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ワルター(Bruno Walter)|モーツァルト:交響曲第29番 K201
モーツァルト:交響曲第29番 K201
ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1954年12月29・30日録音
Mozart;交響曲第29番 K201 「第1楽章」
Mozart;交響曲第29番 K201 「第2楽章」
Mozart;交響曲第29番 K201 「第3楽章」
Mozart;交響曲第29番 K201 「第4楽章」
透明感が支配する世界
モーツァルトはこの29番と25番という対になるシンフォニーを生み出すことで、いわゆる「イオタリア風シンフォニー」からははるか隔たった地点にまでこの音楽形式を連れ去りました。
この29番のシンフォニーは弦楽器とホルン・オーボエという簡素な編成ですが、演奏時間が25分前後を要しますから、当時としてはかなりの「大作」に分類される作品でした。しかし、大作と言っても祝祭的な盛り上がりとは縁遠い作品です。管楽器は慎ましく、そして弦楽器は深い精神性を歌い上げ、それはどこまでも透明感が支配する世界であり、どこかこの世のものとは思えない美しさをもっています。
その意味で、激しいドラマが作品全体を支配しているト短調の25番とも対照的です。
第1楽章は弦楽四重奏曲のような緻密な構造が作品を支配しています。また、畳みかけるようなクライマックスを作り上げるコーダも印象的です。第2楽章もどこか室内楽的であり、続くメヌエット楽章も気品にあふれた音楽です。そして、この作品で一番素晴らしいのは最終楽章です。
一般的にモーツァルトのシンフォニーは最終楽章が「弱い」事が多いだけにこれは珍しいことです。冒頭の1オクターブ下がってから一気にかけあげる第1主題が様々に展開され、最後に見事なクライマックスを築き上げていく様は見事と言うしかありません。
ワルターのベストはニューヨークフィルとのモノラル録音にあり!!
ワルターといえば一昔前はモーツァルト演奏のスタンダードでした。彼が没したあとにはその地位にベームが「就任」したわけなのですが、そのモーツァルト演奏の素地も、ワルターのもとで修行したミュンヘン歌劇場時代に培ったものでした。
それから時は流れ、古楽器による演奏が一世を風靡する中で、モダン楽器による大編成のオケでモーツァルトを演奏するなんてことは時代錯誤も甚だしいと思われるようになってしまいました。
たしかに、ベームによる交響曲全集を聴くと「鈍重」という言葉を否定しきれませんし、ワルター最晩年のコロンビア響との演奏においても事情は同じです。古楽器演奏は必ずしも好きではないユング君ですが、それでもその洗礼を受けてしまった耳には、彼らの演奏はあまりにも反応が鈍いと思わざるをえません。
問題は低声部の強調にあるのだろうと思います。
とりわけワルターは低声部をしっかりと響かせます。その結果として、土台のしっかりとした厚みのある壮麗な響きを実現しています。
しかし、低声部を担当する楽器というのは小回りはききません。そう言う小回りのきかない鈍重な楽器を強調すれば、それはオケ全体の機能性にとっては大きなマイナスとならざるを得ません。これが、セルとクリーブランドのような「鬼の集団」ならばクリアするのでしょうが、その様なやり方はワルターが好むところではありません。
しかし、ワルターが現役として活躍した50年代前半のモノラル録音を聴くと、同じように低声部はしっかりと響かせながらも、決して「鈍重」なモーツァルトとは感じません。オケはモダン楽器の特性をいかした壮麗な響きを保持しながら、ワルターの棒に機敏に反応しているように聞こえます。結果として音楽は「鈍重」になることなく生き生きとした活力に満ちています。
おそらく、ここに「現役」の指揮者として活動している時と、「引退」した指揮者の「昔語り」との違いがあるのでしょう。
ワルターは戦前のSP盤の時代から、最晩年のステレオ録音の時代まで数多くのモーツァルト演奏を録音として残しています。別のところでも書いたことですが、その長い活動の中で演奏スタイルを大きく変えていったのがワルターの特長です。
そして、その長い活動の中の「昔語り」に属する演奏が、ワルターを代表する業績として世間に広く流布して、それでもって彼の評価がされるようになったということは実に不幸なことでした。これは、ニューヨーク時代のモノラル録音のリリースに積極的でなかったSONYの責任が大きいのですが、それもまたコロンビア響とのステレオ録音を売らんがための戦略だったとすれば悲しいことです。
しかし、幸いなことに、ワルターのモノラル録音のほぼすべてがパブリックドメインの仲間入りを果たしました。今後、ネット上で広く流布することを通してワルターへの再評価が進めばこれほど嬉しいことはありません。
なお、モノラル録音の時代にもオケが「コロンビア交響楽団」となっているものがありますが、これは最晩年のステレオ録音のために特別に編成された「コロンビア交響楽団」とは全く別の団体です。
その実態は明確ではありませんが、おそらくはニューヨークフィルのメンバーを主体にしてそこにメトのメンバーが加わった臨時編成のオケだったと思われます。ちなみに、ステレオ録音を担当した「コロンビア交響楽団」の方はロサンジェルスフィルを主体とした50人程度の小規模なオケだったと言われています。
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よせられたコメント
2008-09-28:ワルターの1つの頂点はこれ
- 29番は、コロンビア交響楽団で入れなおさなかったのは、ワルター自身がこの演奏に満足しきったからではないでしょうか。ワルターは穏やか、で済ませられない鮮やかさ、ニュアンスの細かさ、と絶賛したいです。ところで、最近のコメントには?と思われることがあります。
39番のコメントの方、それはセルじゃなく、ワルターですよ。その少し前のモイーズのフルートコンチェルトのコメントの方、1930年の録音であれだけ笛の音が入ってるのですから、ゴールウェイはさて置き、相当程度頑張ってる名演だと指摘しておきたいです。
2009-03-07:モーツァルト好き
- 些細な事で、イライラしていたとき、この曲を聴きました。 最初のメロディを聴いただけで、心に引っかかっていた棘が、すっとぬけたような気がしました。 ワルターの豊満な、たっぷりな演奏が大好きです。
2009-07-19:W. Amadeus M.
- 最初、こちらのサイトでシェルヒェンの演奏を聴いて「おそっ」と思いましたが、Youtubeで聞くと、ベームもそんなテンポで、あれはウィーンの伝統なのでしょうか? あれもいいですが、このワルターのさわやかなテンポがやはり好きです。
しかし、この第一主題の、半小節遅れてのカノンに、改めてモーツァルトの対位法的な熟練の技を見る思いです。
2012-10-10:YK
- これほど、若々しくはつらつとした29番を他に知りません。
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