クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調, Op.104

(Cello)パブロ・カザルス:ジョージ・セル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1937年4月28日録音





Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [1.Adagio]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [3.Finale. Allegro moderato]


チェロ協奏曲の最高傑作であることは間違いありません。

この作品は今さら言うまでもなく、ドヴォルザークのアメリカ滞在時の作品であり、それはネイティブ・アメリカンズの音楽や黒人霊歌などに特徴的な5音音階の旋律法などによくあらわれています。しかし、それがただの異国趣味にとどまっていないのは、それらのアメリカ的な要素がドヴォルザークの故郷であるボヘミヤの音楽と見事に融合しているからです。
その事に関しては、芥川也寸志が「史上類をみない混血美人」という言葉を贈っているのですが、まさに言い得て妙です。

そして、もう一つ指摘しておく必要があるのは、そう言うアメリカ的要素やボヘミヤ的要素はあくまでも「要素」であり、それらの民謡の旋律をそのまま使うというようなことは決してしていない事です。
この作品の主題がネイティブ・アメリカンズや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説が早い時期から囁かれていたのですが、その事はドヴォルザーク自身が友人のオスカール・ネダブルに宛てた手紙の中で明確に否定しています。そしてし、そう言う民謡の旋律をそのまま拝借しなくても、この作品にはアメリカ民謡が持つ哀愁とボヘミヤ民謡が持つスラブ的な情熱が息づいているのです。

それから、もう一つ指摘しておかなければいけないのは、それまでは頑なに2管編成を守ってきたドヴォルザークが、この作品においては控えめながらもチューバなどの低音を補強する金管楽器を追加していることです。
その事によって、この協奏曲には今までにない柔らかくて充実したハーモニーを生み出すことに成功しているのです。


  1. 第1楽章[1.Adagio]:
    ヴァイオリン協奏曲ではかなり自由なスタイルをとっていたのですが、ここでは厳格なソナタ形式を採用しています。
    序奏はなく、冒頭からクラリネットがつぶやくように第1主題を奏します。やがて、ホルンが美しい第2主題を呈示し力を強めた音楽が次第にディミヌエンドすると、独奏チェロが朗々と登場してきます。
    その後、このチェロが第1主題をカデンツァ風に展開したり、第2主題を奏したり、さらにはアルペッジョになったりと多彩な姿で音楽を発展させていきます。
    さらに展開部にはいると、今度は2倍に伸ばされた第1主題を全く異なった表情で歌い、それをカデンツァ風に展開していきます。
    再現部では第2主題が再現されるのですが、独奏チェロもそれをすぐに引き継ぎます。やがて第1主題が総奏で力強くあらわれると独奏チェロはそれを発展させた、短いコーダで音楽は閉じられます。

  2. 第2楽章[2.Adagio ma non troppo]:
    メロディーメーカーとしてのドヴォルザークの資質と歌う楽器としてのチェロの特質が見事に結びついた美しい緩徐楽章です。オーボエとファゴットが牧歌的な旋律(第1主題)を歌い出すと、それをクラリネット、そして独奏チェロが引き継いでいきます。
    中間部では一転してティンパニーを伴う激しい楽想になるのですが、独奏チェロはすぐにほの暗い第2主題を歌い出します。この主題はドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして op.82-1 (B.157-1)」によるものです。
    やがて3本のホルンが第1主題を再現すると第3部に入り、独奏チェロがカデンツァ風に主題を変奏して、短いコーダは消えるように静かに終わります。

  3. 第3楽章[3.Finale. Allegro moderato]:
    自由なロンド形式で書かれていて、黒人霊歌の旋律とボヘミヤの民族舞曲のリズムが巧みに用いられています。
    低弦楽器の保持音の上でホルンから始まって様々な楽器によってロンド主題が受け継がれていくのですが、それを独奏チェロが完全な形で力強く奏することで登場します。
    やがて、ややテンポを遅めたまどろむような主題や、モデラートによる民謡風の主題などがロンド形式に従って登場します。
    そして、最後に第1主題が心暖まる回想という風情で思い出されるのですが、そこからティンパニーのトレモロによって急激に速度と音量を増して全曲が閉じられます。




若き日のセルとカザルスとの共演


若き日のセルといえば、この録音を見逃すことはできません。あまりにも有名な作品なのでここでわざわざ紹介する必要もないと思ったのですが、それはセルに入れ込んでいる人間の判断であって、一般の人にとってはこんなに古い録音のCDはあまり買ってみようという気はあまりおこらないでしょうから、それはそれで十分意味があるのではないかと思いアップすることにしました。

それに60年以上も前の録音ですが、十二分に鑑賞に堪える音質です。

録音は1937年4月、場所はプラハです。
こういうヒストリカルな録音はその音質ゆえに私は基本的に避けていたのですが、著作権の関係からサイトでアップするには50年以上前のものでないと駄目なので、最近仕方なしに聞くようになりました。(オイオイ!)

このセルとカザルスの録音も有名な録音なのですが、正直言ってあまりまじめに聞いたことはありませんでした。f(^^;;
でも今回このページを書くにあたってあらためて聞きなしてみてその素晴らしさに驚嘆しました。

音の方も今お聞きいただいているようにそんなに悪くはありません。もちろんダイナミックレンジがせまくて、オケの全強奏時には詰まってしまっているのは気にはなりますが、それ以外はとても60年以上も前の録音とは思えません。
カザルスのチェロも実にクリアな音でおさめられています。

そして何よりもそこから流れてくる「音楽」の素晴らしさ!
この曲はチェロだけがどんなに頑張っても駄目です。オケがシンフォニーを演奏するぐらいの気構えでしっかり自己主張しないとこの作品の良さはスポイルされてしまいます。とりあえず合わせておく、なんてスタンスは言語道断の作品です。
ここでは若きセルがカザルスのチェロに負けないほどしっかりとオケを鳴らしきり、歌いきっています。

そしてカザルスも実に素晴らしいチェロを聞かせてくれています。
確かにテクニックという点では、今のハイテク時代の優秀なチェリストと比べればたどたどしいという感じさえします。しかしそこから紡ぎ出される音楽の野太さみたいなものは、今の時代が失ってしまったものです。

セルは後年、ベルリンフィルとフルニエのコンビでもう一度この作品を録音しています。海賊盤ではロストロポーヴィッチをソリストにむかえて手兵のクリーブランドと入れた録音もあります。
どれがベストかと言われれば迷うところですが、叙情性という点ではフルニエ盤、音楽の構えの大きさではカザルス盤と言うことでしょうか。

ただ唯一残念なのは、クリーブランドとの間で正規盤を残してくれなかったことですが、新世紀早々無い物ねだりをしても仕方がありません。海賊盤で我慢するとしましょうか。

よせられたコメント

2010-02-23:カンソウ人


2013-06-03:Hide


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