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Home|シューリヒト(Carl Schuricht)|モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調 "ハフナー" K.385

モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調 "ハフナー" K.385

カール・シューリヒト指揮:ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1956年6月3日~6日録音



Mozart:Symphony No.35 in D major, K.385 "Haffner" [1.Allegro con spirito]

Mozart:Symphony No.35 in D major, K.385 "Haffner" [2.Andante]

Mozart:Symphony No.35 in D major, K.385 "Haffner" [3.Menuetto]

Mozart:Symphony No.35 in D major, K.385 "Haffner" [4.Presto]


悩ましい問題の多い作品です。

一般的に後期六大交響曲と言われる作品の中で、一番問題が多いのがこの35番「ハフナー」です。

よく知られているように、この作品はザルツブルグの元市長の息子であり、モーツァルト自身にとっても幼なじみであったジークムント・ハフナーが貴族に列せられるに際して注文を受けたことが作曲のきっかけとなっています。
ただし、ウィーンにおいて「後宮からの誘拐」の改訂作業に没頭していた時期であり、また爵位授与式までの日数もあまりなかったこともあり、モーツァルトといえどもかなり厳しい仕事ではあったようです。そして、モーツァルトは一つの楽章が完成する度に馬車でザルツブルグに送ったようですが、かんじんの授与式にはどうやら間に合わなかったようです。(授与式は7月29日だが、最後の発送は8月6日となっている)

それでも、最終楽章が到着するとザルツブルグにおいて初演が行われたようで、作品は好評を持って迎えられました。
さて問題はここからです。
よく知られているように、ハフナー家に納品(?)した作品は純粋な交響曲ではなく7楽章+行進曲からなる祝典音楽でした。その事を持って、この作品を「ハフナーセレナード」と呼ぶこともあります。しかし、モーツァルト自身はこの作品を「シンフォニー」と呼んでいますから、祝典用の特殊な交響曲ととらえた方が実態に近いのかもしれません。実際、初演後、日をおかずしてこの中から3楽章を選んで交響曲として演奏された形跡があります。

そして、このあとウィーンでの演奏会において交響曲を用意する必要が生じ、そのためにこの作品を再利用したことが問題をややこしくしました。
馬車でザルツブルグに送り届けた楽譜を、今度は馬車でウィーンに送り返してもらうことになります。しかし、楽譜は既にハフナー家に納められているので、レオポルドはそれを取り戻してくるのにかなりの苦労をしたようです。さらに、7楽章の中から交響曲に必要な4楽章を選択したのはどうやら父であるレオポルドのようです。

こうしてレオポルドのチョイスによる4楽章で交響曲として仕立て直しを行ってウィーンでのコンサートで演奏されました。ところが、後になって楽器編成にフルートとクラリネットを追加された形での注文が入ったようで、時期は不明ですがさらなる改訂が行われ、これが現在のハフナー交響曲の最終の形となっています。
つまりこの作品は一つの素材を元にして4通りの形(7楽章+行進曲・3楽章の交響曲・4楽章の交響曲・フルート・クラリネットが追加された4楽章の交響曲)を持っているわけす。
一昔前なら、最後の形式で演奏することに何の躊躇もなかったでしょうが、古楽器ムーブメントの中で、このような問題はきわめてデリケートな問題となってきています。とりわけ、フルートとクラリネットを含まない方に「この曲にぼくは全く興奮させられました。それでぼくは、これについてなんら言う言葉も知りません。」と言うコメントをモーツァルト自身が残しているのに対して、フルートとクラリネットありの方には何のコメントも残っていないことがこの問題をさらにデリケートにしています。

やはり今後はフルートとクラリネットを入れることにはためらいが出てくるかもしれません。


Deccaでのウィーンフィルとの最後の録音

この「未完成」の録音には有名なエピソードが残されています。それは、この録音を担当したカルショーが酷評を書き残しているのです。
ただし、その酷評の前提としてカルショーは最初に次のようにぼやいています、
ウィーン・フィルと上手く折り合えるようになるまでには、長い時間がかかった。ウィーンの町そのものも、とても好きになれそうになかった。なんというか、許し難い偏狭さを感じたからである。

Deccaにとってウィーンはオロフの根城であり、カルショーの活動の拠点はロンドンでした。そんなウィーンでオロフの後始末として任されたのがこの「未完成」を筆頭とした一連の録音だったのです。

彼はその鬱憤を晴らすかのように言葉を続けています。
彼はシューリヒトとはパリで仕事をしたことがあるが、ウィーンではもう老衰していたとぼやき、「未完成交響曲の第1楽章を、全てテンポの異なる11の解釈で演奏した」と述べているのです。
オーケストラがウンザリしたのは当然のことで、理事会は私に文句を言うだけでなく、チューリッヒとロンドンに電報を打って、指揮者を十分に管理できない私が悪いのだと訴えた。

まさにボロクソであり、それに続いて退屈なアリアの録音と、サロメの最終場面を指揮者としては最悪の選択であるクリップスの指揮で録音することを押しつけられたとサラにぼやいているのです。

しかし、残されたこの録音を聞いてみると、シューリヒトらしいスッキリとした見通しの良い、実に気持ちのいい演奏になっているように思われます。確かに重量感には乏しく淡泊にすぎるという見方も出来ますが、オーケストラの統率に不安定さは感じさせません。もっとも、あまりにも軽くてあっさりしすぎているという感じもするでしょうが、そう言う淡泊さの奥にシューリヒトらしいおさえた熱情も十分に感じ取れます。
しかし、カルショーはなんの根拠もなく悪口を言う人でもないので、カルショーにしてみればやっとの思いでそこまで仕上げたという思いはあったのでしょう。

しかし、カルショーのこの記述の中で少し不公平だと思うのは、もう一つ並行してモーツァルトのハフナーを録音していることにはふれていないことです。
このハフナーの録音は文句なく素晴らしい演奏であり、シューリヒトの面目躍如たるものがあります。シューリヒトはこの年の1月にモーツァルトの生誕200年記念演奏会コンサートでハフナーを演奏していますし、12月にも国連会議場での「人権デー」の記念コンサートでハフナーを演奏しています。オケはともにウィーン・フィルです。
それらは、どちらもセッション録音とは異なる実に熱い演奏で、このシューリヒトという指揮者の一筋縄ではいかない複雑さを感じとらせてくれます。

「ウィーンではもう老衰していた」というカルショーの言葉は、あれやこれやの鬱憤がたまった末の言い過ぎだったのかもしれません。
ただし、その後何があったのかが分かりませんが、シューリヒトがDeccaでウィーンフィルと録音を行ったのはこの時が最後となりました。
やはり、何らかの悶着があったのかもしれません。

この演奏を評価してください。

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