クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90

ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 1944年9月9日録音



Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [1.Allegro con brio]

Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [2.Andante]

Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [3.Poco allegretto]

Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [4.Allegro]


秋のシンフォニー

長らくブラームスの音楽が苦手だったのですが、その中でもこの第3番のシンフォニーはとりわけ苦手でした。
理由は簡単で、最終楽章になると眠ってしまうのです(^^;

今でこそ曲の最後がピアニシモで消えるように終わるというのは珍しくはないですが、ブラームスの時代にあってはかなり勇気のいることだったのではないでしょうか。某有名指揮者が日本の聴衆のことを「最初と最後だけドカーンとぶちかませばブラボーがとんでくる」と言い放っていましたが、確かに最後で華々しく盛り上がると聞き手にとってはそれなりの満足感が得られることは事実です。

そういうあざとい演奏効果をねらうことが不可能なだけに、演奏する側にとっても難しい作品だといえます。
第1楽章の勇壮な音楽ゆえにか、「ブラームスの英雄交響曲」と言われたりもするのに、また、第3楽章の「男の哀愁」が滲み出すような音楽も素敵なのに、「どうして最終楽章がこうなのよ?」と、いつも疑問に思っていました。

そんな時にふと気がついたのが、これは「秋のシンフォニー」だという思いです。(あー、また文学的解釈が始まったとあきれている人もいるでしょうが、まあおつきあいください)

この作品、実に明るく、そして華々しく開始されます。しかし、その明るさや華々しさが音楽が進むにつれてどんどん暗くなっていきます。明から暗へ、そして内へ内へと音楽は沈潜していきます。
そういう意味で、これは春でもなく夏でもなく、また枯れ果てた冬でもなく、盛りを過ぎて滅びへと向かっていく秋の音楽だと気づかされます。
そして、最終楽章で消えゆくように奏されるのは第一楽章の第1主題です。もちろん夏の盛りの華やかさではなく、静かに回想するように全曲を締めくくります。

哀切極まる第3楽章はそのままドイツという国と民族に対するレクイエムであるかのように響きます


クナッパーツブッシにとってブラームスの3番はもっとも得意としていた作品であり、多くの録音を残しています。ざっと思いつくだけでも以下の通りでしょうか、探せば他にもあるのかおしれません


  1. 1942年2月(ベルリン・フィル)

  2. 1944年9月9日(ベルリン・フィル)

  3. 1950年11月(ベルリン・フィル)

  4. 1955年7月26日(ウィーン・フィル)

  5. 1956年11月4日(ドレスデン国立歌劇場管)

  6. 1958年11月8-9日(ウィーン・フィル)

  7. 1962年5月14日(ケルン放送響)

  8. 1963年11月15日(シュトゥットガルト放送響)



この中でも、もっともデフォルメが凄いのが1950年の録音でしょうが、もっとも異常なのがこの44年の録音でしょう。
しかし、50年の録音は抱腹絶倒のデフォルメですが、44年録音はそう言う笑いを一切拒絶する異常なまでの緊張感と焦燥感に塗り込められています。

1944年1月12日にベルリン・フィルハーモニー・ザールが空襲で破壊されます。
ベルリン・フィルはその後もベルリン市内でコンサート活動を続けるのですが、ついに8月1日にバーデン・バーデンに避難します。
これはその避難先で行われた放送録音で、前日にはブルックナーの4番が録音されています。
そして、クナッパーツブッシュにとってはこれが第2次大戦中の最後の録音であり、おそらくは最後の演奏会だったと思われます。

何故ならば、クナッパーツブッシュはその後の演奏会をすべてキャンセルして姿をくらましてしまうからです。ドイツ第3帝国の黄昏は誰の目にも明らかであり、ナチスに対して批判的な態度を取り続けていたものにとっては、その身の安全すら危うくなっていたからです。
おそらくは、生まれ故郷のミュンヘンの近くに身を潜めていたと思われるのですが、クナッパーツブッシ自身もそのあたりのことは戦後になっても一切語らなかったようなので今もって真実な藪の中です。

ですから、この録音はフルトヴェングラーに置き換えてみれば、翌年1月28日のウィーンにおけるブラームスの2番の録音にあてはまります。
フルトヴェングラーはその演奏会が終わると、ベルリンあてに演奏会キャンセルの電文を打って、その翌朝にゲシュタポの目をかいくぐってスイスに亡命をします。

まるで断末魔の悲鳴のように音楽は始まるのは、クナッパーツブッシュゆえのデフォルメと言うよりは時代がもたらした表現でしょう。そして、哀切極まる第3楽章はそのままドイツという国と民族に対するレクイエムであるかのように響きます。
この戦時中における異常な音楽表現と言えば上でふれたフルトヴェングラーのブラームスが思い出されるのですが、こういうクナッパーツブッシュの録音を聞くと、それはフルトヴェングラーだけの専売特許ではなかったことが分かります。

なお、この録音では第1楽章の中間部に何かを叩きつけるような音が入っています。
その音の正体はよく分かっていないのですが、高射砲の音が混ざり込んだものではないかという説もあります。

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