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Home|バルビローリ((Sir John Barbirolli)|ベートーベン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調  「皇帝」 作品73

ベートーベン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調  「皇帝」 作品73

バルビローリ指揮 (P)ミンドル・カッツ ハレ管弦楽団 1959年4月録音



Beethoven:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調  「皇帝」 作品73 「第1楽章」

Beethoven:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調  「皇帝」 作品73 「第2楽章」

Beethoven:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調  「皇帝」 作品73 「第3楽章」


演奏者の即興によるカデンツァは不必要

ピアノ協奏曲というジャンルはベートーベンにとってあまりやる気の出る仕事ではなかったようです。ピアノソナタが彼の作曲家人生のすべての時期にわたって創作されているのに、協奏曲は初期から中期に至る時期に限られています。
第5番の、通称「皇帝」と呼ばれるこのピアノコンチェルトがこの分野における最後の仕事となっています。

それはコンチェルトという形式が持っている制約のためでしょうか。
これはあちこちで書いていますので、ここでもまた繰り返すのは気が引けるのですが、やはり書いておきます。(^^;

いつの時代にあっても、コンチェルトというのはソリストの名人芸披露のための道具であるという事実からは抜け出せません。つまり、ソリストがひきたつように書かれていることが大前提であり、何よりも外面的な効果が重視されます。
ベートーベンもピアニストでもあったわけですから、ウィーンで売り出していくためには自分のためにいくつかのコンチェルトを創作する必要がありました。

しかし、上で述べたような制約は、何よりも音楽の内面性を重視するベートーベンにとっては決して気の進む仕事でなかったことは容易に想像できます。
そのため、華麗な名人芸や華やかな雰囲気を保ちながらも、真面目に音楽を聴こうとする人の耳にも耐えられるような作品を書こうと試みました。(おそらく最も厳しい聞き手はベートーベン自身であったはずです。)
その意味では、晩年のモーツァルトが挑んだコンチェルトの世界を最も正当な形で継承した人物だといえます。
実際、モーツァルトからベートーベンへと引き継がれた仕事によって、協奏曲というジャンルはその夜限りのなぐさみものの音楽から、まじめに聞くに値する音楽形式へと引き上げられたのです。

ベートーベンのそうのような努力は、この第5番の協奏曲において「演奏者の即興によるカデンツァは不必要」という域にまで達します。

自分の意図した音楽の流れを演奏者の気まぐれで壊されたくないと言う思いから、第1番のコンチェルトからカデンツァはベートーベン自身の手で書かれていました。しかし、それを使うかどうかは演奏者にゆだねられていました。自らがカデンツァを書いて、それを使う、使わないは演奏者にゆだねると言っても、ほとんどはベートーベン自身が演奏するのですから問題はなかったのでしょう。
しかし、聴力の衰えから、第5番を創作したときは自らが公開の場で演奏することは不可能になっていました。
自らが演奏することが不可能となると、やはり演奏者の恣意的判断にゆだねることには躊躇があったのでしょう。

しかし、その様な決断は、コンチェルトが名人芸の披露の場であったことを考えると画期的な事だったといえます。

そして、これを最後にベートーベンは新しい協奏曲を完成させることはありませんでした。聴力が衰え、ピアニストとして活躍することが不可能となっていたベートーベンにとってこの分野の仕事は自分にとってはもはや必要のない仕事になったと言うことです。
そして、そうなるとこのジャンルは気の進む仕事ではなかったようで、その後も何人かのピアノストから依頼はあったようですが完成はさせていません。

ベートーベンにとってソナタこそがピアノに最も相応しい言葉だったようです 。


綿々と歌い継いでいく第2楽章が魅力的です

バルビローリがベートーベンのコンチェルトを録音したのは、おそらくこれ一枚だけではないでしょうか。それほどに、歌う人のバルビローリと構築の人ベートーベンとは相性が悪いようです。
そして、何かの理由でバルビローリがベートーベンを取り上げなくてはいけなくなった時は、それはもう徹底的にバルビローリの色に染め上げてしまいます。ですから、選択の幅が広いベートーベンの作品を聞きたい時にバルビローリを選ぶ必然性はほとんど存在しません。なぜならば、バルビローリのベートーベンとは、ベートーベンを聴くための演奏ではなく、それはどこまで行ってもバルビローリを聴くための演奏だからです。

ですから、この「皇帝」とあだ名されたこのコンチェルトも、バルビローリに興味のある人にしかお勧めはできないでしょう。本来は勇壮な第1楽章も、「皇帝」と呼ばれるような雄々しさとは無縁ですから、大部分の人にとっては物足りなさを感じる演奏でしょう。

しかし、この録音の最大の聴き所は、ずばり、第2楽章です。この綿々と歌い継いでいくような表現がお気に召したならば、なかなかこれに匹敵するような演奏は他では見つかりません。そして、これこそがバルビローリの世界です。

なお、ピアニストのミンドル・カッツという人はルーマニア出身の人だと言うくらいしか分かりませんでした。ネットで検索しても、この録音のピアニストとして紹介されているものが大部分なので、ほとんど何も分かりません。
ただし、この録音を聞く限りは、テクニック的にはしっかりとした演奏で、ピアノの響きもさえざえとして悪くありません。

<追記>
コメント欄でカッツについての紹介ページを教えて頂きました。英語力は乏しいのですが、・・・なるほど、最後はイスタンブールでのリサイタルで「テンペスト」を演奏中に亡くなったようですね。わずか52歳という事で、まさにこれからという時の急逝だったので40年の年月の間に忘却の彼方に消えてしまったのでしょう。

ルーマニアでブカレストフィルとの共演でデビューし、その後は1957年にパリで西欧デビューを果たし、59年からは活動の本拠をイスラエルに移したようです。一緒に活動した指揮者として「Sir John Barbirolli, Sergiu Celibidache, Antal Doráti, Joseph Krips, Lorin Maazel」などがあげられています。バルビローリが最初にあげられていると言うことは、それだけ縁が深かったのでしょう。

かなりの実力者と見受けられるだけに残念な話です。

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