴルドベルク少年はその過酷な試練に耐えたおかげで、このバッハ晩年の大傑作に自分の名前を残すことになります。
作曲の経緯から言えば、「カイザーリング変奏曲」と呼ばれてもなんの不思議もないと思うのですが、なぜか「ゴルドベルグ変奏曲」と呼ばれるようになったのですから、これまた歴史の皮肉と言わねばなりません。
グールド以前
ゴルドベルグ変奏曲は、その演奏史において「グールド以前」と「グールド以後」に二分されることは明らかです。それほどまでに、グールドのデビュー作であった55年の録音は衝撃的でした。
でも、これは私たちの世代にとっては知識として「頭」だけで分かっていることで、その衝撃を「心」で受け止めたわけではありません。その衝撃を実体験した人はもうほとんどいなくなっているのではないでしょうか。(グールドがいってから20年近い時間が経過しました)
ここで聞いていただけるランドフスカの演奏は、グールド以前の代表的な録音でした。実にきちんとした演奏で録音も良好なために、録音年代から連想されるような古さは感じませんが、それでも基本は「ロマンティックなバッハ」です。いや、ランドフスカ自身はそのようなロマン主義的な歪曲からバッハを救い出そうとしていたのですが、それでも「グールド以後」の世界にどっぷりと浸かったユング君には「ロマン的」に聞こえてしまうのです。
そこにこそ、グールドの衝撃がほんの少しだけかいま見れるような気がします。
よせられたコメント 2009-09-26:カンソウ人 一つの時代を作った演奏家だとは思います。いい加減な演奏だとは決して思いませんが、録音の古さとは違った意味で本質的に古いと思います。ピアノメーカーであったエラールのピアノの構造を使って作ったチェンバロの音は、如何に調律しようとも協和音を奏でるときにさえ、濁りを靄のように発生させる。カークパトリックの演奏したチェンバロの音のような立ち上がりのエッジの立った感じがない。ランドフスカが選んだ音にバロックの音楽、バッハの音楽と余りにも距離を感じる。終始する際のリタルダンドやレガート奏法にロマン主義との距離の近さを感じる。
ピアノのグールドの演奏に匹敵するチェンバロ奏者は、グスタフレオンハルト以外には考えられない。エラールや現代チェンバロは使用せず、レプリカのチェンバロを使用し調律もピアノから離れ、奏法や解釈まで全て音楽学通りにやってみる。私は実験的と呼んでいる。グールドは万能楽器ピアノを使うが、ピアノには本質的にチェンバロやクラヴィコードの真似をすることができると思う。
ランドフスカには、ストコフスキーのバッハの現代オーケストラ編曲やギュンターラミンの演奏ほどの意味を認めることはできない。必要悪として妥協し、最大の努力をした人たちほどの魅力を感じない。エラールのチェンバロを使うことはどうも気に入らない。バッハを演奏するならば、素直にフィッシャーのようにピアノを弾いたほうがよかったのではと思います。 2010-01-21:redhit 典雅ですな、幸せな憂鬱といった感じです。
「眠れぬ夜の幸せな憂鬱」 2010-12-05:べんじー まるでシンセサイザーを聴いているような音色ですね。
しかし、流れてくる音楽は紛れもなくバッハであり、かつ立派な演奏だと感じます。
グールドの演奏も大好きですが、こちらのサイトで初めて聴いたランドフスカの
ゴールドベルクもわたしは大好きです。
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