クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ワーグナー:ジークフリート牧歌

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団 1960年3月録音



Wagner:Siegfried-Idyll, WWV 103


階段の音楽

この作品の誕生に関わるエピソードはあまりにも有名です。

ジークフリート牧歌は、1870年、晴れて自分の妻となったコジマへの誕生日プレゼントとして創作されました。しかし、コジマの誕生日までそのプロジェクトは極秘であり、練習も家族に知られないように行われたと言います。
そして、誕生日当日の朝、コジマは美しい音楽で目をさますことになります。階段に陣取った17名の演奏家とワーグナーによる彼女へのプレゼントが同時に世界初演となったわけです。
そして、音楽が終わると、ワーグナーはうやうやしく総譜をコジマに手渡したと言います。

なかなかやるもんです。
そして、コジマと子供たちはこの作品を「階段の音楽」と呼んで何度も何度もアンコールしたと言うエピソードも伝わっています。

こういうお話を聞くとワーグナーってなんていい人なんだろうと思ってしまいます。しかし、事実はまったく正反対で、音楽史上彼ほど嫌な人間はそういるものではありません。(-_-;)おいおい

ただ、コジマとの結婚をはたし、彼女とルツェルンの郊外で過ごした数年間は彼にとっては人生における最も幸福な時間でした。そして、その幸福な時代の最も幸福なエピソードにつつまれた作品がこのジークフリート牧歌です。
それ故にでしょうか、この作品はワーグナーの作品の中では最も幸福な色彩に彩られた作品となっています
こういうのを聴くと、つくづくと人格と芸術は別物だと思わせられます。

ワーグナーへの強い共感


サヴァリッシュ先生の演奏を凄いとは思うけれど、メンデルスゾーンのようなロマン派の作品だとあと一つ何か足りないモノを感じると書きました。そして、その理由として、作曲する側の「俺が俺が」と前に出てくる強烈な自己主張に呼応する演奏する側の「自己意識」みたいなモノが希薄ではないか、と書きました。
しかし、この一連のワーグナーの管弦楽曲集を聞くと、事はそれほど単純ではないことに気づかされます。

演奏のテイストは大きくは変わっていません。
オーケストラを完璧にコントロールして、精緻に、そして一点の曖昧さもなく音楽を形作っていきます。

しかし、不思議なことに、このワーグナーではメンデルスゾーンの時に感じたような「何か足りない」みたいな感覚は希薄です。
もちろん、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュみたいな演奏と比較すれば物足りなく思うかもしれませんが、そもそも、サヴァリッシュの音楽はそういう音楽とはアプローチの仕方が全く異なります。
セルやライナーなども基本的に同じだと思うのですが、彼らは「音」そのもの精緻に積み重ねていくことで、その結果として自ずからワーグナーの世界を描き出そうとしています。
サヴァリッシュもまた同じです。

そして、きっとメンデルスゾーンの時は音そのものを積み重ねた造形美には感心させられるモノの、結果として、そこからはメンデルスゾーンの自意識みたいなモノは感じ取れなかったわけです。しかし、このワーグナーからは、明らかにサヴァリッシュの自意識がワーグナーの自意識に呼応している事を感じます。

最弱音から始まるリエンチ序曲は、精緻に積み重ねられた音がフィナーレに向かって拡大していく様は、まさにワーグナーの自己意識に呼応するサヴァリッシュの姿が浮かび上がります。
ジークフリート牧歌では、精緻さと透明さを保持しながら、明らかにワーグナーに呼応する音楽のうねりが感じ取れます。

そうやって、思い至るのは、サヴァリッシュは素晴らしいオペラの指揮者だったという事実です。
私たちにとってサヴァリッシュと言えば、いつもN響を指揮しているおじさん、コンサート指揮者というイメージが強いのですが、若き時代のサヴァリッシュはカラヤンやビングからウィーンやメトへ誘われるほどのオペラ指揮者だったのです。特に、ワーグナーのオペラは彼にとってはもっとも親しいモノであったのですから、そこには強い共感もあったのでしょう。

ですから、ロマン派の作品になると「何か足りない」と感じてしまうと言う言い方は、あまりにも短絡的な物言いだったと反省する次第です。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2026-09-04]

シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 Op.70(Schumann:Adagio and Allegro, Op.70)
(Hr)デニス・ブレイン:(P)ジェラルド・ムーア 1952年録音(Dennis Brain:(P)Gerald Moore Recorded on 1952)

[2026-09-02]

C.P.E. バッハ:フルート・ソナタ ト短調, H.542.5(C.P.E.Bach:Flute Sonata in G minor, H.542.5)
(Fl)オーレル・ニコレ (Harpsichord)カール・リヒター 1963年6月12日~15日録音(Aurele Nicolet(Harpsichord)Karl Richter Recorded on June 12-15,1963)

[2026-08-30]

アルビノーニ:オーボエ協奏曲 ニ長調, OP.7 No.6(Albinoni:Oboe Concerto in D major, Op.7 No.6)
レナート・ファッサーノ指揮:(Ob)レナート・ザンフィーニ ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:(Ob)Renato Zanfini Virtuosi Di Roma Published in 1958)

[2026-08-28]

J.S.バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066(J.S.Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066)
クルト・レーデル指揮:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)

[2026-08-26]

ヒンデミット:葬送音楽(Hindemith:Funeral Music)
ルドルフ・バルシャイ指揮モスクワ室内管弦楽団 1958年録音(Rudolf Barshai:Moscow Chamber Orchestra Recorded on 1958)

[2026-08-23]

J.S.バッハ:リュート組曲 第3番 ト短調, BWV 995(Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:1949年11月22日録音(Walter Gerwig:Recorded on November 22, 1949)

[2026-08-20]

ヘンリー・パーセル:ヴィオールのための幻想曲集(Henry Purcell:Fantasies For Viols)
スコラ・カントゥルム・バジリエンシス・ヴィオール属合奏団:1954年4月29日~5月3日録音(Gambenconsortder Schola Cantorum Basiliensis:Recorded on April 29-May 3,1954)

[2026-08-18]

ホルスト:セント・ポール組曲(Gustav Holst:St. Paul's Suite, Op.29 No.2)
マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1965年1月4日~5日録音(Sir Malcolm Sargent:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on January 4-5, 1965)

[2026-08-16]

モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K.550(Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550)
エーリッヒ・クライバー指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1949年4月録音(Erich Kleiber:London Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1949)

[2026-08-14]

ベートーベン:グレトリーの歌劇「焼き尽くすわが心」の主題による8つの変奏曲 WoO 72(Beethoven:8 Variations on the Romance Un fievre brulante from Gretry's Richard Coeur-de-lion, WoO 72)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)

?>