チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
(P)ジュリアス・カッチェン ピエロ・ガンバ指揮 ロンドン交響楽団 1955年12月15日~16日録音
Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [1.Andante non troppo e molto maestoso- Allegro con spirito ]
Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [2.Andantino semplice?Allegro vivace assai ]
Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [3.Allegro con fuoco ]
ピアノ協奏曲の代名詞
ピアノ協奏曲の代名詞とも言える作品です。
おそらく、クラシック音楽などには全く興味のない人でもこの冒頭のメロディは知っているでしょう。普通の人が「ピアノ協奏曲」と聞いてイメージするのは、おそらくはこのチャイコフスキーかグリーグ、そしてベートーベンの皇帝あたりでしょうか。
それほどの有名曲でありながら、その生い立ちはよく知られているように不幸なものでした。
1874年、チャイコフスキーが自信を持って書き上げたこの作品をモスクワ音楽院初代校長であり、偉大なピアニストでもあったニコライ・ルービンシュタインに捧げようとしました。
ところがルービンシュタインは、「まったく無価値で、訂正不可能なほど拙劣な作品」と評価されてしまいます。深く尊敬していた先輩からの言葉だっただけに、この出来事はチャイコフスキーの心を深く傷つけました。
ヴァイオリン協奏曲と言い、このピアノ協奏曲と言い、実に不幸な作品です。
しかし、彼はこの作品をドイツの名指揮者ハンス・フォン・ビューローに捧げることを決心します。ビューローもこの曲を高く評価し、1875年10月にボストンで初演を行い大成功をおさめます。
この大成功の模様は電報ですぐさまチャイコフキーに伝えられ、それをきっかけとしてロシアでも急速に普及していきました。
第1楽章冒頭の長大な序奏部分が有名ですが、ロシア的叙情に溢れた第2楽章、激しい力感に溢れたロンド形式の第3楽章と聴き所満載の作品です。
カッチェンというピアニストのありのままの姿がさらけ出された演奏
さて、この音源をアップしたものかどうか少しばかり悩みました。
プラス面としては、カッチェンが29才、指揮者のガンバは何と19才という若者二人による満々たる覇気に満ちた演奏が聞けると言うことです。とりわけ、カッチェンのピアノは凄まじくて、己の興が趣くままに走り回っているという感じです。
冒頭はチャイコフスキーらしい重みのある和音で悠然と始まるのですが、その序奏部分が終わると一気に走り出していきます。そして、歌いたいところに来ると今度は我に返ったようにその場に足を留めます。
言ってみれば、そう言うことの繰り返しであり、19才のガンバはそんなカッチェンに振り回されながら何とかついて行っているという感じです。
と言うことは、結果としては、音楽としての大きなまとまりに欠けてしまっているというのがどうしようもないマイナスです。
そう言う、一本筋の通ったものがない音楽というのは、聞いているものにとってはどこへ連れて行かれるのか見通しが立たないので、いささか居心地が悪いのです。
そして、急にダッシュをはじめてしまうカッチェンのピアノにオケがついて行けてないなぁ(^^;・・・なんて気づかされる場面に出会うと、その居心地の悪さはさらに増します。
カッチェンというピアニストにとって、興がのると自制心を失って走り出してしまうのは「癖」みたいなものでした。
もっとも、その事はカッチェン自身がよく分かっていることで、常は強い自制心でそれをコントロールしているのですが、ライブの演奏会ではそう言う癖はよく顔を出したそうです。しかしながら、さすがにタジオ録音の場合には自制心が途切れることはなくて、結果としては非常に精緻な演奏を聴かせてくれるのが常でした。
それが、コンチェルトの場合ならば相手となる指揮者とオケがいるわけですし、さらに言えば、その相手となる指揮者の大半は彼よりも年齢も経験も上の場合が多いのですから、そう言う自制心がより強く働くことになります。
しかし、ピエロ・ガンバに関してはこの時僅か19才です。
カッチェンがどういう思いでこの指揮者を迎え入れたのかは分かりませんが、19才のガキを相手に気を使う必要もなかったのか、ここではそう言う自制心が完全に切れてしまっています。少なくとも、私にはその様に聞こえてしまいます。
その意味では、カッチェンというピアニストの悪い部分がさらけ出された演奏だとい言わざるを得ません。
しかし、その事は反面、良くも悪くもカッチェンというピアニストのありのままの姿がさらけ出された演奏だという面白味もあるのです。そこが、アップするかどうか悩んだポイントです。
そして、結果としては、ありのままの姿がさらけ出されている面白味を取ったという次第です。
ただし、勢いに駆られて猛スピードでコーナーに突っ込んでいっても一切破綻をきたさないテクニックは大したものです。
そして、破綻をきたさない自信があるからこそ突っ込んでいく自分を抑えきれなかったのかもしれません。
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