モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K. 183
セルジュ・チェリビダッケ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1948年4月9日録音
Mozart:Symphony No.25 in G minor, K.183 [1.Allegro con brio
Mozart:Symphony No.25 in G minor, K.183 [2.Andante]
Mozart:Symphony No.25 in G minor, K.183 [3.Menuetto & Trio]
Mozart:Symphony No.25 in G minor, K.183 4..Allegro]
ザルツブルグにおける宮仕え時代の作品・・・ザルツブルグ交響曲
ミラノでのオペラの大成功を受けて意気揚々と引き上げてきたモーツァルトに思いもよらぬ事態が起こります。
それは、宮廷の仕事をほったらかしにしてヨーロッパ中を演奏旅行するモーツァルト父子に好意的だった大司教のシュラッテンバッハが亡くなったのです。そして、それに変わってこの地の領主におさまったのがコロレードでした。
コロレードは音楽には全く関心のない男であり、この変化は後のモーツァルトの人生を大きな影響を与えることになることは誰もがご存知のことでしょう。
それでも、コロレードは最初の頃はモーツァルト一家のその様な派手な振る舞いには露骨な干渉を加えなかったようで、72年10月には3回目のイタリア旅行、さらには翌年の7月から9月にはウィーン旅行に旅立っています。
そして、この第2回と第3回のイタリア旅行のはざまで現在知られている範囲では8曲に上る交響曲を書き、さらに、イタリア旅行とウィーン旅行の間に4曲、さらにはウィーンから帰って5曲が書かれています。これら計17曲をザルツブルグ交響曲という呼び方でひとまとめにすることにそれほどの異論はないと思われます。
<ザルツブルク(1772年)>
交響曲第14番 イ長調 K.114
交響曲第15番 ト長調 K.124
交響曲第16番 ハ長調 K.128
交響曲第18番 ヘ長調 K.130
交響曲第17番 ト長調 K.129
交響曲第19番 変ホ長調 K.132
交響曲第20番 ニ長調 K.133
交響曲第21番 イ長調 K.134
K128?~K130は5月にまとめて書かれ、さらにはKK132とK133Kは7月に書かれ、その翌月には134が書かれています。
これらの6曲が短期間に集中して書かれたのは、新しい領主となったコロレードへのアピールであったとか、セット物として出版することを目的としたのではないかなど、様々な説が出されています。他にも、すでに予定済みであった3期目のイタリア旅行にそなえて、新しい交響曲を求められたときにすぐに提出できるようにとの準備のためだったという説も有力です。
ただし、本当のところは誰も分かりません。
この一連の交響曲は基本的にはハイドンスタイルなのですが、所々に先祖返りのような保守的な作風が顔を出したと思えば(K129の第1楽章が典型)、時には「first great symphony」と呼ばれるK130の交響曲のようにフルート2本とホルン4本を用いて、今までにないような規模の大きな作品を仕上げるというような飛躍が見られたりしています。
アインシュタインはこの時期のモーツァルトを「年とともに増大するのは深化の徴候、楽器の役割がより大きな自由と個性に向かって変化していくという徴候、装飾的なものからカンタービレなものへの変化の徴候、いっそう洗練された模倣技術の徴候である」と述べています。
<ザルツブルク(1773年~1774年)>
交響曲第22番 ハ長調 K.162
交響曲第23番 ニ長調 K.181
交響曲第24番 変ロ長調 K.182
交響曲第25番 ト短調 K.183
交響曲第27番 ト長調 K.199
交響曲第26番 変ホ長調 K.184
交響曲第28番 ハ長調 K.200
交響曲第29番 イ長調 K.201
交響曲第30番 ニ長調 K.202
アインシュタインは「1773年に大転回がおこる」と述べています。
1773年に書かれた交響曲はナンバーで言えば23番から29番にいたる7曲です。
このうち、23・24・27番、さらには26番は明らかにオペラを意識した「序曲」であり、以前のイタリア風の雰囲気を色濃く残したものとなっています。
しかし、残りの3曲は、「それらは、---初期の段階において、狭い枠の中のものであるが---、1788年の最後の三大シンフォニーと同等の完成度を示す」とアインシュタインは言い切っています。
K200のハ長調シンフォニーに関しては「緩徐楽章は持続的であってすでにアダージョへの途上にあり、・・・メヌエットはもはや間奏曲や挿入物ではない」と評しています。
そして、K183とK201の2つの交響曲については「両シンフォニーの大小の奇跡は、近代になってやっと正しく評価されるようになった。」と述べています。
そして、「イタリア風シンフォニーから、なんと無限に遠く隔たってしまったことか!」と絶賛しています。
この絶賛に異議を唱える人は誰もいないでしょう。
時におこるモーツァルトの「飛躍」がシンフォニーの領域でもおこったのです。
そして、モーツァルトの「天才」とは、9才で交響曲を書いたという「早熟」の中ではなく、この「飛躍」の中にこそ存在するのです。
40年代のチェリビダッケの録音はもう少し追いかける価値はあるようです。
ブラームスのヴァイオリン協奏曲で、イダ・ヘンデルの伴奏を務めたチェリビダッケの指揮ぶりを聞いてみて、あらためてこの指揮者はただ者ではなかったと再確認させられました。いや、彼が偉大な指揮者であることは衆目の一致するところですから、より正確に言えば、彼は若い頃からすでに一頭地を抜くほどの力量を持った指揮者であった事を再確認したのです。
聞くところによると、彼は戦後になってベルリン・フィルを指揮するまではほとんど指揮経験がなかったそうです。学生オケくらいしか経験がなかったという話もあるようです。
そして、いかに戦後の混乱期であったとは言え、天下のベルリンフィルを指揮して自らの指揮経験を積み重ねていったというのです。さらに、その演奏は多くの聴衆からも絶大な支持を得たというのですから驚くしかありません。
ただし、その絶大な評価の背景には「過酷」ともいえるほどの「リハーサル」があったことも知られています。そして、その過酷な「リハーサル」は彼が亡くなるまで変わることはなかったのです。おそらく、当初はフルトヴェングラーの次は彼が首席指揮者だと感じていた団員たちも、その過酷な「リハーサル」によって次第に心が離れていったようです。
とは言え、そう言うことは聞き手にとってはどうでもいいことであって、そう言う入念な「リハーサル」の結果としてもたらされる音楽の素晴らしさに関しては否定のしようがありません。
この、ロンドンフィルと録音したモーツァルトの25番は、彼自身の言によればエンジニアが勝手にテンポ設定を弄ったと言うことで不満の言葉を残しているのですが、その悠然たるテンポは決して悪くはありません。そして、そう言う悠然としたテンポであっても音楽は決して重くはならないのです。
このト短調シンフォニーと言えば、私などは1956年にワルターがウィーンで指揮したライブ録音を思い出すのですが、あのライブはまさに疾風怒濤のごとき凄みを感じさせる演奏であり、それ故にオンリー・ワンの魅力を保持しています。それに対して、このチェリビダッケの演奏はワルターのやり方とは真逆の方向性で同じくオンリー・ワンの魅力を保持しています。
ロストロポーヴィッチのバッハ演奏の時にも感じたのですが、そのあたりが気楽な聞き手と、自らの芸術に身を削った人間との違いと言うことなのでしょう。
と言うことで、、この40年代のチェリビダッケの録音はもう少し追いかける価値はあるようです。
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