クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55

クリュイタンス指揮 ベルリンフィル 1958年12月録音





Beethoven:交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第4楽章」


音楽史における最大の奇跡

今日のコンサートプログラムにおいて「交響曲」というジャンルはそのもっとも重要なポジションを占めています。しかし、この音楽形式が誕生のはじめからそのような地位を占めていたわけではありません。
 浅学にして、その歴史を詳細につづる力はありませんが、ハイドンがその様式を確立し、モーツァルトがそれを受け継ぎ、ベートーベンが完成させたといって大きな間違いはないでしょう。

 特に重要なのが、この「エロイカ」と呼ばれるベートーベンの第3交響曲です。
 ハイリゲンシュタットの遺書とセットになって語られることが多い作品です。人生における危機的状況をくぐり抜けた一人の男が、そこで味わった人生の重みをすべて投げ込んだ音楽となっています。

 ハイドンからモーツァルト、そしてベートーベンの1,2番の交響曲を概観してみると、そこには着実な連続性をみることができます。たとえば、ベートーベンの第1交響曲を聞けば、それは疑いもなくモーツァルトのジュピターの後継者であることを誰もが納得できます。
 そして第2交響曲は1番をさらに発展させた立派な交響曲であることに異論はないでしょう。

 ところが、このエロイカが第2交響曲を継承させ発展させたものかと問われれば躊躇せざるを得ません。それほどまでに、この二つの間には大きな溝が横たわっています。

 エロイカにおいては、形式や様式というものは二次的な意味しか与えられていません。優先されているのは、そこで表現されるべき「人間的真実」であり、その目的のためにはいかなる表現方法も辞さないという確固たる姿勢が貫かれています。
 たとえば、第2楽章の中間部で鳴り響くトランペットの音は、当時の聴衆には何かの間違いとしか思えなかったようです。第1、第2というすばらしい「傑作」を書き上げたベートーベンが、どうして急にこんな「へんてこりんな音楽」を書いたのかと訝ったという話も伝わっています。

 それほどまでに、この作品は時代の常識を突き抜けていました。
 しかし、この飛躍によってこそ、交響曲がクラシック音楽における最も重要な音楽形式の一つとなりました。いや、それどことろか、クラシック音楽という芸術そのものを新しい時代へと飛躍させました。
 事物というものは着実な積み重ねと前進だけで壁を突破するのではなく、時にこのような劇的な飛躍によって新しい局面が切り開かれるものだという事を改めて確認させてくれます。

 その事を思えば、エロイカこそが交響曲というジャンルにおける最高の作品であり、それどころか、クラシック音楽という芸術分野における最高の作品であることをユング君は確信しています。それも、「One of the Best」ではなく、「The Best」であると確信しているユング君です。

この上もなく明るく明晰なエロイカ


実に明るく、古典的で均整の取れたエロイカです。どこを探してもお化けは出てこない健康的なベートーベンだとも言えます。
曲の作りが運命や7番とは違うので、それほど頑固なインテンポに違和感を感じることもないでしょう。
そう言う意味では、基本はセルのエロイカとベクトルは同じだと思うのですが、オケの響きにヨーロッパの田舎オケだった名残があるので、筋肉の上にちょうどいい程度に脂肪をまとっています。

でも、なぜかこの演奏はあまり評判がよくありませんでした。
クリュイタンスのベートーベンは、偶数番ならばそこそこ聴けるけれども、奇数番はダメ、と言うのが通り相場でした。それ故にか、このコンビによる演奏で世評が高かったのは「田園」でした。
フランス系の指揮者にはエロイカや運命がまともに振れるはずがないという「先入観」もしくは「偏見」があったのでしょうか。さらに言えば、「エロイカ」や「運命」はフルトヴェングラーのように振らなければダメ!という「思いこみ」があったのでしょうか。

確かに、これはフルトヴェングラーのベートーベンとは対極にあるアポロンな演奏です。どこを探したって、聞くものを地獄の底に引きずり込みそうなデモーニッシュな凄味はありません。
そう言えば、クリュイタンスのベートーベンを「ただ音を並べているだけ」と酷評していた評論家がいましたが、ベートーベンはデモーニッシュに表現すべきと固く信じているならば、それはそれで信仰に殉じればいいと思いますし、潔い態度だと思います。
しかし、「あれも良いけれど、これも良いね、フッフッフ・・・」などと言ういい加減な聞き手にとっては、片方でフルトヴェングラーを愛でながら、帰りがてらにクリュイタンスとも遊ぶことが出来るのです。

それから、毎度同じ事を申し上げて恐縮なのですが、この録音は世間で言われるほどに劣悪なのでしょうか?音楽的に重要な部分は結構うまくすくい取っていて、悪くないと言うよりは田舎オケの風情を残したベルリンフィルの魅力を感じ取れるレベルに達しているように思います。

よせられたコメント

2010-04-25:石井 靖之


2010-04-25:セル好き


2010-04-27:いつものクリュイタンス好き


2013-03-03:クラシック音楽好き


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