ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
(P)ゲイリー・グラフマン シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1960年3月14日録音
Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11 [1.Allegro maestoso]
Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11 [2.Larghetto]
Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11 [3.Rondo: Vivace]
告別のコンチェルト

よく知られているように、ショパンにとっての協奏曲の第1作は第2番の方で、この第1番の協奏曲が第2作目の協奏曲です。
1830年4月に創作に着手され、8月には完成をしています。初演は、同年の10月11日にワルシャワ国立歌劇場でショパン自身のピアノ演奏で行われました。この演奏会には当時のショパンが心からあこがれていたグワドコフスカも特別に出演をしています。
この作品の全編にわたって流れている「憧れへの追憶」のようなイメージは疑いもなく彼女への追憶がだぶっています。
ショパン自身は、この演奏会に憧れの彼女も出演したことで、大変な緊張感を感じたことを友人に語っています。しかし、演奏会そのものは大成功で、それに自信を得たショパンはよく11月の2日にウィーンに旅立ちます。
その後のショパンの人生はよく知られたように、この旅立ちが祖国ポーランドとの永遠の別れとなってしまいました。
そう意味で、この協奏曲は祖国ポーランドとの、そして憧れのグワドコフスカとの決別のコンチェルトとなったのです。
それから、この作品はピアノの独奏部分に対して、オーケストラパートがあまりにも貧弱であるとの指摘がされてきました。そのため、一時は多くの人がオーケストラパートに手を入れてきました。しかし最近はなんと言っても原典尊重ですから、素朴で質素なオリジナル版の方がピアノのパートがきれいに浮かび上がってくる、などの理由でそのような改変版はあまり使われなくなったようです。
それから、これまたどうでもいいことですが、私はこの作品を聞くと必ず思い出すイメージがあります。国境にかかる長い鉄橋を列車が通り過ぎていくイメージです。ここに、あの有名な第1楽章のピアノソロが被さってきます。
なぜかいつも浮かび上がってくる心象風景です。
こうやって若き才能は研かれ、育っていく
以下述べることはリストを愛する人にとっては「それは偏見だ!」と言われそうなのですが、それでもそれが私の率直な感想なので正直に書き付けておきます。
グラフマンのリスト演奏として、既に「パガニーニによる大練習曲 (1851年版)」と「The Virtuoso Liszt」という小品集をアップしてあります。そして、そこで「ショパンのような音楽だといささか違和感を感じる若き日のグラフマン直進性と鳴らしっぷりも、リストではそれほど気にはなりません。」と簡単に感想を書き付けておきました。
ただし、この感想はかなり昔に聞いたときの記憶をもとにしたものだったので、あらためて彼のショパンをじっくりと聞き直してみました。そして、聞き直してみて昔の記憶がはっきりと蘇ってきました。
そうです、ここで聞くことのできる若き日のグラフマンのショパンこそは、昨今あちこちで嫌になるほど聞かされた、ひたすら指だけ回る馬鹿ウマ若手のショパンの嚆矢でした。
ショパンという音楽は、このようなひたすらな直進性だけではどうにもならない部分があります。ショパンにあってリストに欠けていたもの、それは、おそらく音楽が持つ繊細さであり、その繊細さが醸し出す味わいでした。
そう言えばショパンはリストを恩人として尊敬しながらも、この天才はリストの音楽に関しては「味わいに欠ける」と切って捨てています。そして、リストが偉いのは、そう言う傲慢で青白い若者の言葉であっても、それが一定の真実を含んでいると思えば受け入れるべきところは受け入れて己の作風を変えていったことです。
それでもなお、リストの音楽は名人芸による直進性だけで勝負できる側面を色濃く持っています。
しかし、ショパンの音楽はそう言う指が回るだけの才能だけではどうしようもありません。
その辺りのことをメニューヒンは実に上手いこと表現して見せました。
「ショパンを一つの画期としてピアノは文学的な楽器になった。」
そう思ってグラフマンの手になるバラードなどを聴くとき、そこには欠落しているものの大きさに誰もが気がつくはずです。(気にならない人もいるかな・・・^^;)
ところが面白いなと思うのが、独奏曲ではその様な不満を強く感じたのに対して、それがコンチェルトになるとその様な不満は随分と緩和されるのです。
何故だろう、と考えてすぐに気がつくのは、サポートする指揮者の「偉さ」です。
「シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1960年3月14日録音」
なるほど、こうやって若き才能は研かれ、育っていくのでしょう。
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