ドヴォルザーク:交響曲第7番 二短調 作品70
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1960年2月22日~23日録音
Dvorak:Symphony No.7 in D minor, Op.70 (B.141) [1.Allegro maestoso]
Dvorak:Symphony No.7 in D minor, Op.70 (B.141) [2.Poco Adagio]
Dvorak:Symphony No.7 in D minor, Op.70 (B.141) [3.Scherzo: Vivace]
Dvorak:Symphony No.7 in D minor, Op.70 (B.141) [4.Finale: Allegro]
ブラームスの仮面をかぶったシンフォニー
1882年、ドヴォルザークはロンドン・フィルハーモニー協会から自作の指揮をするように招待を受けて、はじめてイギリスの地を踏みます。演奏会は空前の大成功をおさめ、ドヴォルザークは協会の名誉会員に選ばれるとともに、協会のために新しい交響曲を書くように依頼されます。
ちょうど同じ頃に、ブラームスの交響曲3番を聞いて深く感動して新たな交響曲の創作に意欲を見せていたドヴォルザークはその依頼を即座に受け入れます。1884年の2回目のイギリスへの演奏旅行も成功裏に終り、プラハに戻ったドヴォルザークはその年の暮れから創作に取りかかり、翌年の3月には完成させました。その新しい作品が、現在では「第7番」とナンバーリングされている交響曲です。(この交響曲は出版されたときは「第2番」とされていて、それで長らく通用していました。)
この作品は同年4月からの3回目のイギリス訪問で初演され過大にすぎるくらいの成功と評価を勝ち得ました。一般的、ドヴォルザークとイギリスは相性が良かったようで、イギリスの評論家は常にドヴォルザークの作品に対して高い評価を与えてきました。その中でも、この作品は特にお気に入りだったようで、シューベルトのハ長調交響曲やブラームスの最後の交響曲に匹敵する傑作とされ続けてきました。(さすがに、今はそんなことを言う人はいないでしょうが・・・)
この作品はドヴォルザークに特有なボヘミア的な憂愁よりは、どこかブラームスを思わせるような重厚さが作品を支配しています。内省的でどこか内へ内へと沈み込んでいくような雰囲気があります。
ドヴォルザーク自身も出版業者のジムロックにあてて「新しい交響曲に取り組んでもう長期になるが、それは何か本格的なものになりそうだ」と述べています。その「本格的なもの」とはブラームスの交響曲をさしていることは明らかです。
誤解を招くかもしれませんが、ドヴォルザークがブラームスの仮面をつけて書いたような音楽です。
掃いて捨てるほど存在する「美しさ」
シルヴェストリが録音したドヴォルザークの3つの交響曲の中では響きも美しくて、いらぬ角も取れたバランスの良い演奏に仕上がっています。ところが、そのバランスの良さゆえに、少なくない聞き手は3つの中でこの録音を一番つまらなく思うことでしょう。
このあたりが「芸術」が持つ難しさでしょうか。
つまりは、美しいと言うだけでは誰も満足しないのです。
田舎では「○○小町(表現が古すぎ・・・^^;)」と持て囃されても、都会に出てきて芸能界に入ってみれば「その他大勢」の一人でしかありません。「本当の美男・美女」などというものは、そんな掃いて捨てるほどいる「美男・美女」の中のほんの一握りです。
そして、そうやって選ばれた一握りの「美男・美女」であっても、ただ「美しい」と言うだけでは、次々に登場する「若くて美しい」連中によってあっという間に駆逐されていってしまうのです。
つまりは、このシルヴェストリ&ウィーンフィルによるドヴォルザークの交響曲は、ウィーンフィルの美質を存分に生かしたという点では申し分なく「美しい」演奏なのですが、そう言う「美しさ」ならば、この業界では「掃いて捨てる」ほど存在するのです。
ですから、我が儘な聞き手は、決して完璧に美しくはなくても、何処かに他にはない魅力がきらりと光る存在の方を喜ぶのです。
シルヴェストリの「新世界より」は聞き手の記憶に長く留まっても、このウィーンフィルとの美演は忘却されるしかないのです。
それが「芸」の世界というものの悲しいまでにシビアな現実なのでしょう。(まあ、異論はあるでしょうが・・・)
よせられたコメント
2016-02-26:末村 安津彦
- シルヴェストリのドヴォルザーク7番は、初めて聴きます。
ほとんど聴いたことがない指揮者なのですが、かえって新鮮に感じました。
素晴らしい指揮と演奏だと思います。
2016-02-26:emanon
- シルヴェストリというのは不思議な指揮者ですね。交響曲第8番ではあれだけ尖鋭さをみせていたのが、この曲ではそういったものは影をひそめて、ごく当たり前な表現に終始しています。想像ですが、シルヴェストリが、天下のウィーン・フィルを前にして萎縮してしまって、思い切った表現を打ち出せなかったのかもしれません。何といっても、ウィーン・フィルは指揮者泣かせのオーケストラですから。
というわけで、この演奏は、指揮者よりもウィーン・フィルを聴くべき演奏といえるでしょう。そう思って聴けば、それなりに美しい演奏だと思います。
また、非情なようですが、シルヴェストリが指揮者としてメジャーになれなかった現実を突きつけられているように感じます(改めて、彼の早世が惜しまれます)。
点数は6点です。厳しい評価になってしまいました。
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