クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

スメタナ:「我が祖国」

クーベリック指揮 シカゴ交響楽団 1952年11月録音



Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [1.Vysehrad (The High Castle)]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [2.Vltava (Die Moldau)]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [3.Sarka]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [4.From Bohemian Woods and Fields ]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [5.Tabor]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [6.Blanik]


「我が祖国」=「モルダウ」+「その他大勢」・・・?

スメタナの全作品の中では飛び抜けたポピュラリティを持っているだけでなく、クラシック音楽全体の中でも指折りの有名曲だといえます。ただし、その知名度は言うまでもなく第2曲の「モルダウ」に負うところが大きくて、それ以外の作品となると「聞いたことがない」という方も多いのではないでしょうか。
言ってみれば、「我が祖国」=「モルダウ」+「その他大勢」と言う数式が成り立ってしまうのがちょっと悲しい現実と言わざるをえません。でも、全曲を一度じっくりと耳を傾けてもらえれば、モルダウ以外の作品も「その他大勢」と片づけてしまうわけにはいかないことを誰しもが納得していただけると思います。

組曲「我が祖国」は以下の6曲から成り立っています。しかし、「組曲」と言っても、全曲は冒頭にハープで演奏される「高い城」のテーマが何度も繰り返されて、それが緩やかに全体を統一しています。
ですから、この冒頭のテーマをしっかりと耳に刻み込んでおいて、それがどのようにして再現されるのかに耳を傾けてみるのも面白いかもしれません。

第1曲「高い城」
「高い城」とは普通名詞ではなくて「固有名詞」です。(^^;これはチェコの人なら誰しもが知っている「年代記」に登場する「王妃リブシェの予言」というものに登場し、言ってみればチェコの「聖地」とも言うべき場所になっています。ですから、このテーマが全曲を統一する核となっているのも当然と言えば当然だと言えます。
第2曲「モルダウ」
クラシック音楽なんぞに全く興味がない人でもそのメロディは知っていると言うほどの超有名曲です。水源地の小さな水の滴りが大きな流れとなり、やがてその流れは聖地「高い城」の下を流れ去っていくという、極めて分かりやすい構成とその美しいメロディが人気の原因でしょう。
第3曲「シャールカ」
これまたチェコの年代記にある女傑シャールカの物語をテーマにしています。シャールカが盗賊の一味を罠にかけてとらえるまでの顛末をドラマティックに描いているそうです。
第4曲「ボヘミアの森と草原より」
ユング君はこの曲が大好きです。スメタナ自身も当初はこの曲で「我が祖国」の締めにしようと考えていたそうですが、それは十分に納得の出来る話です。牧歌的なメロディを様々にアレンジしながら美しいボヘミアの森と草原を表現したこの作品は、聞きようによっては編み目の粗い情緒だけの音楽のように聞こえなくもありませんが、その美しさには抗しがたい魅力があります。
第5曲「ターボル」
これは歴史上有名な「フス戦争」をテーマにしたもので、「汝ら神の戦士たち」というコラールが素材として用いられています。このコラールはフス派の戦士たちがテーマソングとしたもので、今のチェコ人にとっても涙を禁じ得ない音楽だそうです。(これはあくまでも人からの受け売り。チェコに行ったこともないしチェコ人の友人もいないので真偽のほどは確かめたことはありません。)スメタナはこのコラールを部分的に素材として使いながら、最後にそれらを統合して壮大なクライマックスを作りあげています。
第6曲「ブラニーク」
ブラニークとは、チェコ中央に聳える聖なる山の名前で、この山には「聖ヴァーツラフとその騎士たちが眠り、そして祖国の危機に際して再び立ち上がる」という伝承があるそうです。全体を締めくくるこの作品では前曲のコラールと高い城のテーマが効果的に使われて全体との統一感を保持しています。そして最後に「高い城」のテーマがかえってきて壮大なフィナーレを形作っていくのですが、それがあまりにも「見え見えでクサイ」と思っても、実際に耳にすると感動を禁じ得ないのは、スメタナの職人技のなせる事だと言わざるをえません。

オケを力の限り!!と言う感じで鳴らしまくっています。


51年、52年とシカゴ交響楽団との録音が続いているので「何故に?」等と思ってしまったのですが、調べてみればライナーの前の音楽監督がクーベリックだったのですね。(^^;
迂闊な話でした。
そう思えば、51年の展覧会の絵も、この我が祖国も、何故に、これほども入れ込んでいるのかが納得できます。
1948年にチェコからイギリスへと亡命し、そしてフルトヴェングラーの推薦で就任したのがシカゴ交響楽団の音楽監督だったわけです。その意気込みと責任感の強さはこの二つの録音から痛いほどに伝わってきます。そして、こういう演奏を聴かされると、クーベリックという人は本当に真面目な人だったんだなと再確認させられます。

しかし、そう言う「真面目な尽力」は「理不尽な侮辱」によって報いられることになります。「フルトヴェングラーによる推薦で音楽監督に就任した」という政治的な理由のみで理不尽な攻撃を続ける音楽評論家がシカゴには存在したからです。
この評論家はバルトークの「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」のことを「potboiler(金もうけのための粗末な本)」、ヤナーチェクの「タラス・ブーリバ」を「trash(ごみ)」と評したのですから、その能力には大いに疑問符がつくような女性でした。さらには、その音楽批評は音楽とは全く関係ないことをあげつらって大衆受けをねらうという代物だったのですから、ある意味ではアメリカという国の負の側面を体現するような人物だったようです。
当然のことながら、このような手合いをクーベリックのような真面目な人間が我慢できるはずもなく、結果はその女史一味が望んだようにわずか3年でシカゴ響の音楽監督辞任してしまいます。

シカゴ交響楽団の黄金時代はライナーの時代といわれるのですが、そしてライナーには何責任もないことなのですが、もしもクーベリックがシカゴでの活躍を続けていれば随分と面白い録音をたくさん残してくれただろうなと思ってしまいます。

この「我が祖国」は前年の「展覧会の絵」と比べれば、少しは落ち着いてきています。あの、音楽の終わりを端折るようにして、それこそ急き込むように前へ前へとつんのめっていくような雰囲気はありません。しかし、テンポはいささか落ち着いたとしても、オケの方は力の限り!!と言う感じで鳴らしまくっています。
いやはや、その迫力たるや凄まじいもので、さらに言えば、そのド迫力をマーキュリーの録音は見事なまでにすくい取ってくれています。
この録音は当然のことながらモノラル録音なのですが、その分離の良さと個々の楽器の響きのリアルさのおかげで、いわゆるモノラル録音という言葉から想像される窮屈さは微塵も感じさせません。
おかげで、この前代未聞の、そうまるでチャイコフスキーの「序曲 1812年」のような「我が祖国」が堪能できます。

ところが、この録音を聞いて「ていねいな語り口で、各曲を無理なくまとめている。スケールは中型」と紹介した評論家先生が日本にもいたようです。
いやはや、どうにもこうにも、若き日のクーベリックという人は評論家先生との相性が悪かったようです。

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