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ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 Op.67

ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1962年7月24日&25日録音

Beethoven:Symphony No.5 in C Minor Op.67 [1st movement]

Beethoven:Symphony No.5 in C Minor Op.67 [2nd movement]

Beethoven:Symphony No.5 in C Minor Op.67 [3rd movement]

Beethoven:Symphony No.5 in C Minor Op.67 [4th movement]


極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。

交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。

この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803?4年にかけて創作されています。)

しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。

そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。

その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。

それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)

それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。


時代を超えた演奏

残念なことにほとんど話題にならない録音です。
どこかにも書いたことがあるのですが、この60年代の初頭というのはベートーベン激戦区の時代です。全集だけでも、思いつくだけで以下の通りです。


  1. クリュイタンス指揮 ベルリンフィル 1957年~1961年録音

  2. クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1957年~1961年録音

  3. シューリヒト指揮 パリ音楽院管弦楽団 1957年~1958年録音(これのみモノラル録音)

  4. ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1958年~1959年録音

  5. コンヴィチュニー ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管 1959年~1961年録音

  6. レイホヴィッツ指揮 ロイヤルフィル 1961年録音

  7. クリップス指揮 ロンドン交響楽団 1961年録音

  8. カラヤン指揮 ベルリンフィル 1961年~1962年録音



ここに、セル&クリーブランド管やバーンスタイン&ニューヨークフィルなどの録音も始まっていて参入してきていました。
そう言う中に、ドラティ&ロンドン響と言う地味な組み合わせで5番「運命」・6番「田園」・7番という3作品だけで参入してもなかなか話題になるのは難しかったでしょう。

ですから、私も一連のドラティの録音を漁っている中ではじめて聞きました。
そして、本当にびっくりしてしまいました。

聞く前から想像されたことですが、とんでもなくパキパキとした演奏です。よく言えばリズムが立っているというのか、とにかくオケの整理の仕方が尋常ではないです。そして、その整理されきったオケの響きをとらえるマーキュリーの録音が尋常ではない凄さです。この録音に古さを感じる人もいりようなのですが、とても私には信じられません。
はっきり言って音楽のガタイは小さいです。そう言う意味では後年の古楽器による演奏を思わせる風情があるのですが、根本的にオケの響きのクオリティが違います。ここでは、あんな風邪をひいたオケみたいな貧相な音はどこを探しても見つかりません。そして、どの録音も最後のフィナーレは見事なまでの盛り上がりを聞かせてくれます。
この3つの録音の中では一番行儀が良くてこぢんまり感の強い7番でも、最後のフィナーレは堂々たるものです。
そう言う意味では、これを60年代の初頭においてみると、レイホヴィッツの録音などと同様に時代の制約を超えた演奏だと言えます。

オーケストラの実際の響きというのは意外と「軽い」です。
これは、コンサートによく足を運ぶ人にとっては常識なのですが、常日頃はオーディオでしか音楽を聴かない人がたまにコンサートに出かけると「低域が不足している!」などと叫んでしまうことが多いようです。(ついでに言えば「定位が甘い」もあるそうです)
笑ってしまいますが、笑ってはいけないですね。
でも、このマーキュリーの録音は、そう言う実際のオケの響きを質に上手くすくい取っています。見事なものです。6番「田園」の清涼感あふれる響きを聞かされると、実際のロンドン交響楽団はどれほど素晴らしい響きを実現していたんだろうと思わずにはおれません。5番「運命」の響きも同様です。
そして、ドラティの指揮はそのような機能性に徹しているように見えながら、その背景から彼の人間性がにじみ出てくるような味わいも不足していないのです。
全く持ってたいした指揮者です。

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