モーツァルト:レクイエム
ベーム指揮 ウィーン交響楽団 ウィーン国立歌劇場合唱団 (S)イラ・マラニウク (T)ヴァルデマール・クメント (Bs)クルト・ベーメ 1956年11月録音
Mpzart:レクイエム「入祭唱」
Mpzart:レクイエム「キリエ」
Mpzart:レクイエム「怒りの日」
Mpzart:レクイエム「奇しきラッパの響き 」
Mpzart:レクイエム「恐るべき御稜威の王 」
Mpzart:レクイエム「思い出したまえ」
Mpzart:レクイエム「呪われた人々が 」
Mpzart:レクイエム「涙の日」
Mpzart:レクイエム「主イエス・キリスト」
Mpzart:レクイエム「賛美の生け贄と祈り」
Mpzart:レクイエム「サンクトゥス」
Mpzart:レクイエム「祝せられたまえ」
Mpzart:レクイエム「神の小羊よ」
Mpzart:レクイエム「聖体拝領唱 」
モーツァルトの絶筆となった作品です
モーツァルト毒殺説を下敷きにしながら、芸術というものがもつ「酷薄さ」と、その「酷薄さ」を鮮やかに浮かび上がらせるかのようにモーツァルトの音楽の魅力を振りまいた映画が「アマデウス」でした。
そのラストのクライマックスのシーンで、魔笛とレクイエムの音楽がこの上もなく効果的に使われていました。
魔笛の輝くような明るい音楽と、陰鬱なレクイエムの音楽。光と陰が交錯する中から、モーツァルトの天才が浮かび上がってくる場面です。
それは、同時に天才モーツァルトと、凡人サリエリの違いを残酷なまでに明らかにする場面でした。
いや、凡人サリエリという言う方は正しくありません。真の凡人はモーツァルトの偉大さを全く知りません。
しかし、サリエリは悲しいまでにモーツァルトの天才を知っています。
死を目前にしたモーツァルトが口述するレクイエムのスコア、それを必死で理解しながらスコアに書き留めていくサリエリ。
それは、悲しいまでにこの二人の関係を象徴的に表した場面でした。
神の声が訪れるのはモーツァルトであって、決してサリエリではなく、彼にできるのは、モーツァルトを通して語られる神の声を、ただ必死で理解してそれをスコアに書き写すだけ。
おそらく、そのような存在として自分を認識することは、「芸術家」として最も辛く、苦痛に充ちたものであったはずです。
もっとも、そのような辛い認識に到達したのは、コンスタンツェが夫に内緒でサリエリのもとにスコアを持ち込んだときです。しかし、そのような残酷な認識をこれほども見事に映像として提示しているのはこのラストのシーン以外にはありません。
そして、そのような場面にふさわしい音楽もまた、この「レクイエム」以上のものはちょっと思い当たりません。
剛毅なレクイエム
モーツァルトのレクイエムと言えば長らくベームとVPOのコンビによる71年盤が絶対的名盤とされてきました。しかし、その後の古楽器ムーブメントの中で最も槍玉に挙げられてぼろくそに言われたのもこの演奏でした。冒頭の重く引きずるようなテンポに沈痛な嘆きと深い悲しみを感じるのか、許し難いほどの誤りに満ちた鈍重さしか感じないのか?全く同じものを見ながらこれほども評価が食い違うとは、実にイデオロギーとは恐ろしいものです。もちろん、ユング君にとっては、この演奏から誤りと鈍重さしか見いだし得ない人たちとは一生話し合っても接点を見いだすことは不可能だろうと思っています・・・って、話が古楽器のことになるとつい口が悪くなり熱くなる・・・反省
閑話休題。
これはどこかでも書いたことですが、ベームという人は最初からそんなテンポで音楽をやっていたわけではありません。その何よりの証拠が56年にウィーン交響楽団と録音したこの演奏です。71年盤と比べれば、とても同じ人間の指揮によるものとは思えないほどの「剛毅」なレクイエムになっています。
確かに、今の古楽器による青白い演奏を聞き慣れた人にはかなり遅めのテンポだと感じるかもしれませんが、71年盤のような「引きずる」様な重さはありません。それに、71年盤がどちらかと言えば「曲線」を多用して音楽を描き出しているのに対して、この56年盤は愚直なまでに直線的なレクイエムです。その意味では、モーツァルトのレクイエムで「癒されたい」と思う人には全く不向きな演奏ですが、死の恐怖で聞く人をビビらせたい教会サイドの人にとっては実にふさわしい演奏だといえます。
そして、この56年盤が心底凄いと思うのは、モーツァルトの絶筆となった「ラクリモサ」が終わってジェスマイヤーが補筆した部分に入っても一切手抜きがないことです。ユング君は余程のことがないと「ラクリモサ」が「アーメン」で閉じられるとそこで聞くのをやめてしまうのですが、このベームの演奏だけその後の補筆部分も「しっかりと最後まで聞け!」という気合いがびんびん伝わってきて最後まで聞かされてしまいます。
恐るべし、全盛期のベーム!!
よせられたコメント
2009-03-09:セル好き
- 確かに恐るべし。モンダー版のエンシェント管や去年のアーノンクールと比べても古さを感じさせず現代的というか普遍性さえ。演奏会というより教会で聴く感じ。Fontana(廉価盤)レーベルで出てましたね。
2012-06-09:ヒデ君
- 冒頭の10秒でこの演奏にただならぬものを感じました。
モーツアルトの頭の中に流れていたレクイエムにどの演奏が一番近いのか分かりませんが、とにかくこれまでに聴いたモツレクの中では圧倒的に凄い説得力を持って自分に迫ってきました。
歴史的名演という言葉がありますが、この演奏は魂が身震いするほどの感動を与えてくれます。
同じ楽譜を元に演奏していながら、何故こうまで指揮者によって音楽が変わるのかわかりませんが、ベームのこの演奏によってモーツアルトは比類なき天才作曲家であり、モーツアルトのこの曲によってベームは最高の指揮者であることが示されました。
この演奏に出会えたことに心から感謝です。
2012-10-15:渡邊 眞
- 子どものころはコンサートホールソサエティのレコードを聴いていました。ピエール・コロンボ指揮ウィーンオペラ座管弦楽団。聞いていて、涙した思い出があります。長じてからはベームの71年版オンリーでした。この56年版はおかげで初めて聞きました。ありがとうございました。70年代というのは、カラヤンにしてもベームにしても表現がこってりしていた時代なのですね。大好きです。一方50年代は何か若々しい印象です。戦後の平和な時代の青春が始まった、という雰囲気が音楽からも伝わってくるようです。古楽器演奏なんていってるからクラシック音楽の人気がなくなってしまったのでは、と思います。やっぱオーケストラはスペクタクルがないとつまらない。と、思ってます。
2012-11-04:チエ
- 名曲中の名曲とは分かっているのですが、「魂」の生々しい曲のため、なかなか軽い気持ちで頻繁には聴けません。さすがは天才の「白鳥の歌」です。それと同時に思うのですが、途中から他人の手が入っているとは考えられないほど全体での統一感があります。ベームの演奏は輪郭がはっきりとしていて、彼の残した多くの録音の中でも優れたものだと思います。管弦楽、独唱、合唱という大編成だと、どこかがしっくりいかない演奏の方が多いのですが、さすがにベームの意思が全員に伝わっていてすばらしい。中でも合唱部に問題がある演奏が多く、聴いていられない録音の方が多いのですが、ベームはいつも合唱のコントロールが実にうまいです。ベートーヴェンの第九交響曲でも同じ問題を抱える演奏が多い中、ベームは卓越した手腕を発揮しています。彼はドイツオペラ演奏の第一人者であることとも大いに関連があると思います。
2012-11-11:アマデウス
- このレクイエムの演奏大変好きです。小編成から大編成、最近は古楽風なピリオド奏法などさまざまで好みもあるでしょうが、ベームの、どっしりと建造物のように組み立てられた、安定感のある演奏がいいです。私はカラヤンとベームをヨーロッパの二大巨匠と思っています。演奏スタイルは異なりますが、この両者どちらもオーソドックスで安定した音楽を作ります。カラヤンのモーツァルトは流麗で、ベームは少しごつごつしているようですが、ここでは感情的にならず慎重で客観的な面をもったベームの特徴がよくでています。
2013-07-22:nakamoto
- ベーム好きの私としては、この時期のベームはこんなものです。素晴らしすぎます。言葉が出ません。吉田秀和が <シューマンやショパンと同じく歴史上の偉人として呼び捨てにさせていただいております>どこかで、ベームのRシュトラウスオペラを聴いている時、音楽から受ける最上のものを今受けていると感じた、と書いていましたが、まさしくオーストリア音楽総監督の地位が当然の状況です。吉田秀和がベーム好きを自認している事は、実は最近知り、私にとってそれはとても嬉しい事でした。人気の凋落もそれはそれで時代の流れで仕方ない事です、だからといってベームが歴史の闇に消え去るはずはありません。 ベームは音の造形をなにより重んじた人です。センチメンタリズムや興奮などレコードに入れる必要の無いものであったに違いありません。晩年の録音の評判の悪さは、日本における人気絶頂の時から実はあったもので、最近の傾向ではないと感じております。おいぼれ老人のおかしな録音ととるか、造形を重んじた素晴らしい録音ととるかは聴き手の音楽性にかかわっていると思います。ベームのすべてが素晴らしい。私はそれを確信しています。どんな人間であったかは別ですが。
2015-04-21:momochanpapa
- ベーム博士の演奏は、レクイエムだけでなく、今更ですが聴けば聞くほど入り込んでしまいます。 流行りスタリというのはおこがましく、そういう輩は現在の右向け右的な大衆化だと思います。(指揮もオケも標準化?)現在の演奏にはない、望めない、出来る人がいない、演奏だと思ってます。いいものは変わることなくいい。
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